項番号から見える反抗精神?


 「項」は、形声で、頁+工。「音符の工は、後に通じ、うしろの意味。首のうしろ、うなじの意味を表す。」(『新漢語林』大修館書店)。


 ど素人の勝手な想像だが、頭と胴体をつなぐ部分が「うなじ」だから、身体を分類する際のメルクマールとして「項」を使用しているうちに、「分類して分けた事柄」を指す文字として転用されるようになり、やがて我が国の法制執務において「条文の段落」を意味するようになったのだろう。


 国の法制執務において、「項」は、条文の段落を意味し、検索や引用の便宜のために、第2段落目以降に算用数字で項番号を付けるのが長年のしきたりになっている。

 第1段落目は、第◯条という条名の下に一文字分空けて書き始めるので、それが第1項であることが明らかであって、第1項には算用数字で項番号を付けなくても、検索や引用に不便がないことから、第1段落目には項番号を付けないことが長年のしきたりになっている(cf.1)


cf.1民法(明治二十九年法律第八十九号)

第三条 私権の享有は、出生に始まる。     ←第1段落目には項番号を付けない

2 外国人は、法令又は条約の規定により禁止される場合を除き、私権を享有する。


 通常、法令の規定は、第1条、第2条というように条を単位として構成されており、これを条立てという。

 しかし、極めて短い文章の法令の場合には、条立てではなく、項を単位として構成されることがあり、これを項立てという。


 項立ての場合に、文章の段落が一つしかないときには、項番号を付けないのが長年のしきたりになっている(cf.2)。

 これに対して、項立ての場合に、文章の段落が二つ以上のときには、条立てと異なり、第1段落目から項番号を付けるのがしきたりになっている(cf.3)。


cf.2元号を改める政令(平成三十一年政令第百四十三号)

 内閣は、元号法(昭和五十四年法律第四十三号)第一項の規定に基づき、この政令を制定する。

 元号を令和に改める。             ←段落が一つなので、項番号を付けない


cf.3元号法(昭和五十四年法律第四十三号)

1 元号は、政令で定める。           ←段落が二つなので、項番号を付ける

2 元号は、皇位の継承があつた場合に限り改める。



 自治体の法制執務も、国の法制執務に準じて運用されているが、若干の違いもある。


 例えば、群馬県吉岡町の「核兵器廃絶平和の町宣言」という条例は、項立てになっており、文章の段落が一つしかないので、国の法令と同様に、項番号を付けていない(cf.4)。


 ところが、京都府京田辺市の「京田辺市非核平和都市宣言条例」は、項立てになっており、文章の段落が二つ以上あるのに、国の法令とは異なり、項番号を付けていない(cf.5)。

 また、北海道の「北海道における特定放射性廃棄物に関する条例」も、項立てになっており、文章の段落が二つ以上あるのに、項番号を付けていない(cf.6)。


 国の安全保障政策やエネルギー政策に歯止めをかけようとする以上、国の法制執務に従うことを潔しとしないという反抗精神の表れとして、項番号を付けていないのだろうか?

 おそらくそうではあるまい。文章を内容のまとまりごとに分けたひとくぎりのものを段落というから、形式的には段落分けしているけれども、文章の内容は全体でひとまとまりだと考えて、項番号を付けていないのだろう。


cf.4群馬県吉岡町の「核兵器廃絶平和の町宣言(平成7年12月21日条例第9号)」

 私たち吉岡町民は、町民憲章の精神にのっとり全世界から核兵器を廃絶し、平和で心豊かな生活を願い、ここに「核兵器廃絶平和の町」を宣言します。


cf.5京都府京田辺市の「京田辺市非核平和都市宣言条例(平成23年2月21日条例第1号)」

 やすらぎと希望に満ちた平和な日々を送ることは、世界の人々の願いです。

  しかし、いまも世界のどこかで人間(ひと)の命の尊さを踏みにじるような争いが続き、人類は、核兵器の脅威にさらされています。 原子爆弾による広島・長崎の苦しみや悲しみが、二度と繰り返されることのないよう、私たちは、日本国憲法が掲げる平和理念に基づき、非核三原則を守り、非暴力と対話で、核兵器の廃絶と世界の平和を訴え続けなければなりません。

 「戦争の悲惨さと平和や生命(いのち)の尊さを、次代を担う子どもたちに伝えたい」

 「ぼくたち、わたしたちも平和な未来のためにできることをがんばります」

  世代を越えて受け継がれる『平和への思い』が、世界平和への希望の光となることを信じます。

  私たちは、木津川と甘南備山に包まれた豊かな自然と先人が築いてきた歴史や文化を大切にし、互いに尊敬しあい、家庭から地域、地域から世界へと笑顔と思いやりの輪を広げながら、一人ひとりが平和の実現に向けて努力することを誓い、ここに京田辺市が非核平和都市として歩むことを宣言します。


cf.6北海道における特定放射性廃棄物に関する条例 (平成12年10月24日 条例第120号)

 北海道は、豊かで優れた自然環境に恵まれた地域であり、この自然の恵みの下に、北国らしい生活を営み、個性ある文化を育んできた。

 一方、発電用原子炉の運転に伴って生じた使用済燃料の再処理後に生ずる特定放射性廃棄物は、長期間にわたり人間環境から隔離する必要がある。現時点では、その処分方法の信頼性向上に積極的に取り組んでいるが、処分方法が十分確立されておらず、その試験研究の一層の推進が求められており、その処分方法の試験研究を進める必要がある。

 私たちは、健康で文化的な生活を営むため、現在と将来の世代が共有する限りある環境を、将来に引き継ぐ責務を有しており、こうした状況の下では、特定放射性廃棄物の持込みは慎重に対処すべきであり、受け入れ難いことを宣言する。









 

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