法は、全体として統一性をもった体系をなしているので、目当ての条文だけを見て解釈するのではなく、その法令全体との整合性を保つように解釈しなければならない。
下記の記事によると、足立区の選挙管理委員会事務局の職員さんは、「選挙管理委員は、選挙権を有する者で、人格が高潔で、政治及び選挙に関し公正な識見を有するもののうちから、普通地方公共団体の議会においてこれを選挙する。」(地方自治法第182条第1項。下線:久保)にいう「選挙権」を国政選挙の選挙権を指すと解釈して、足立区外に住所を有する者にも選挙管理委員の就任資格があると判断したそうだ。
地方自治法第182条第1項だけを見れば、単に「選挙権」とあるだけなので、国政選挙の選挙権を指すと解釈してしまったわけだ。
しかし、地方自治法第182条第1項が「当該普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権」と定めずに、単に「選挙権」と定めたのは、ここにいう「選挙権」が「当該普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権」を意味する旨の規定がすでに置かれているので、わざわざ繰り返して「当該普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権」と明記しなくても誰でも分かるだろうと考えたからだ。
すなわち、地方自治法第11条は、「日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の選挙に参与する権利を有する。」と定めており(下線:久保)、ここにいう「その属する普通地方公共団体の選挙に参与する権利」とは、その属する普通地方公共団体の選挙権及び被選挙権を意味する。
そして、 地方自治法第17条は、「普通地方公共団体の議会の議員及び長は、別に法律の定めるところにより、選挙人が投票によりこれを選挙する。」と定め、地方自治法第18条は、 「日本国民たる年齢満十八年以上の者で引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有するものは、別に法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する。」と定めている(下線:久保)。
したがって、地方自治法第182条第1項の「選挙権」というのは、「その属する普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権」を意味すると解さなければならない。
よって、地方自治法第182条第1項の「選挙権」が認められるためには、「日本国民たる年齢満十八年以上の者で引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有するもの」でなければならないことになる。
そして、地方自治法第283条第1項には、「この法律又は政令で特別の定めをするものを除くほか、第二編及び第四編中市に関する規定は、特別区にこれを適用する。」とあるので、市に関する地方自治法第11条・第17条・第18条・第182条第1項が特別区に適用される。
よって、足立区外に住所を有する者には、足立区の選挙権がないので、足立区の選挙管理委員の就任資格もないということになる。
今後の手続だが、地方自治法第184条第1項は、「選挙管理委員は、選挙権を有しなくなつたとき、第百八十条の五第六項の規定に該当するとき又は第百八十二条第四項に規定する者に該当するときは、その職を失う。その選挙権の有無又は第百八十条の五第六項の規定に該当するかどうかは、選挙管理委員が公職選挙法第十一条若しくは同法第二百五十二条又は政治資金規正法第二十八条の規定に該当するため選挙権を有しない場合を除くほか、選挙管理委員会がこれを決定する。」と定めている(下線:久保)。
ここにいう「選挙権を有しなくなつたとき」というのは、当選当時から被選挙権を有しないものであった場合も含まれると解されるから、失職の手続をすることになる。
なお、上記記事の「1回目の照会については、区選管にも都選管にも記録が残っていない」という点が気になるところだ。
足立区の説明によれば、「令和 6 年 1 月 31 日以降、区内部調査を行ったところ、 上記の都選管事務局への電話照会の記録が一切残ってい ないことが判明。また、都選管事務局からは、区選管事務 局から選挙管理委員の資格要件について、電話照会を受け たことも回答したことも記録・記憶が無いとの回答を得た ことから、この電話照会は区職員の思い込みであったと考 えられる。」そうだ。
う〜ん、電話照会をしたと思い込むことなんてあるのだろうか。
また、上司に相談せずに独断で行動したのだろうか。
なんだか隔靴掻痒の感があり、釈然としない。
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