令和6年3月1日、内閣は、第213回国会(常会)に「地方自治法の一部を改正する法律案」を提出した。
野党もマスコミも学者も、国の指示権(形式的には「指示」だが、実質的には「命令」だ。)を拡大するこの改正案に一斉に猛反対している。
某国から反対するように指令が出ているのだろうか。
1 憲法改正による緊急事態条項の新設が間に合わないのであれば、弥縫策(びぼうさく)として致し方ない
ロシアのウクライナ侵略を受けて、憲法を改正して、諸外国と同様の緊急事態条項を創設すべきかどうかをめぐって国会で議論が続いている。
平成24年(2012年)に党議決定された自民党の「日本国憲法改正草案」では、緊急事態宣言の効果として、緊急政令、緊急財産処分、議員任期延長、自治体の長に対する必要な指示を認めている。
立憲民主党、日本共産党、れいわ新選組、社民党は、これに反対している。
自民党の緊急事態条項の内容の是非は脇に置くとしても、ウクライナの如く、他国からの侵略を受けた場合に、なんらかの緊急事態条項がなければ、その都度、特別措置法等の個別法を制定して対処しなければならず、その結果、当然国会は紛糾し、後手後手の対応にならざるを得ず、国内は大混乱に陥り、それだけ多くの国民が犠牲になる。
ミサイルが国会を直撃するなど、参議院の緊急集会すら開催できない緊急事態が起きた場合には、個別法を制定すること自体ができないが、野党・マスコミ等は、このようなことすら想定できないほど想像力が欠如しているのだろうか。
野党・マスコミ等は、某国の忠実なる下僕として日夜反日活動に勤しんでいるから、自分たちは攻撃されないとでも思い込んでいるのだろうか。
否、そうではあるまい。十分想定した上で、同志に多少犠牲が出たとしても「小の虫を殺して大の虫を助ける」べきだとして、母国又は己のイデオロギーと利害が一致する某国に忠誠を尽くすため、利敵行為をせんと緊急事態条項の創設に反対しているのではなかろうか。
緊急事態条項に反対することで一番得するのは敵国だからだ。
野党・マスコミ等は、馬鹿の一つ覚えに何かにつけて「人権を守れ!」と叫ぶが、本当に国民の人権を第一に考えるならば、緊急事態条項創設の必要性を認めた上で、その内容を詰める努力をすべきであって、端(はな)から如何なる緊急事態条項にも反対と言うのは、緊急事態における国民の人権を一番蔑(ないがし)ろにしていると言える。
さて、本題に戻ろう。国の指示権拡大を図る地方自治法改正案は、まさに緊急事態条項の先取りだと言える。
憲法に緊急事態条項を新設するには、憲法改正という高いハードルをクリアしなければならず、現時点での政治状況では極めて困難だ。
だからといって緊急事態に迅速に対処できない状況を放置することはできない。ロシアのウクライナ侵略をきっかけに、中国による台湾や尖閣諸島への侵略、朝鮮戦争の再開などが現実味を帯び、東アジアの安全保障をめぐる緊迫した国際情勢がこれを許さないからだ。
国民の生命・自由を守る責務を負う政府としては、憲法に緊急事態条項を新設するのがベストだが、これが叶わぬ以上、次善の策として緊急事態における自治体の長に対する指示を地方自治法改正によって実現しようとするのは至極真っ当なことだといえる。
本来ならば、憲法改正による緊急事態条項の新設により民間人(民間企業も含む。)に対しても協力を義務付けられるようにすべきであって、緊急事態における自治体の長に対する指示だけでは甚だ不十分であるが、ないよりもマシだ。
2 自衛戦争を遂行するための体制を整えて何が悪い
憲法第9条は、自衛戦争を否定していない。自衛戦争を遂行するための戦時体制を事前に整えておくことは、国家として当然の責務だ。国防は、国の事務である以上、国家安全保障上必要なことを自治体に対して指示することができるようにしなければならない。
