下記の記事によると、沖縄県が「琉球新報社に対し、印刷機更新の費用として8億5300万円を長期無利子貸し付けする予算案を上程した」ことについて、県議会議員の島袋氏(自民党)は、「沖縄タイムス社と琉球新報社が印刷機の共同購入を目指しながら断念した経緯などに触れ「自分たちで買うのが大変だから、税金で買ってくれと言っている。(他の地方公共団体で)ふるさと融資を新聞社のために使っているところはない」と指摘」したそうだ。
住民の権利を制限したり義務を課したりする侵害行政については、法律(条例を含む。)の根拠が必要であるという侵害留保説が行政実務の考え方だ。
この侵害留保説に従えば、補助金の交付や貸付のような住民に権利利益を与える給付行政については、法律の根拠が不要ということになる。
ただし、給付行政に関して法律や条例があれば、それに従わなければならない(法律の優位の原則)。
この点、地方公共団体の金銭の貸付けについては、その存在を前提とする規定(地方自治法施行令第171条の6第5号等)があるものの、「公益上の必要」が求められる寄附・補助(地方自治法第232条の2)とは異なり、貸付けを規制する法令の規定はない。 また、「物品」から「現金」が除かれているため(地方自治法第239条第1項第1号)、地方自治法第237条第2項の適用もない。
従って、地方公共団体の長が(地方自治法第149条第2号・第6号)、その裁量により、金銭消費貸借契約(民法第587条)を締結することによって貸付けを行うことができると解される。
しかし、公益上の必要性がないのに長の特別縁故者に無利子で貸し付けたり、貸付金が返済されなかったりする等、貸付けの運用如何によっては、地方公共団体の財政に直接の影響を及ぼすおそれがある。
この点、「貸付 けの判断は、支出負担行為を行う担当機関の合理的な判断にゆだねられているといえ、当該貸付けについての公益性、 償還可能性、担保の徴求の程度、法令遵守等の諸般の事情から、その判断が著しく不合理である場合には、裁量の逸脱・ 濫用が認められ、貸付けが違法となり、貸付けにかかる支出負担行為が不法行為になり得る」とする判決がある(京都 地判平22.7.22)。
ただ、公益上の必要性があれば、寄附・補助が認められる以上、例えば、生活困窮者に対する一時的
な貸付けのように、返済の見込みが十分でなかったり、担保がなかったりしても、公益上の必要性があれば、貸付けが
認められる場合もあると思われる。不公正・不平等な貸付けがなされぬように条例又は規則で手続等を定めることが望
ましい。
この点、沖縄県は、沖縄県地域総合整備資金貸付規程(平成2年5月18日告示第453号)を定めている。これは、条例や規則ではなく、訓令を告示したものにすぎない。
琉球新報社への長期無利子貸付は、この沖縄県地域総合整備資金貸付規程に基づくものであり、同規程第3条第1項第1号の「公益性、事業採算性、低収益性等の観点から実施されること。」という要件を充しているという県の判断が著しく不合理であるかどうかの問題に帰着するだろう。
このような法的な問題とは別に、第四の権力と言われるマスメディアの役割の一つである監視機能との関係で県から貸付を受けることで、県庁や玉城デニー知事と琉球新報社との癒着が疑われ、マスメディアの独立性やマスメディアの在り方が問われることもあろう。
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