レジメンタル

 岸田総理とバイデン大統領が共同記者会見で締めていたネクタイがペアルックであることに言及しているメディアがないので、ペアルックで日米の親密さを演出しようと水面下で努力したであろう事務方の職員さんたちのために、ちょっと述べようと思う。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220523/k10013638801000.html

 斜めストライプ柄のネクタイを「レジメンタル」と呼ぶ。regimentalとは、「連隊の」という意味だ。

 「統治」を意味するregimeの語幹が意味する通り、連隊は、軍隊の管理・行政の単位であって、単独で駐屯する。そこで、イギリス陸軍の連隊では、他の連隊と区別するために、斜めストライプ柄のネクタイを締めたことから、「レジメンタル」と呼ばれるようになったわけだ。


 欧米では、連隊だけでなく、学校(パブリックスクール、カレッジ)、会員制クラブなど、自分の所属を明らかにし、同窓会やクラブ等の会合にて、仲間同士の連帯感を醸成するために、それぞれ独自の色やデザインの斜めストライプ柄のネクタイを着用する。


 そのため、政治家やビジネスマンが仕事で「レジメンタル」を締めることは、好ましくないと言われている。


 レジメンタルは、スクールタイにも用いられているので、いい歳をしたおっさんがレジメンタルを締めていると、学生服を着ているように見えると言えば、分かりやすいだろうか。

 同窓会ではないのに、例えば、ケンブリッジ大学のスクールタイを締めていたら、このおっさんは、学歴を自慢したいのかと思われてしまうし、また、本人は、色やデザインが気に入って締めていたとしても、世の中には全く同じ色やデザインの「レジメンタル」が特定の学校を意味することもあるので、同窓生だと誤解される可能性があることから、「レジメンタル」を締めない方が良い。


 こういうお話は、父から息子へと教えられることなのだが、残念ながら、我が国では父親自身が全く分かっていないようで、通勤電車でサラリーマンを見ると、溜息が出てしまう。。。


 国際会議の場では、ヨーロッパの首脳の多くは、無地や小紋のネクタイを締めているので、テレビを見て参考にしよう。


 例えば、5月20日に終了したG7財務相・中央銀行総裁会議の記念写真を見ても、皆無地又は小紋のネクタイを締めており、レジメンタルを締めている人はいない。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-05-20/RC66SHT1UM0Z01

 ジャケットのボタンを留めずに「俺がマナーだ!文句があるか!!」と言わんばかりのトランプ大統領が、一人だけレジメンタルを締めてちゃっかり母校ペンシルベニア大学の宣伝をしつつ、とっつあん坊やのような格好で目立っているところがご愛嬌♪笑 こういうお茶目なところがアメリカ人にウケるのだろう。

 なお、イタリアのちょい悪オヤジ風を気取ってみたのだろうか、カナダのトルドー首相が茶色の靴を履いているのは、公式の場ではあり得ないマナー違反だ。茶色の靴は、カジュアルだからだ。

https://www.abc.net.au/news/2018-06-09/g7-summit-family-photo/9852744?nw=0


 さて、正面から見て、岸田総理のストライプは、右肩上がりなのに対して、バイデン大統領のストライプは、左肩上がりであることに気付かれただろうか。

 もともとイギリスでは、右肩上がりなので、英国式と呼ばれている。これに対して、なぜかアメリカでは、左肩上がりであり、米国式と呼ばれている。


 なぜアメリカでは左肩上がりなのかについては、①仕立て屋が鏡に映った姿を見て右肩上がりだと勘違いしたからだ、②ブルックスブラザーズというアメリカの服屋が店の独自性を出すために左肩上がりにした、③昔はベストを着用したので、大剣を左肩上がりにすれば、ベストの間から見える結び目が右肩上がりになるからだなど、諸説あるようだが、決着はついていない。


 おそらくバイデン大統領が締めているネクタイは、ブルックスブラザーズ製のものだから、岸田総理側も、丸の内店で同じものを購入できただろう。

 しかし、同じ色・柄で日米の親密さをアピールしながらも、岸田総理側があえて英国式にしたところに、米国追従ではなく、日本の独自性を出したいという意志が読み取れたのだが、如何なものだろうか。


 もっとも、同じ色・柄が偶然だった可能性も否定できない。偶然だった場合には、前述したように、外交やビジネスの場面でレジメンタルは相応しくないので、バイデン大統領も岸田総理も、マナー違反ということになる。


 イギリス陸軍に敬意を表して、第2次世界大戦中のロンドンを舞台に、『椿姫』のロバート・テイラーが演じるイギリス陸軍将校(貴族)と『風と共に去りぬ』のビビアン・リーが演じるバレリーナとの階級を超えた恋を描いた1940年の不朽の名作映画『哀愁』Waterloo Bridgeから、ミッチー・ミラー合唱団の「蛍の光」をどうぞ♪

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