世の中には、変わった人がいる。自治体職員さんは、お客を選ぶことができないし、どんな人に対しても懇切丁寧に対応しなければならない。自治体職員さんの気苦労は、如何ばかりかと思う。
岐阜県土岐市(ときし)の市立図書館で迷惑行為を繰り返す女性に対して、入館禁止処分をしたところ、これに不服があるとして、その処分の取消と慰謝料40万円を求める訴訟の判決があった。
訴状や判決書を見ていないので、何ともコメントしようがないけれども、若干気になったことを書き留めておく。
記事には、「判決では、法令や条例には全面的かつ無制限の利用禁止ができる規定はなく」とあることから、おそらく全面かつ無制限の利用禁止処分をしたのだろう。
図書館法第10条の委任を受けて制定された土岐市図書館設置条例の第6条から再委任を受けて制定された土岐市図書館運営規則の第6条に基づいて、全面かつ無制限の利用禁止処分という不利益処分が行われているので、これは国の法令に基づく不利益処分であり(行政手続法第2条第4号柱書)、行政手続法の適用があるから(行政手続法第3条第3項)、行政手続法に基づく聴聞手続を経る必要があると解されるが(行政手続法第13条第1項第1号ニの「行政庁が相当と認めるとき」に無期限停止処分が当たることについては、学説上争いがない。)、この点については記事からは分からない。
土岐市図書館運営規則第6条は、図書館条例・規則によく見受けられる規定の表現ではないかと思う。「利用を禁止することができる」とあるので、裁量権が認められるから、明文の規定がなくても、「禁止」に条件や期限等の附款(ふかん)を付けることができるけれども、そもそも「禁止」しかできないため、柔軟性に欠ける。
ケース・バイ・ケースで柔軟に対応できるようにするために、例えば、土岐市図書館運営規則第6条を「利用を制限し、又は利用を禁止することができる」という表現に改めた方がベターだと思う。
土岐市図書館の場合、デジタル化された本をインターネットを通じていつでもどこでも24時間365日、図書館に来館しなくても借りて読むことができる『ときし電子図書館』を開設しているので、図書館の入館を禁止するが、『ときし電子図書館』の利用は認めるとか、「貸出冊数は1人10冊まで」で「貸出期間は2週間以内」という制限があるだけだが、1日の貸出回数は2回までに限るとか、柔軟な対応が取れるからだ。
cf.1図書館法(昭和二十五年法律第百十八号)
(設置)
第十条 公立図書館の設置に関する事項は、当該図書館を設置する地方公共団体の条例で定めなければならない。
cf.2土岐市図書館設置条例( 昭和46年12月27日条例第27号)
(設置)
第1条 市民の図書その他の資料に対する要求にこたえ、自由で公平な資料の提供を中心とする諸活動によって、市民の文化、教養、調査研究、レクリエーション等に資するため、図書館法(昭和25年法律第118号。以下「法」という。)第10条の規定に基づき、図書館を設置する。
(委任)
第6条 この条例に定めるもののほか、この条例の施行に関して必要な事項は、教育委員会規則で定める。
cf.3土岐市図書館運営規則 (昭和47年3月3日教育委員会規則第4号)
(目的)
第1条 この規則は、土岐市図書館設置条例(昭和46年土岐市条例第27号)第6条の規定に基づき、土岐市図書館(以下「図書館」という。)の運営等に関し、必要な事項を定めることを目的とする。
(入館者の心得)
第5条 入館者は、次の各号に掲げる事項を守らなければならない。
(1) 所定の場所以外に図書館資料を持ち出さないこと。
(2) 館内においては、静粛にし、他人に迷惑をかけないこと。
(3) 所定の場所以外で喫煙、飲食等をしないこと。
(利用の制限)
第6条 この規則若しくは館長の指示に従わない者に対して館長は、図書館資料及び施設の利用を禁止することができる。
<追記1>
私が指摘したように、土岐市が条例を改正して、「利用の制限」について明示する条文を新たに付け加えるそうだ。
<追記2>
令和4年1月27日、名古屋高裁は、「女性が図書館側から2度にわたり問題行動を指摘され、改善しなければ利用制限を受けることになる旨の通知を受けていたことに言及し、問題行動は職員らに多大な負担を生じうるものだったとして「利用の全面的禁止は必要かつ合理的だった」と認め」、第一審判決を取り消し、原告女性の請求を棄却した。
<追記3>
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