この記事だけでは少し分かりにくいので、補足しておこうと思う。
家計の場合には、収入が月給であることに対応して、その月の支出は、その月の収入で 賄うのに対して、地方公共団体の 場合には、税金が 1 年単位で入ってくるので、4 月 1 日から翌年の 3 月 31 日までを会計年度と呼び(地方自治法第 208条第 1 項。地方公営企業の場合は事業年度。地方公営企業法第 19 条)、その会計年度の支出(=その歳の支出なので、歳出という。)は、その会計年度の収入(=その歳の収入なので、歳入という。)で賄うことになっている(地方自治法第208条第2項)。これを会計年度独立の原則という。つまり、一年度単位でお金のやりくりをするわけである。
換言すれば、月収20万円の家庭が月60万円の贅沢な生活をすることはできず、月収20万円に見合った月20万円の生活をしなければならないのと同様に、地方公共団体もその会計年度に入ってくるお金に見合った支出、つまり財政運営をしていかなければならないわけだ。
しかし、翌年の3月31日までにすべての会計事務を終わらせることは困難なので、翌年の5月31日に財布の紐を締めるから(出納閉鎖日という。)、翌年の4月1日から5月31日までに(出納整理期間という。)、前年度の現金の出納(収納又は支出)を終わらせて下さいねということになっている。
出納閉鎖日を過ぎると、前年度に属する現金の出納が一切できなくなり、前年度に属する収入金が6月1日以降に領収された場合には、新年度の歳入として整理することになる。
会計年度経過後に至って歳入が歳出に不足するときは、換言すれば、形式収支が赤字のときは、翌年度の歳入を繰り上げてこれに充てることができる。これを翌年度歳入の繰上充用という(地方自治法施行令第166条の2前段)。この場合においては、そのために必要な額を翌年度の歳入歳出予算に編入しなければならない(地方自治法施行令第166条の2後段)。
要するに、翌年度の歳出予算(補正予算)に、翌年度の歳入を財源として繰上充用金を計上し、前年度へ支出することによって、前年度の赤字を補填(ほてん)するわけだ。翌年度歳入の繰上充用を繰り返し行っている自治体は、いわば自転車操業状態なので、財政がかなり危ないといえる。
この翌年度歳入の繰上充用は、会計年度が経過した後、すなわち翌年度の4月1日から5月31日までの間(出納整理期間)に行わなければならないというのが行政実例であるため、翌年度の5月31日までに議会の議決を得る必要がある。
さて、沖縄県の土木建築部港湾課が所管する2022年度の2つの特別会計(宜野湾港と中城湾港の整備事業)で合計約119万円の赤字であることが2023年6月上旬に出納事務局の指摘で発覚した。
出納整理期間中に赤字であることが判明しないというのは、全国的に見ても極めて異例だ。県の説明によると、決算作業の中で集計を誤り歳入を多く見積もったことが原因だそうだ。
前述したように、歳出は、その会計年度の歳入で賄わなければならないから(会計年度独立の原則。地方自治法第208条第2項)、決算上の赤字は、違法ということになる。
そこで、沖縄県は、翌年度歳入の繰上充用を行うための補正予算案を9月の県議会定例会に提出する方針を明らかにしたのだが、前述したように、翌年度歳入の繰上充用は、5月31日までに議会の議決を得なければならないから、これをとっくに過ぎた9月の定例会で県議会がこの補正予算案を可決したとした場合には、この翌年度歳入の繰上充用は、違法ということになる。
このように、沖縄県は、違法な赤字を解消するために、違法な翌年度歳入の繰上充用を行おうとしているわけだ。
<追記>
下記の記事によると、「出納閉鎖後の歳出入の不一致は違法で、県によると、都道府県では岩手の1953年度決算以来という」。
翌年度歳入の繰上充用を行うための補正予算案について、沖縄県議会は、「県の違法行為を議会が追認することになるとして「審理しない」との動議を提出し、全会一致で議決する方向で与野党会派が合意した。」
記事にもあるように、知事は、この補正予算案を専決処分することになろう。
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