「自衛戦争を遂行する体制を整えることは、戦争につながる」、「戦争反対!」と脊髄反射して、猛反対する連中がいるだろうが、そもそも日本人は、誰一人として戦争を望んでいないと言っても過言ではない。
自衛戦争を遂行するための体制を整えることが直ちに戦争につながるわけではない。むしろ、逆だ。軍備を整えるだけではなく、自衛戦争を遂行できる体制を整え、国内が一致団結して敵を迎え撃つ覚悟を示すことも、敵の攻撃に対する抑止力になるのだ。
ところが、そのような体制に全くなっていないのだ。
例えば、災害対策法や感染症予防法では国の自治体に対する指示権が認められている(災害対策基本法第28条の6、感染症予防法第63条の2)。
しかし、災害対策法では武力攻撃に対処できないし、また、感染症予防法ではサリンやVXガスなどの化学兵器、放射能には対処できない。
また、武力攻撃事態対処法や国民保護法では、自治体の役割は住民避難などの住民保護に限定され、国の自治体に対する指示権は、避難・誘導・救援及び港湾・空港の利用に限定されている(国民保護法第52条、第56条、特定公共施設利用法第9条、第11条)。国の自治体に対する指示や代執行については、自治体を含めた総合調整と自治体の意見申し出を経なければならない(武力攻撃事態対処法第15条、第16条)。
しかし、これらの法律では、例えば、敵が上陸しようとした際に、陸上自衛隊の迎撃部隊が県道や市道を優先的に走行できるように自治体に指示できない。避難しようとする住民が乗る自動車等で道路は埋め尽くされ、自衛隊は一歩も前に進むことができず、敵の格好の標的となる。
自治体の公有地への防衛陣地構築に協力するよう指示もできない。
ミサイル攻撃に備えて自治体職員に庁舎地下に待機するよう指示することもできない。
住民保護の要である自治体の庁舎は、耐震化が進んでいるが、平和ボケして戦争を想定しておらず、ガラス張りの物が少なからずあるため、ミサイルや爆風に耐えられるよう防護措置を講ずる必要があるが、このような指示をすることもできない。
軍事についてど素人である私がちょっと思いつくままに書いただけだが、専門家からしたら、我が国の現状は、無防備すぎて何から手をつけたらよいか分からないぐらい酷い有り様ではなかろうか。
沖縄県普天間基地移設問題で国民にも広く知られるようになったが、革新系首長が国の是正の指示に従わず、代執行訴訟で国勝訴の高裁判決が下されたにもかかわらず、これを無視し、やむを得ず国が代執行をするという地方自治法の建て付けは、平時はともかく、有事には迅速性に欠け、国の安全保障を著しく損なう。
国防は国の事務であるにもかかわらず、全国には平和宣言や非核宣言をしている自治体が数多くあり、デニー沖縄県知事のような革新系首長も多くいる。有事の際に、これらの自治体が一斉に国に反旗を翻し、国の指示に従わないために、国が当該自治体に対していちいち代執行訴訟を提起していたのでは、敵の思う壺であって、もたもたしているうちに我が国は、敵の攻撃により甚大な被害を被るだろう。
蛇足だが、我が国は、諸外国に対して、円借款や無償援助などの形で莫大な支援を続けている。また、国連や関係機関にも莫大なお金を支出し続けている。
しかし、我が国を敵国とするいわゆる敵国条項(国連憲章第53条、77条及び107条)が削除されることはなく、国連常任理事国にもなれていない。
国際社会における我が国のプレゼンスを保持するなどの必要性は理解できるが、これだけのお金があれば、スウェーデンやスイス並みに、国内に多くのシェルターを作ることができただろう。
前述したように、武力攻撃事態対処法や国民保護法では、自治体は住民避難を担当しているのだが、一体どこへ住民を避難させるつもりなのか。何十年も前から、私は、シェルターを作れ、建築基準法を改正して避難所に指定されている体育館などを武力攻撃に耐えられるようにせよ、スイスを見習って、各家庭にヨウ素を配布するなどの民間防衛をせよと言い続けてきたが、くだらないことで揚げ足を取り合う国会議員の劇場型パフォーマンスを見るにつけ本当に虚しくなる。
