愛知県「豊橋市の12月定例議会は26日の最終本会議で、議会の議決を経て結ばれた契約を解除する場合にも議決を必要とする条例の一部改正案を可決し、閉会した。改正案は、新市長による新アリーナ計画の契約解除方針に反発する計画推進の会派が突如提案した。長坂尚登市長は、法的精査の必要性を指摘していて、火種がくすぶりそうだ。」
まず、おさらいをしよう。
契約の締結は、予算の執行に当たり、法令又は予算に基づいて行われるから、契約の締結は、長の権限に属するが(地方自治法第149条第2号)、その種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める一定の契約については、議会の議決が必要である(地方自治法第96条第1項第5号から第8号まで、地方自治法施行令第121条の2・別表第3・第4)。
この条例で定める一定の契約は、地方公共団体の大きな財政負担となるので、契約の基本的な事項の適否を議会にチェックさせる趣旨である。したがって、議会の議決を経た契約について、契約内容を変更するには、地方公共団体への財政的影響を再度考慮する必要があるので、再度議会の議決が必要であると解される(結論同旨・行政実例昭和44年2月6日)。
この議会の議決は、既に成立している契約に対して、議会が事後的に承認を与えるという意味ではなく、長に対して新たに契約締結権限を与えるものである。したがって、長は、落札者等とあらかじめ仮契約を締結した上で、議会の議決を待ち、議決後に本契約を締結することになる。
そして、地方自治法第96条第1項各号列記を除くほか、普通地方公共団体は、条例で普通地方公共団体に関する事件(法定受託事務に係るものにあつては、国の安全に関することその他の事由により議会の議決すべきものとすることが適当でないものとして政令で定めるものを除く。)につき議会の議決すべきものを定めることができる(地方自治法第96条第2項)。
つまり、意思決定機関としての議会の機能を強化するため、地方自治法第96条第1項各号列記以外の事項について、条例で議決事件に追加できることとされている。
あくまでも意思決定機関としての議会の機能を強化するためである以上、法令によって長その他の執行機関の権限に属するとされているものや、事務の性質等から、当然に長その他の執行機関の権限にもっぱら属すると解されるものについては、議会が長その他の執行機関の権限に干渉することを慎まなければならないから、地方自治法第96条第2項に基づき議決事件に追加することはできないと解される(結論同旨・総行行第68号平成24年5月1日)。
さて、いよいよ本題。条例の規定により議会の議決を経て締結された契約を解除するにも議会の議決を要する旨の議決事項の追加条例を制定することができるのだろうか。地方自治法に規定がないことから問題となる。
今まで考えたことがなかったが、思考実験の良い教材だ。
契約の解除は、はじめから契約を無かったことにするという意味で、究極の契約内容の変更だと考えれば、再度の議会の議決が必要だということになるから、議会の議決を要する旨の議決事項の追加条例を制定することができることになろう。
しかし、契約の解除は、契約を解消する行為であって、契約の存続を前提とする契約内容の変更とはその性質を異にするので、両者を同一視することはできない。
契約の締結が長の権限に属する以上、その解除もまた長の権限に属するものと解される。条例で定める一定の契約の締結について議会の議決が必要な場合には、その議決によってはじめて長に契約締結権限が与えられることになるが、その契約の解除については、地方自治法はなにも定めていないのだから、通常の契約の解除と別異に解すべき理由はなく、長の権限に属するものと解される。
そもそも条例で定める一定の契約の締結について議会の議決が必要だとされたのは、地方公共団体への財政的影響を考慮してこれを慎重に行わせるためである。
そうであるとすれば、契約の解除は、契約の拘束力から解放するものにすぎず、それ自体は財政的影響を生じないから、契約の解除を議会の議決事項として追加することは、長の権限に不当に干渉することになる。
したがって、条例の規定により議会の議決を経て締結された契約を解除するにも議会の議決を要する旨の議決事項の追加条例を制定することはできないと解する。かかる条例は、地方自治法第96条第2項に反し違法だ。
調べてみたら、行政実例も、議会の議決を経た土地売買契約を解除するには、議会の議決を要しないと解している(行政実例昭和33年9月19日)。
皆さんは、どのようにお考えだろうか?
<追記1>
<追記2>
1月14日、「長坂市長は「契約の解除は市の権限であり、条例案は議会の権限を越える内容で地方自治法に反している」として、市議会に再議を申し入れ」た。
<追記3>
1月29日、「愛知県豊橋市の新アリーナ建設計画を巡り、契約解除には議会の議決が必要とする条例案について、市議会の臨時会で再議が行われ、再び可決されました。」
市長は、地方自治法第176条第5項に基づいて愛知県知事に対して、当該議決があった日から20日以内に審査を申し立てることができる。
愛知県知事が当該議決を取り消す旨の裁定を下した場合に、これに不服がある市議会議長は、当該裁定があった日から60日以内に、地方自治法第176条第7項に基づいて、裁判所に出訴することができる
cf.地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)
第百七十六条 普通地方公共団体の議会の議決について異議があるときは、当該普通地方公共団体の長は、この法律に特別の定めがあるものを除くほか、その議決の日(条例の制定若しくは改廃又は予算に関する議決については、その送付を受けた日)から十日以内に理由を示してこれを再議に付することができる。
② 前項の規定による議会の議決が再議に付された議決と同じ議決であるときは、その議決は、確定する。
③ 前項の規定による議決のうち条例の制定若しくは改廃又は予算に関するものについては、出席議員の三分の二以上の者の同意がなければならない。
④ 普通地方公共団体の議会の議決又は選挙がその権限を超え又は法令若しくは会議規則に違反すると認めるときは、当該普通地方公共団体の長は、理由を示してこれを再議に付し又は再選挙を行わせなければならない。
⑤ 前項の規定による議会の議決又は選挙がなおその権限を超え又は法令若しくは会議規則に違反すると認めるときは、都道府県知事にあつては総務大臣、市町村長にあつては都道府県知事に対し、当該議決又は選挙があつた日から二十一日以内に、審査を申し立てることができる。
⑥ 前項の規定による申立てがあつた場合において、総務大臣又は都道府県知事は、審査の結果、議会の議決又は選挙がその権限を超え又は法令若しくは会議規則に違反すると認めるときは、当該議決又は選挙を取り消す旨の裁定をすることができる。
⑦ 前項の裁定に不服があるときは、普通地方公共団体の議会又は長は、裁定のあつた日から六十日以内に、裁判所に出訴することができる。
⑧ 前項の訴えのうち第四項の規定による議会の議決又は選挙の取消しを求めるものは、当該議会を被告として提起しなければならない。
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