日本ではまだまだその名は広く知られていないが、ジーン・シャープ著『独裁体制から民主主義へ 権力に対抗するための教科書』(ちくま学芸文庫)がいずれ日本でも必要になるやも知れぬ。
私は、左翼全盛の世の風潮に逆らって、学生時代から全体主義に反対する保守主義(真正自由主義)をコツコツと勉強してきたので、以前からジーン・シャープの名前とその理論の概要は知っていたが、実際にこの本を読んだのは、平成23年(2011年)だった。
独裁体制は、軍事力や警察力を独占している。独裁体制に暴力(テロも含む。)で対抗することは、独裁体制と同じ暴力の土俵に上がることを意味し、暴力と恐怖の連鎖を生み、国民はさらなる圧政に苦しみ、圧倒的武力を有する独裁体制の勝利に終わる。
しかし、独裁者は、協力者なしに一人で権力を行使することができない。独裁者がいくら命令しても、これを実行する協力者がいなければ、何もできないのだ。ならば、協力者が協力できない状況を作り出せば良い。
そこで、ジーン・シャープは、マハトマ・ガンジーの非暴力主義にヒントを得て、独裁体制に非暴力で対抗する戦術論と198の方法を考え、これを一冊の小著にまとめた。これが前掲書だ。原書は、1993年に出版された。
この本は、いまや世界中の人々に読まれ、実践されている。全体主義にシンパシーを感じている物知り顔の専門家やコメンテーターは、不倶戴天の敵であるジーン・シャープについて言及しないが、『独裁体制から民主主義へ 権力に対抗するための教科書』は、独裁体制に対する抵抗運動の理論的支柱になっているので、国際情勢を理解する上でも一読する必要があろう。
ただ、いきなりこの本を読むよりも、下記のドキュメンタリー番組『非暴力革命のすすめ 〜ジーン・シャープの提言〜』(2011年、イギリス)をご覧になった上で、この本を読まれた方が理解しやすいと思う。48分ほどの短い番組で、2012年にNHK BSで放送された日本語吹き替え版だ。
1983年にジーン・シャープが設立した「ALBERT EINSTEIN INSTITUTION アルバート・アインシュタイン研究所」のHPには、デジタルライブラリーがあり、ジーン・シャープの著書や論文が世界中の言語に翻訳され、無料で読むことができる。もちろん、日本語訳もある。
世界中の独裁体制は、決して手をこまねいているわけではない。ジーン・シャープの戦術を研究し、対抗策を講じている。例えば、共産党一党独裁の中国では、従来の密告制度をはじめとする監視体制に加えて、盗聴、インターネットの検閲、顔認証、監視カメラ、電子決済などのハイテクを駆使して、非暴力革命の芽をシラミ潰しに潰している。
日本でこの教科書を実践せねばならない不幸な事態が到来しないことを切に願う。
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