「すべき」と「するべき」

Q.1 「解決すべき課題が多い。」と言いますか、それとも「解決するべき課題が多い。」と言いますか。

 A  解決すべき課題が多い。

 B  解決するべき課題が多い。

Q.2 「早く解決すべきだ。」と言いますか、それとも「早く解決するべきだ。」と言いますか。

 A  早く解決すべきだ。

 B  早く解決するべきだ。


 私は、いずれもAだ。


 2018 年 3月にNHKが実施した「日本語のゆれに関する調査」によると、Aが多数派だった。

https://www.nhk.or.jp/bunken/research/kotoba/pdf/20181201_6.pdf


 「べき」は、「べし」という言葉を活用させたものであって、文語(昔の書き言葉)で使われる助動詞だ。

 「す」は文語での終止形、「する」は現代口語での終止形だ。

 したがって、文語で一貫させれば、「すべき」になる。Aが多数派になるのには、理由があったわけだ。


 ところが、現代口語の「する」に文語「べき」を付けた「するべき」も、現代では必ずしも間違いではないそうだ。理由はよく分からんが。

https://www.nhk.or.jp/bunken/research/kotoba/20210401_3.html


 では、法令ではどちらが用いられているのだろうか。


 国の法律の中で「するべき」を用いているものが、9本もあった。

 例えば、消防法(昭和二十三年法律第百八十六号)第八条の二の二第四項は、「消防長又は消防署長は、防火対象物で第二項の規定によらないで同項の表示が付されているもの又は同項の表示と紛らわしい表示が付されているものについて、当該防火対象物の関係者で権原を有する者に対し、当該表示を除去し、又はこれに消印を付するべきことを命ずることができる。」と定めている。

 また、医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第六十七条第一項は、「都道府県知事は、第四十四条第一項、第五十五条第六項、第五十八条の二第四項(第五十九条の二において読み替えて準用する場合を含む。)若しくは第六十条の三第四項(第六十一条の三において読み替えて準用する場合を含む。)の規定による認可をしない処分をし、又は第六十四条第二項の規定により役員の解任を勧告するに当たつては、当該処分の名宛人又は当該勧告の相手方に対し、その指名した職員又はその他の者に対して弁明する機会を与えなければならない。この場合においては、都道府県知事は、当該処分の名宛人又は当該勧告の相手方に対し、あらかじめ、書面をもつて、弁明をするべき日時、場所及び当該処分又は当該勧告をするべき事由を通知しなければならない。」と定めている。


 自治体の条例の中で「するべき」を用いているものが、20本もあった。

 例えば、観光王国九州とともに輝く福岡県観光振興条例 (平成二十八年十月十一日 福岡県条例第四十五号)第九条第三項は、「知事は、特定広域観光振興法人が二事業年度以上の期間にわたり実施するべき事業に関する計画を定めるときは、適宜、その内容を議会に報告するものとする。」と定めている。

 また、鳥取県港湾管理条例( 昭和35年4月1日 鳥取県条例第6号)第八条は、「その責めに帰するべき事由により港湾施設を滅失し、又はき損した者は、知事の指示によって原状に回復し、又はこれによって生じた損害を賠償しなければならない。」と定めている。


 参議院法制局によれば、「昭和21年4月17日に公表された憲法改正草案は、画期的な平仮名・口語体を採用しました。これがターニング・ポイントとなって、以後新たに作成される法令案は、平仮名・口語体が原則となりました。ちなみに、最初の平仮名・口語体表記の法律は、同年7月23日に公布された郵便法の一部を改正する法律(昭和21年法律第3号)だとされています。」( 法律の[ 窓 ] 「法律の現代語化・平易化」)

https://houseikyoku.sangiin.go.jp/column/column003.htm


 「新たに作成される法令案は、平仮名・口語体が原則とな」った以上、今後ますます「すべき」に代わって「するべき」を用いる法令が増えることだろう。


 言葉は変化するものだから、口語体+文語体という首尾一貫しないヘンテコリンな「するべき」を用いる人が出てくるのは致し方ないけれども、国や自治体がわざわざ法律や条例でこれを用いて意図的に伝統文化を破壊する強引なやり方には、納得できない。






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