1年生と1回生

 ピカピカの1年生が街を闊歩している。兵庫県庁の新採研修に出講した際に、喫煙所でタバコを吸っていたら、受講者がやってきた。

 「失礼ながら、ピカピカの1年生には見えませんが、民間からの転職組ですか?笑」と訊ねたら、

 「はい、経験者採用です。ギトギトの1年生です。笑」

民間企業で揉まれてきただけあって、返しも面白い。新卒が面接で苦戦するのは、このような言葉のキャッチボールができないことに一因がある。


 さて、「1年生」と言えば、下記の記事によると、関東の大学が「1年生」と呼ぶのに対して、関西の大学が「1回生」と呼ぶのは、東大と京大の進級制度の違いに由来するそうだ。


 すなわち、東大では、学年ごとの規定の単位を取らないと次の学年に進級できないため、現在在籍している学年を表す「◯年生」が採用されているのに対して、京大では、学年ごとの規定の単位が決められていないので、入学4年目まで留年することがなく毎年一学年ずつ進級でき、入学4年目で卒業できなければ、「5回生」・「6回生」となることから、在籍年数を表す「◯回生」が採用されている。

 では、法令ではどうなのだろうか?


 まず、国の法令で、「年生」・「回生」を用いているものはなかった。

 学校教育法第87条が、大学の修業年限を「四年」・「四年を超えるものとすることができる」・「六年とする」と定めているにすぎない。

 「年生」と呼ぶか、「回生」と呼ぶかは、進級制度に関わるから、大学の自治(憲法第23条)に委ねる趣旨だろう。


cf.1学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)

第八十七条 大学の修業年限は、四年とする。ただし、特別の専門事項を教授研究する学部及び前条の夜間において授業を行う学部については、その修業年限は、四年を超えるものとすることができる

 ② 医学を履修する課程、歯学を履修する課程、薬学を履修する課程のうち臨床に係る実践的な能力を培うことを主たる目的とするもの又は獣医学を履修する課程については、前項本文の規定にかかわらず、その修業年限は、六年とする


 次に、自治体の例規ではどうか?


 まず、「回生」を用いた例規は、なかった。

 ただ、滋賀県長浜市の「市立長浜病院臨床研修医等確保奨学金貸与要綱」第2条第1項に「医学部に修学する第4学年(回生)以上の者」という表現が用いられている。

 う〜ん、「第4学年」と「(回生)」を併記しているのは、進級制度によって柔軟に対応する趣旨だろうか。


cf.2市立長浜病院臨床研修医等確保奨学金貸与要綱(平成31年4月1日病院事業告示第2号)

(奨学生の資格)

第2条 この要綱により奨学金の貸与を受けることができる者(以下「奨学生」という。)は、学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する大学(同法第97条に規定する大学院(以下「大学院」という。)を除く。以下「大学」という。)の医学部に修学する第4学年(回生)以上の者で、市立長浜病院長(以下「院長」という。)が奨学生として適当と認めたものとする。

2 前項の規定にかかわらず、他の医療機関から同等の奨学金に相当する給付を受けている者は、奨学金の貸与を受けることができない。


 次に、「年生」を用いた条例が、4本あった。

①兵庫県三田市の「三田市民病院医師修学資金貸与条例」第3条

②三重県伊勢市の「市立伊勢総合病院医師及び看護師奨学金の貸与に関する条例」第4条

③兵庫県神河町の「神河町医師修学資金貸与条例」第3条第2項

④長崎県諫早市の「諫早修習館条例」第6条第1項第1号エ


 いずれも関東ではない点が興味深い。


 医学部では、入学1年目から必修科目を一つでも落とせば留年とする進級制度を採っている大学が多いので、①〜③の条例は、「年生」を用いているのだろう。


 ④「諫早修習館条例」第6条第1項第1号エが「年生」を用いている理由は、分からない。「1年生」・「2年生」に留年している大学生は、「学業成績が良好であること」(同条同項同号イ)という要件を充たさないので、諫早修習館を利用できないことになろうが、市の施設にしては、要件が厳しいなぁ〜と気になって、調べてみたら、この諫早修習館は、東京都文京区にある諫早市所有の学生寮だった。1階部分には諫早市東京事務所も併設され、市職員が常勤している。

 東京の大学に通う学生のための寮だから、「年生」を用いているわけだ。納得!

 

 まあ、なんにせよ、大学によって進級制度や呼び方が異なる以上、その条例の目的からみて、「年生」又は「回生」若しくは「入学◯年目」のうち、最も相応しいものを用いるのが妥当だろう。


cf.3三田市民病院医師修学資金貸与条例(平成30年3月23日 条例第4号)

(修学資金の額等)

第3条 修学資金として貸与する金額は、大学1年生から大学4年生までの期間にあっては月額125,000円、大学5年生及び大学6年生の期間にあっては月額175,000円とする。

2 修学資金を貸与する期間(以下「貸与期間」という。)は、大学における正規の修学期間とする。

3 修学資金には、利息を付さない。

4 管理者は、修学資金を新たに貸与しようとする者を毎年度予算の範囲内で前条に規定する要件を備えている者の中から選考のうえ、決定するものとする。


cf.4市立伊勢総合病院医師及び看護師奨学金の貸与に関する条例(平成24年10月10日 条例第27号)

(貸与の額等)

第4条 奨学金として貸与する額は、次の各号に掲げる者の区分に応じ、当該各号に定める額とする。

 (1) 第2条第1号に該当する者

  ア 大学1年生から大学4年生まで 月額150,000円(大学に入学した日の属する月にあっては、450,000円)

  イ 大学5年生及び大学6年生 月額250,000円

 (2) 第2条第2号に該当する者 月額70,000円

2 奨学金は、無利息とする。

3 奨学金は、各月ごとに当月分を貸与するものとする。


cf.5神河町医師修学資金貸与条例(平成21年3月5日 条例第8号)

(貸与の期間及び額)

第3条 修学資金を貸与できる期間は、町長が修学資金の貸与を決定した日の属する月(町長が必要と認めた場合は、貸与を決定した日の属する年度の4月)から大学を卒業する日の属する月までの間(正規の修学期間に限る。)とする。

 2 修学資金として貸与する額は、大学1年生から大学6年生までの正規の修学期間において月額200,000円とし、毎月貸与する。


cf.6諫早修習館条例(平成17年3月1日 条例第100号)

(利用対象者)

第6条 修習館の宿所(以下単に「宿所」という。)を利用することができる者は、市内に住所を有する者又はその子(以下これらを「市民」という。)であって、次の各号のいずれかに該当するものとする。

  (1) 次に掲げる要件を満たす大学生等

  ア 品行方正であること。

  イ 学業成績が良好であること。

  ウ 市内に引き続き1年以上住所を有する者の子であること。

  エ 大学等の1年生又は2年生であること。

  (2) 通信教育生

  (3) 受験生

  (4) 研修等を受ける者

 2 前項に規定する者以外の者は、これらの者の利用を妨げない限度において、宿所を利用することができる。


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