災害弔慰金支給審査委員会

 災害弔慰金の支給等に関する法律第3条第1項は、「市町村(特別区を含む。以下同じ。)は、条例の定めるところにより、政令で定める災害(以下この章及び次章において単に「災害」という。)により死亡した住民の遺族に対し、災害弔慰金の支給を行うことができる。」と定め、これを受けて全国の市町村が災害弔慰金の支給等に関する条例を制定している。

 災害弔慰金の支給を受けることができるのは、災害による直接的な死亡の場合だけでなく、災害関連死の場合も含む。


  そして、同法第18条は、「市町村は、災害弔慰金及び災害障害見舞金の支給に関する事項を調査審議するため、条例の定めるところにより、審議会その他の合議制の機関を置くよう努めるものとする。」と定め、市町村に支給審査委員会の設置の努力義務を課している。


 下記の毎日新聞の「災害関連死 認定条例、三重県市町ほぼ未整備「遺族対応誤るおそれ」」という記事は、参考になる。

 大阪府内でも同様の状況にあり、三重県度会町(わたらいちょう)のように(cf.1)、大阪市は支給審査委員会を設置しているが(cf.2)、大阪府内の多くの市町村はこれを設置していないからだ。

 災害は、いつ何時起きるか分からない。早急に災害弔慰金の支給等に関する条例を改正して、支給審査委員会を設けるべきだろう。


 記事には触れられていないが、そもそも「災害関連死」は、法律用語ではなく、災害弔慰金の支給等に関する法律に定義規定が置かれていない。


 しかし、災害関連死とは、「当該災害による負傷の悪化又は避難生活等にお ける身体的負担による疾病により死亡し、災害弔 慰金の支給等に関する法律(昭和48年法律第82 号)に基づき災害が原因で死亡したものと認めら れたもの(実際には災害弔慰金が支給されていな いものも含めるが、当該災害が原因で所在が不明 なものは除く。)」と定義づけられている(平成 31 年4月3日内閣府政策統括官(防災担当)付 参事官(被災者行政担当)の各都道府県 災害弔慰金担当部(局)長宛事務連絡)。


 この定義からも明らかなように、災害関連死か否かは、医学問題ではなく、法律問題であって、「当該災害による負傷の悪化又は避難生活等にお ける身体的負担による疾病」と死亡との間に法律上の相当因果関係が認められるか否かで判断しなければならない。


 これには医学的知見を必要とするので、医師による鑑定等が不可欠であるが、①医学上の因果関係と法律上の相当因果関係は全く異なること、また、②法律上の相当因果関係がないことを理由に災害弔慰金不支給決定を行なった場合に、当該不支給決定は行政処分である以上、不支給決定が違法であるとして遺族が裁判所に取消訴訟を提起する可能性があることから、災害弔慰金支給審査委員会の委員には、法律の専門家である弁護士を選任しなければならないと解する。

 

 ところが、内閣府によると、「阪神・淡路大震災及び新潟県中越地震の際に設置された災害弔 慰金の支給審査委員会等は概ね下記のとおり。

〇委員の総数は4~7人 

〇委員構成職種等 

 ①医師(1~4人) 診療科目例:内科、外科、精神科、整形外科、 司法監察医 

 ②弁護士(1~3人) 

 ③市職員(1人) 担当部長当 

 ④その他 ・大学教授等 ・医療ソーシャルワーカー、ソーシャルワーカー」


 災害関連死か否かは、法律問題であるにもかかわらず、弁護士が1〜3人にすぎず、少数派であるだけでなく、法律の専門家ではない①③④が多数派を占めている。


 法律の専門家ではない者に法律上の相当因果関係を判断させることは、医者でない者が診察するようなものであって、不合理だ。

 医学上の因果関係は、複数ある因果関係の可能性の中から最も可能性が高いものはどれかという自然科学的なアプローチをするのに対して、法律上の相当因果関係は、相当か否か(通常あり得るか否か)というアプローチをするので、医学上の因果関係よりも法律上の相当因果関係の方が広いため、医師が多数派を占める場合には、災害関連死が認められる範囲が狭められる可能性があるからだ。


 災害弔慰金支給審査委員会は、弁護士のみによって構成するのがベストだろう。医師は、災害弔慰金支給審査委員会の専門委員(地方自治法第174条)として、調査のみを担当させるのが相当だ。


 なお、法律家には、弁護士のほかに、司法書士、行政書士、大学教授がいるが、後三者は、職務の性質上、法律上の相当因果関係を扱うことが皆無ないし少ないのに対して、法律上の相当因果関係を扱わない弁護士はいないから、実務家である弁護士が適任だと思われる。


 災害弔慰金支給審査委員会の委員には、地元の地域事情に精通している弁護士が望ましいが、その弁護士さんも被災している可能性があるので、事前に地元の弁護士会と協定を結んで、ご協力いただける弁護士さんを複数人ずつ確保できる体制を整えておく必要がある。


cf.1度会町の「災害弔慰金の支給等に関する条例( 昭和49年8月6日 条例第35号)」

(支給審査委員会の設置) 

第17条 町に、災害弔慰金及び災害障害見舞金の支給に関する事項を調査審議するため、支給審査委員会を置く。 

2 支給審査員会の委員は、医師、弁護士その他町長が必要と認める者のうちから、町長が任命する。 

3 前項に定めるもののほか、支給審査委員会に関し必要な事項は、町長が定める。


cf.2大阪市の「災害弔慰金の支給等に関する条例( 昭和49年4月1日 条例第29号)」

(支給審査委員会) 

第12条 災害弔慰金及び災害障害見舞金の支給に関する事項について、市長の諮問に応じて調査審議するため、大阪市災害弔慰金等支給審査委員会(以下「委員会」という。)を置く。 

2 委員会は、前項に規定する事項について、市長に意見を述べることができる。 

3 委員会の委員は、医師、弁護士その他市長が適当と認める者のうちから、市長が委嘱する。 

4 委員会の委員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も同様とする。 

5 前各項に定めるもののほか、委員会の組織及び運営に関し必要な事項は、市規則で定める。

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