時限条例 <追記あり>


 大阪府河内長野市議会が、市内で撮影された映画「鬼ガール!!」が10月9日公開されることに合わせて、鬼でまちおこしをしようと、9月11日、議員提案にかかる「河内長野市鬼でまちおこし条例」を全会一致で可決した(例規集と市議会のサイトをチェックしたが、現時点では同条例はアップされていない。)。

 同条例は、11月2日を「いい鬼の日」と定め、来年11月までの毎月2日を「鬼でまちおこし」の推進日として、鬼にまつわるイベントで地域を盛り上げるそうだ。

https://www.city.kawachinagano.lg.jp/uploaded/attachment/21116.pdf

https://www.city.kawachinagano.lg.jp/uploaded/attachment/21233.pdf


 河内長野市の奥河内と呼ばれる地域にある神ガ丘地区は、昭和29年4月1日の合併前の川上村の一部で、「鬼住」という地名だった。村人が鬼を退治したのが由来だそうだ。

 「鬼族」の少女が鬼であることを隠して高校生活を送る青春映画「鬼ガール!!」の舞台にふさわしいということで、河内長野市の全面協力のもと、撮影が行われたらしい。


cf.1 昭和29年3月22日 大阪府告示第155号

  地方自治法(昭和22年法律第67号)第7条第1項の規定により、昭和29年4月1日から、南河内郡長野町、三日市村、高向村、天見村、加賀田村及び川上村を廃し、その区域をもって河内長野市を設置する。


 興味深いのは、同条例が、映画上映に合わせて、令和3年11月2日までの時限法だという点だ。これまでの「まちおこしの条例」は、恒久的なものばかりだが、その唯一の例外かも知れない。

 

 時限法とは何かについて、簡単に解説しておこう。

 法令は、原則として、永久に効力を維持するが、①その法令を廃止する場合(その法令を廃止するための法令(廃 止法)の制定を要する。)、②その法令の有効期限終期(しゅうき))を規定する場合には、有効期限(終期)の到来によってそ の効力を失う。

 ③その法令を全部改正した場合には、旧法令を実質的に廃止したのと結果的に同様の状態になるが、全部改正の場 合には、あくまでも旧法令の効力が維持されるのであって、旧法令の効力自体が失われる①・②とは異なる。

 これらのうち、②の場合、すなわち、その法令の制定当初からあらかじめその法令の有効期限を定めた法令を時限 法限時法ともいう。)といい、その法令を制定することを時限立法という。いわば時限爆弾が爆発して消滅するよう なものである。

 時限法は、一定期間だけ適用される法令であるから、その内容は、一時的、暫定(ざんてい)的、応急的なものに すぎない。

 時限法は、その有効期限が到来することによって、なんらの廃止措置を講ずることなく、当然にその効力 を失う。これを法令の失効という。それ故、時限法は、当然に失効するので、失効法とも呼ばれる。


cf.2ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法(平成十四年八月七日法律第百五号)

附則第二条  この法律は、この法律の施行の日から起算して十五年を経過した日に、その効力を失う


 自然豊かな河内長野市は、何度も職員研修に招聘してくださった自治体の一つだ。そこで、映画が大ヒットして、観光客が急増することを期待したいが、一時的に観光客が増加したが、その後は鳴かず飛ばずだと、「一発屋条例」と呼ばれかねないので(笑)、ブームが長く続いて、時限法である当該条例が延命することを切に願っている。


 時限法には有効期限があるのに、延命することがあるのかと疑問に思われるかも知れないが、たまにある。

 例えば、特殊土壌地帯災害防除及び振興臨時措置法(昭和二十七年四月二十五日法律第九十六号)は、5年ごとに改正 されて延命し続け、附則第二項で「この法律は、平成三十四年三月三十一日限りその効力を失う。」とされているので、72 年も延命することになる。

 また、駐留軍関係離職者等臨時措置法(昭和三十三年法律第百五十八号)も延命し続けたが、 「この法律は、平成三十年五月十六日限り、その効力を失う。ただし、この法律の失効前に第十条の二第一項又は第二項 の規定による認定を受けた駐留軍関係離職者に係る当該認定の効力及び取消し並びに就職指導及び給付金に関しては、な おその効力を有するものとする。」とされた(附則第三項)。


<追記>11/10

 河内長野市議会事務局総務課のご好意で、例規集に搭載されていない「河内長野市鬼でまちおこし条例」を教えていただけたので、ここに転載させていただきます。この場をお借りして、改めて御礼申し上げます。


河内長野市鬼でまちおこし条例の制定について


河内長野市鬼でまちおこし条例を次のように定める。

河内長野市条例第  号    

 河内長野市鬼でまちおこし条例  

(目的)

第1条 この条例は、本市に伝わる、「鬼住」に由来する「鬼伝説」をテーマに本市の魅力向上の契機とするため、「いい鬼の日」を定めるとともに、市・関係者等による所要の取組及び協力により、地域活性化の機運を醸成し、地域経済を活性化することを目的とする。   

(いい鬼の日)

第2条 いい鬼の日は、11月2日とする。

2 毎月2日は、「鬼でまちおこし」の推進日とする。

(定義)

第3条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

 (1) 事業者 市内において事業を営む個人及び法人をいう。

 (2) 市民団体 市内において活動を行う諸団体(前号に掲げる者を除く。)をいう。

 (3) 市民 市内に在住し、又は市内に所在する学校、事業所等に通学 し、若しくは通勤する者をいう。

(市の役割)

第4条 市は、この条例の目的を達成するために、必要な施策を総合的に 実施するよう努めるものとする。

2 市は、前項の施策を策定し、実施するにあたっては、市民、事業者及 び市民団体と協力して、効果的にこれを行うよう努めるものとする。  

(事業者及び市民団体の協力)

第5条 事業者及び市民団体は、地域社会の一員として、本条例の目的に 基づき、自主的に本市の魅力発信を行い、市民が本市に誇りを感じられ るよう努めるものとする。  

(市民の協力)

第6条 市民は、本条例の目的に基づき、地域の伝統や文化を発信し、魅 力の再発掘を行うなど、市等が実施する取組に協力するよう努めるもの とする。  

(個人の嗜好等への配慮)

第7条 この条例に基づく取組及び協力にあたっては、個人の嗜好及び意 思を尊重するように配慮するものとする。  

(委任)

第8条 この条例の施行に関し必要な事項は、市長が別に定める。     

附 則   

(施行期日)

1 この条例は、公布の日から施行する。   

(この条例の失効)

2 この条例は、令和3年11月2日限り、その効力を失う。




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