「首都の封鎖あり得る」?

 3月23日、東京都の小池知事は、新型コロナウイルスの大規模な感染拡大が認められた場合、首都の封鎖=ロックダウンもあり得ると述べた。

 この記者会見を見て、ロックダウンなんて法的にでけへんで!と思わずツッコミを入れてしまった。


 3月14日に改正された新型インフルエンザ等対策特別措置法においても、感染を防止するための協力要請等を行うことができるだけであって、都市封鎖なんてできない。

 すなわち、「特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、当該特定都道府県の住民に対し、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間並びに発生の状況を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間及び区域において、生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができる。」(同法第45条第1項)。


 これに対して、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に基づく「交通の制限又は遮断」によって都市封鎖を行うことは可能だ。

 すなわち、「都道府県知事は、一類感染症のまん延を防止するため緊急の必要があると認める場合であって、消毒により難いときは、政令で定める基準に従い、七十二時間以内の期間を定めて、当該感染症の患者がいる場所その他当該感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある場所の交通を制限し、又は遮断することができる。」(同法第33条)。

 しかし、現時点では、武漢ウイルスは、一類感染症に指定されていないので、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律による交通の制限又は遮断はできない。仮に武漢ウイルスが一類感染症に指定されたとしても、交通の制限又は遮断ができるのは、たった3日(72時間)以内に限られ、諸外国のような長期にわたる都市封鎖は、法改正がなされるか特別法が制定されるかしない限り、できない。

 

 小池知事に法的知識が乏しいとしても、都庁には優秀な職員さんが多くいるのだから、現時点で法的に可能なことと不可能なことは何かとご相談なさればよろしいのに、ご相談なさらなかったのだろう。オーバーシュート、ロックダウンという新しいカタカナ語を使ってみたかったのだろうか。


 過去にも誰にもご相談せずに思い付きで仰ったのではないかと思われるケースがあった。平成28年7月6日に自民党の推薦を得ずに都知事選への出馬を表明した小池百合子氏は、選挙公約の一番目に都議会の 「冒頭解散」を掲げられたが、衆議院の解散とは異なり、長が議会を解散できるのは、長に対する不信任議決(地方自治法第178条第3項)又はこれを行ったとみなすことができる場合(地方自治法第177条第4項)に限られ、自由な解散はできない。議会解散権は最後の調整手段だからだ。このような法的知識がないのは仕方ないとしても、当時の小池氏のブレーンには、元検事で弁護士の若狭勝氏等がいたのだから、冒頭解散できるかどうか、ちょっとご相談なさればよろしいのにご相談なさらなかったのだろう。おかげで法的にできもしないことを選挙公約の一番目に掲げて、大恥をかいたわけだ。今ではこの件については素知らぬ顔をしておられるらしい。


 

 



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