第26回参議院通常選挙の投票日7月10日(日)が近づくにつれて、選挙カーが騒音を撒き散らす頻度が上がる。うるさくてかなわん!
公職選挙法を改正してほしいものだ。
そこで、これに関連して、日本国憲法第7条第4号「国会議員の総選挙の施行を公示すること。」について述べようと思う。
例えば、清宮四郎著『法律学全集3 憲法 Ⅰ』(有斐閣)177頁は、「ここに、国会議員の総選挙というのは、衆議院議員について、その任期満了および衆議院の解散によって行われる「総選挙」、ならびに、参議院議員について、三年ごとに議員の半数について行なわれる「通常選挙」を含む。」と説明している。
他の教科書も、ほぼ似たようなことが書かれており、法学部の学生は、「あっそう」という感じで、何も疑問に思わずに、読み流してしまうのが通常だと思われる。
しかし、「議員の交代については、全部交代主義(任期は全部の議員について同時に終了するものとし、その任期終了の際、全部新しく議員を選任するものとする主義)と一部交代主義(任期満了の時期が議員によって異なるものとし、それにより、定期に、議員の一部が交代するものとする主義)とがある。」(宮沢俊義著・芦部信喜補訂『全訂日本国憲法』126頁)。
そして、「「総選挙」とは、通常は、議会の議員の全部交代の際に行われる選挙を意味する」(宮沢前掲書125頁)。
日本国憲法上、参議院議員は、常に半数改選である以上(第46条)、すべての国会議員がその任期を終了して全部交代することは決してないので、「国会議員の総選挙」は、そもそも憲法上あり得ないのだ。
つまり、「国会議員の総選挙」の「総」は、誤植なのだ。
なぜ誤植が生まれたのかというと、そもそもマッカーサー草案では、一院制が採られ(第41条)、皇帝に「Proclaim general elections;」総選挙の宣言(仮訳では「総選挙ヲ命ス」)の機能が与えられていたのだが(第6条)、改正の過程で衆議院と参議院の二院制が採られ、参議院議員について、三年ごとの半数改選が定められたのに(第42条)、うっかり第7条第4号で「総選挙」という言葉を温存してしまったことが原因だろうと思われる。
ついでにお話しすると、「Aその他B」は、その前に置かれるもの(A)とは別のものとしてその後に置かれるもの(B)が対等並列な関係に立つ場合に用いられ、BはAに準ずる別のものだ。
これに対し、「Aその他のB」は、その前に置かれるもの(A)がその後に置かれるもの(B)の一部として包含され、その例示である場合に用いられる。BはAを含む。換言すれば、全体(B)と部分(A)の関係に立つ。
「その他」と「その他の」は、「の」が入るかどうかで意味が変わるので、要注意だ。
日本国憲法第20条第3項、第21条第1項、第47条は、いずれの列挙事項も例示列挙であるから、「その他の」を用いるべきなのに、「その他」が誤用されている。
前述した「国会議員の総選挙」もそうだが、憲法学者は、誤植であることが分かっているはずなのに、なぜか教科書でこれを明示的に指摘しない。学問的誠実さに欠ける所業だ。
誤植を訂正するという名目で憲法改正が行われることを恐れているのではないか。
cf.1GHQ草案 1946年2月13日
Article VI. Acting only on the advice and with the consent of the Cabinet, the Emperor, on behalf of the people, shall perform the following state functions:
Affix his official seal to and proclaim all laws enacted by the Diet, all Cabinet orders, all amendments to this Constitution, and all treaties and international conventions;
Convoke sessions of the Diet;
Dissolve the Diet;
Proclaim general elections;
Attest the appointment or commission and resignation or dismissal of Ministers of State, ambassadors and those other state officials whose appointment or commission and resignation or dismissal may by law be attested in this manner;
Attest grants of amnesty, pardons, commutation of punishment, reprieves and rehabilitation;
Award honors;
Receive ambassadors and ministers of foreign States; and
Perform appropriate ceremonial functions.
Article XLI. The Diet shall consist of one House of elected representatives with a membership of not less than 300 nor more than 500.
cf.2GHQ草案の仮訳
第六条 皇帝ハ内閣ノ輔弼及協賛ニ依リテノミ行動シ人民ニ代リテ国家ノ左ノ機能ヲ行フヘシ即国会ノ制定スル一切ノ法律、一切ノ内閣命令、此ノ憲法ノ一切ノ改正並ニ一切ノ条約及国際規約ニ皇璽を欽シテ之ヲ公布ス
国会ヲ召集ス
国会ヲ解散ス
総選挙ヲ命ス
国務大臣、大使及其ノ他国家ノ官吏ニシテ法律ノ規定ニ依リ其ノ任命又ハ嘱託及辞職又ハ免職カ此ノ方法ニテ公証セラルヘキモノノ任命又ハ嘱託及辞職又ハ免職ヲ公証ス
大赦、恩赦、減刑、執行猶予及復権ヲ公証ス
栄誉ヲ授与ス
外国ノ大使及公使ヲ受ク
適当ナル式典ヲ執行ス
第四十一条 国会ハ三百人ヨリ少カラス五百人ヲ超エサル選挙セラレタル議員ヨリ成ル単一ノ院ヲ以テ構成ス
cf.3憲法改正草案
第七条 天皇は、内閣の補佐と同意により、国民のために、左の国務を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行ふこと。
第三十八条 国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。
第三十九条 両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。 両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。
第四十一条 衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。
第四十二条 参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。
cf.4日本国憲法(昭和二十一年憲法)
第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行ふこと。
第二十条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
② 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
③ 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
第四十二条 国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。
第四十三条 両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
② 両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。
第四十五条 衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。
第四十六条 参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。
第四十七条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
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