2024.10.25 12:53形式ではなく実質が大事 学生時代にある弁護士さんから聞いた話だが、交通事故の加害者から依頼を受けた場合に、すぐに書類を作成して、お見舞いの品を持って病院へ向かい、平身低頭でお見舞いの口上を述べるそうだ。 被害者が打ち解けて和やかな雰囲気になった頃を見計らって、持参した書類を手渡し、お見舞いに来た証しにサインしてくださいませんか、と口八丁手八丁(くちはっちょうてはっちょう)でお願いするそうだ。 その際、持参した書類のタイトルが「和解契約」や「示談書」というような法的なものを匂わせるものだと、被害者が警戒して、サインをしてくれないので、実際の中身は和解契約(民法第695条)だけど、「お見舞い」というタイトルにして、和解条項を小さい文字で書いたものにサインを求めると、あまり中身を...
2024.10.17 10:05代理母出産の法規制 情けないことに、我が国には、代理母出産の法規制がなく、無法状態になっている。歴代内閣・国会の怠慢以外の何ものでもない。 下記の記事によると、国内での代理母出産を禁止しているイタリアの議会が、国外で代理母を通じて子供を持つことを禁止する法案を可決したそうだ。違反した場合、最長で禁錮2年の実刑判決と最高100万ユーロ(約1億6000万円)の罰金が科せられる。 イタリアでは、同性カップルが養子縁組や体外受精で子供を持つことが認められておらず、今回の法律により国外で代理母出産をすることもできないことになった。
2024.06.08 05:58契約書解釈心得 明治十年十月十二日司法省丁第七十五號達によって公布された「契約書解釋心得」は、フランス民法第三編第三章第三節第五款「合意の解釈」の翻訳だ。 これは、フランス民法の翻訳をそのまま日本に用いようとした江藤新平の努力が部分的に実現したと言える。
2024.04.02 11:40愛を知らぬのか たまたま見つけた、拓殖大学政経学部教授 椎名規子『ローマ法における婚姻制度と子の法的地位の関係 ー欧米における婚外子差別のルーツを求めてー』(政治・経済・法律研究 Vol.20No.2,pp.4781)という論文を読んだ。 椎名氏が述べているように、「これまでローマ家族法における子の法的地位については,わが国ではほとんど研究されて来な かった」からだ。 忙しくて全35ページを読み通すのが面倒な場合には、最後の2ページに「まとめ」があるので、これを読めばよいだろう。下記をクリックすると、ダウンロードされるので、気をつけていただきたい。
2024.02.16 23:10なぜprescriptionが「時効」を意味するのか 「時効」とは、「ある事実上の状態が一定期間継続した場合に、真実の権利関係にかかわらず、その継続してきた事実関係を尊重して、これに法律効果を与え、権利の取得又は消滅の効果を生じさせる制度」をいう(内閣法制局法令用語研究会編『有斐閣法律用語辞典』)。 長く続く事実状態をそのままにしておく方が社会秩序を維持する上で妥当であると同時に、時が経てば争いある法律関係を明確にする証拠がなくなることが多く、さらにまた権利を有しながら長い期間これを行使しない者は、権利の上に眠れる者だから、保護に値しない。 そこで、「時効」が認められている。 この「時効」は、prescriptionの翻訳語なのだが、そもそもなぜprescriptionが「時効」を意味するのだろうか。 ...
2024.02.12 01:09「夫婦別姓こそが本来の日本の伝統」? 夫婦別姓こそが本来の日本の伝統だと言う人が後を絶たない。嘘を吐いてまでいわゆる「選択的夫婦別姓」を導入したいのだろう。 ナチス・ドイツの宣伝大臣であったヨーゼフ・ゲッベルスは、「嘘も百回言えば真実となる」と述べたらしいが、この言葉を地で行くプロパガンダだ。
2023.09.07 01:22自然人 昨日は、某市役所の民法研修に出講した。6時間(トイレ休息を含む。)で民法全般を講義しなければならず、ヘトヘトになった。 講義時間との関係で、お話できなかった自然人に関する余談を書いておこう。 自然人とは、法人に対する概念であって、生きている人間をいう。自然人は、出生から死亡に至るまで、権利義務の主体となり得る能力(権利能力)が認められている。 学生時代に、この「自然人」という法学用語を初めて目にした時に連想したのは、ジャングルで動物たちと暮らす「ターザン」だった。笑 というのは、「自然人」という言葉には、「未開人、または、社会の因習などに毒されていない、自然のままの人間」という意味があるからだ(『精選版 日本国語大辞典』小学館)。 そのため、「自然人...
2021.10.03 23:20「善意」と「悪意」1 日常用語と法律用語の乖離(かいり)? 民法を学び始めて戸惑った言葉の一つが「善意」・「悪意」だ。私だけでなく、世間の人も戸惑うようで、国立国語研究所は、次のように述べている(下線:久保)。 「一般的な意味での「善意」は「よい心,親切な心」という意味ですが,法律用語の「善意」は「ある事実を知らないこと」という全く異なる意味になります。「善意」の対義語である「悪意」も同様です。一般的な意味の「悪意」は「悪い心,人に害を加えようとする気持ち」ですが,法律用語では「ある事実を知っていること」という意味になります。このように同じ語であるのに,日常的に使われる時の意味と法律用語で使われる時の意味が異なるものがあるのです。」 「現在使われている法律用語の基盤は...
2021.09.29 23:36「保証」と「保障」1 法律学における「保証」と「保障」 法律学を学び始めた頃に戸惑った言葉の一つが「保証」と「保障」だ。 「保証」とは、一定の債務が履行されない場合に、その債務を主たる債務者に代わって履行する義務を負うことをいう(ex.民法第446条第1項)。cf.1民法(明治二十九年法律第八十九号)(保証人の責任等) 第四百四十六条 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。 2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。 3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。 これに対して、「保障」とは、相手方の地位、立場、権利利益等に保護を...
2021.09.28 23:13「意志」と「意思」 クレジットの話ばかりしていると、気が滅入るので、話題を変えよう。 法律学を学び始めたときに戸惑った言葉の一つが「意思(いし)」だ。日常生活では「意志」を用いているからだ。 慣れというものは恐ろしいもので、当初は違和感を覚えた「意思」を今では当たり前のように使っている。苦笑 「意志」も「意思」も、古来より、支那(しな。chinaの地理的呼称。)、そして日本で用いられており、意味が異なる。 「意志」は、紀元前2世紀に淮南(わいなん)王の劉安(りゅうあん)により編纂された『淮南子(えなんじ)』が初出で、目的のはっきりした考え、あることをしたいという思い、こころざしという意味で用いられている。 「意思」は、紀元後1世紀に王充(おうじゅう)が書いた『論衡(ろん...
2021.09.28 05:50クレジット その41 質屋の元祖 前述したように、春に穀物の種を貸し付けて、秋の収穫時に利子を付けて穀物で返済することを出挙(すいこ)と呼んだ。 当初は、国家が行う公出挙(くすいこ)が主流だったが、やがて民間でも貴族や寺院などが出挙を行うようになり、これを私出挙(しすいこ)と呼んだ。 そして、貨幣が流通するようになると、資本を蓄えた元遣隋使・遣唐使の留学僧・留学生などが、金利計算ができる能力を活かして、支那(シナ。chinaの地理的呼称。)から学んだ質(しち)を営むようになる。 平たく言えば、質というのは、貸主が借主にお金を貸す際に、返済の約束を守る担保として(借金のかたとして)、借主からその所有物(質物、しちぐさ)を預かって、返済期日を過ぎても借金の返済がない場合には...