真偽不明の原潜承認

 下記の記事によると、「韓国訪問中のトランプ米大統領は30日、自身のSNSへの投稿で、韓国が原子力潜水艦を建造することを承認したと明らかにした。核兵器ではなく通常兵器を備えた原潜になる見通しで、米韓両政府は米国内での建造に向けた協議を本格化させる。トランプ氏は別の投稿で、韓国の原潜が米ペンシルベニア州フィラデルフィアで建造されるとの見通しを示した。」

 韓国の原潜保有には、米国内の法的問題及び韓国の財政問題という2つの問題があり、俄かに信じられなかった。


1 米国内の法的問題

 以前に述べたように、米国のAtomic Energy Act of 1954(2015年に改定され、20年間有効)原子力法第123条に基づく米韓原子力協定により、韓国は、米国から提供された核物質、機材、技術等を軍事目的に使用することなどが禁止されている。これに違反すれば、韓国は、米国に核物質や機材等を全て返却しなければならない。

 従って、たとえトランプ大統領が承認しても、法的には米韓原子力協定を改定しない限り、韓国が原潜燃料を調達・利用することはできない。

 そして、この米韓原子力協定を改定するには、米国議会の審査(90日)を経なければならないが、議会が反対しない限り承認されることになる。


 以前述べたように、米国政府は、韓国を国家安全保障や核不拡散などの観点で注意が必要な「敏感国」(センシティブ国)に指定しているので、この改定をめぐって米国議会が紛糾する可能性がある。

 このような法的問題があることから、この問題をクリアしない限り、トランプ大統領の発言は、中国向けに、左翼政権である韓国が米国側についたことや、米韓関係を強化する姿勢をアピールする政治的メッセージにすぎないことになる。


2 韓国の財政問題

 米国が核弾道ミサイルを発射できるオハイオ級型原潜(Ohio-class SSBN)を認めるとは思えない。オハイオ級型原潜の年間維持費は、約100億〜200億円かかる。


 そこで、米国のバージニア級攻撃型原潜(Virginia-class SSN)の一隻あたりの建造費と年間維持費を書いておこう。

・建造費(2012年現在):約35億~40億ドル(約5,000億~6,000億円) 

・年間維持費(運用費):おおよそ 5,000万~1億ドル(約75億~150億円)

   ※ 燃料棒交換・原子炉メンテナンス、乗組員給与、補給、修理などを含む。現時点では、物価高騰により、上記の2012年のデータよりも高額になっていると考えられる。


 そして、原潜一隻を常時運用(海上展開)させるためには、最低でも三隻が必要だ(Three-boat rule)。

 ①運用中(海上任務に就く)、②整備中(燃料交換や数か月から1年以上かかるメンテナンス)、③訓練・準備中(原潜は、数か月潜航するため、乗組員に休養が必要だから、交代要員である新しい乗組員の訓練が不可欠)というローテーションを組む必要があるからだ。

 従って、建造費と年間維持費も3倍必要になる。


 さらに、仮に原潜の耐用年数が30年だとすれば、維持費の合計は、30倍になる。


 韓国のGDPは、日本の約2分の1なのに、韓国の国家予算は、日本の約3分の2で、社会保障や国防費などの政府支出が経済規模に比べて大きい。

 

 従って、合計特殊出生率が世界一低く、国家の消滅が危惧されている韓国が原潜三隻を保有することは、ぎりぎり不可能ではないが、他の政府支出を削減しない限り、財政的には非常に重い負担になる。


3 韓国の意図

 韓国が財政的に極めて厳しい原潜保有を望む理由は、よく分からない。韓国の領海・EEZは、狭く、対北朝鮮向けには陸軍と空軍を強化すべきだからだ。


 下記の記事には、「防衛省が設けた「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」が9月、原子力潜水艦を念頭に「次世代の動力」を活用した潜水艦の導入検討を提言しました。」とある。

 韓国としては、「日本が持つなら、ウリたちも」ということなのかも知れない。

 おそらく米国との同盟強化よりも、米国から在韓米軍の駐留経費の大幅負担を求められているため、米国に依存しない軍事力を持ちたいのだろう。


 原潜は、大きな音がするとはいえ、長期間潜航できるので、北朝鮮や日米の監視網を潜り抜けられる可能性がある。


 また、北朝鮮が核兵器を持っているなら、我々も核兵器を持つべきだという世論が強いため、核兵器ではなく通常兵器を備えた原潜であっても、原潜さえ保有すれば、核兵器搭載可能なプラットフォームを確保できるので、準核保有国の地位を得ることができるから、国の威信を高揚できるだけでなく、日本よりも優位に立てるとでも考えているのだろう。


 実際に、韓国が原潜を保有すれば、軍事バランスが崩れるので、日本も原潜を建造することになるやも知れぬ。

 日本は、韓国とは異なり、核技術が独自技術なので、米国に頼る必要はないから、理論的には原潜の建造が可能だが、実際に建造したり運用したりするノウハウがないから、米国の協力が必要だろう。


 この点、下記の記事には、「自民党と日本維新の会が連立政権をつくるにあたって、政策の合意書を取り交わしました。その中に「長射程のミサイルを搭載し長距離・長期間の移動や潜航を可能とする次世代の動力を活用したVLS搭載潜水艦の保有についての政策を推進する」という項目があります。「VLS」はミサイルの垂直発射システムのことで、「次世代の動力」とは原子力のこととみられます。つまり、垂直にミサイルを発射できる原子力潜水艦を持とうということです。 これは中国などに対抗する日本の防衛力強化の一環という位置づけで合意された政策ですが、戦後日本の原子力政策の大転換にもなります。」とある。

 しかし、全固体電池が実用化されたら、大きな音がする原潜よりも、電池式でミサイル発射可能な大型潜水艦の方がよいと思う。所詮素人考えだが。


 米国が建造した原潜を韓国が魔改造するなどして、事故を起こし、日本海を核汚染しないように願うだけだ。





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