「インブリード」

 私は、賭け事をやったことがないので、競馬の世界が全く分からないのだが、ネットで話題になっていた下記の記事を読んだ際に、「競馬好きの某講師がちらっと言っていた用語はなんだっけ?」とモヤモヤして、検索したら分かった。競馬用語の「インブリード」と「アウトブリード」だ。

 JRAのHPに載っている競馬用語辞典によると、次のとおりだ(下線:久保)。

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用語 インブリード

 読み いんぶりーど 

血統表で5代前までに同一の祖先を持っているような配合のこと。近親交配ともいう。サラブレッドの場合、好んで近親配合を行なう場合が多い。表記する場合は○○(馬名)の3×4などと表わし、数字は世代数を示す。ナスルーラの3×4、といえば3代前と4代前にナスルーラが入っていること、5×5×5といえば、5代前に3回入っていることを示す。共通祖先の望ましい形質を固定させることを目的としているが、逆に隠れていた不良形質が現れる危険性も高くなる

https://jra.jp/kouza/yougo/w471.html

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用語 アウトブリード

 読み あうとぶりーど 

サラブレッドは、全体的に近親交配をもとに作られてきた動物であるが、血統の5代前までに同一の祖先を持たないような配合をアウトブリードという。異系交配ともいう。目的としては、異なる系統の交配により不良形質が現れる確立を弱め、馬の生産力、活力、運動能力の向上を期待するもの

https://jra.jp/kouza/yougo/w463.html

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 人間も、血が濃くなると、稀に優秀な者が生まれることもあるが、そうでない者が生まれる傾向にあることは、昔から経験則上知られていたこともあり、近親婚が忌み嫌われてきたわけだ。

 人間様と競走馬を同列に扱うなとのお叱りを受けそうだが、同じ生物である以上、メンデルの法則が妥当することに変わりはない。


 「インブリード」と「アウトブリード」という競馬用語を思い出すきっかけとなった今月7日に掲載された下記の記事によると、両親が不安やうつ病などの精神的特徴を含む神経発達障害を持っていると報告している子供たちの間で、神経発達障害が増加しているそうだ。

 そこで、ペンシルベニア州立大学の研究チームは、自閉症や知的障害などの神経発達障害を持つ子どもを含む9万7000世帯を調査し、両親の危険因子(遺伝的特徴やその形質の存在)が子どもの病気の経過にどのような影響を与えるかを分析したところ、親は、同じ又は関連する障害を持つパートナーを選ぶ傾向があり、その結果、子供の有病率が高まり、場合によってはその障害が重症化する可能性があることが明らかになったそうだ。

 要するに、この論文が正しいとすれば、神経発達障害の両親から生まれた子供には、インブリードのマイナス面が出てしまい、神経発達障害になる率が高く、重症化する可能性があるわけだ。


 しかし、婚姻の自由や出産の自由が保障されている以上、神経発達障害者同士の婚姻や出産を法律的に規制することは、かなり困難だ。優生思想に基づくナチスドイツの断種法や日本国憲法下に制定された旧優生保護法の復活になりかねない。


 あくまでもこの論文が正しいとすればの話だが、神経発達障害になる率が高くなるという事実が広く知られるようになれば、神経発達障害者が自らの意思によって神経発達障害者同士の結婚や出産を避けるという選択が可能になるので、選択肢が増えるという意味ではこの論文には意義がある。

 また、将来的には子供が神経発達障害になる率を医学的に下げたり、重症化する可能性を下げたりする研究の足がかがりになるという意味でも、この論文には意義がある。


 ただ、なぜ神経発達障害を持つ人は、同じ又は関連する障害を持つパートナーを選ぶ傾向にあるのかが不明なのだが、つらい思いをしている者同士が惹かれ合うというのは、理解できなくもない。


 障害を持った子供を授かったり、病気や事故で自らが障害者になったりする可能性が誰にでもある以上、障害者が暮らしやすい社会は、我々健常者にとっても暮らしやすく安心できる社会だといえる。

 上記のような研究が悪用されることなく、このような社会の形成のために役立ってほしいと思う。



 



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