<追記>
ドイツですら地下シェルター建設が検討されている。
3 正々堂々と議論しろ
自治体の事務には、自治事務と法定受託事務があり、「国が本来果たすべき役割に係る」法定受託事務については、「法令の規定に違反」又は「著しく適性を欠き、かつ、明らかに公益を害している」場合に限り、国に「是正又は改善」の指示権が認められ(地方自治法第245条の7)、自治事務については、国の指示権は認められていない。
しかし、これは平時の場合であって、緊急事態の場合に、これは自治事務なので、指示できないというのでは国民の安全を守れない。例えば、公立公園の維持管理は、自治体の自治事務だが、敵のミサイルを迎撃するため、公立公園に迎撃ミサイルシステムを配備することに協力するよう指示できないというのでは、住民に死ねと言うようなものだ。自治事務か法定受託事務かを問わず、自治体の事務に関して、国が指示できるようにしなければならない。
また、地方分権改革により(私は、当初からこれに反対だった。)国と自治体は、上下主従関係から対等協力関係に変わったが、これもあくまでも平時における地方自治法上の建前にすぎない。
国防は国の事務であり、敵国からの侵略を受け、又は受けるおそれがある場合に、国も自治体も一致団結して国民を守らなければならない。足並みが乱れれば、その間隙を縫って敵が攻勢に出て戦局が一変しかねない。
有事には有事に相応しい地方自治法上の建前があってしかるべきだ。
地方自治法改正案では、「大規模な災害、感染症のまん延その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合」(第252条の26の3)とされている。
災害や感染症は例示にすぎず、戦争やテロもこれに当たると解される。だったら、これらも明記すべきだ。戦争アレルギーの国民世論に配慮して明記していないのだろうが、我が国が置かれている国際情勢の深刻さを踏まえ、国民にありのままの真実を伝えて国民の理解と協力を求めるのが筋だろう。政府与党は、コソコソせずに正面から正々堂々議論しろ。
なお、「発生するおそれがある場合」も国が指示権を行使することができるようになっている点は評価できる。「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し」てからでは遅すぎるからだ。
国の指示権行使の要件は、生命等の保護のために講ずべき措置に関して、各大臣が「特に必要があると認めるとき」とされている(第252条の26の5第1項)。
単に「必要があると認めるとき」ではなく、「特に必要があると認めるとき」に限定している点は、評価できるが、後で検証できるように、「特に必要があると認める」に至った理由をきちん明らかにさせるとともに、関係資料を保存し、国会に事後報告することを義務付けるべきだろう。体験を経験にアウフヘーベンして次に活かせるように、国会内に検証委員会を設置することを義務付けることもよいだろう。
国の指示権行使の手続としては、「閣議の決定を経」ることだけで、国会の事前承認は必要なく(第252条の26の5第1項)、自治体の意見を聞くのは、努力義務にすぎない(第252条の26の5第2項)。
国会の事前承認を不要にしている点で、国会軽視だとの批判があるが、国会を開会する時間的余裕がない場合も十分に予想されるし、また、内閣は国会の信任を得ており、民主的正統性を有するし、国会には立法権も予算議決権もあるのだから、後でいくらでもコントロールできる以上、閣議決定だけで指示できるのはけしからんと言うのは短絡的だ。
緊急事態であるため、これでよいと思うが、国会への事後報告を義務付けるべきだろう。
大臣は、「必要な指示」(第252条の26の5第1項)ができるが、大臣が「必要」と考えれば、如何なる指示であってもすることができることになる。
現行の地方自治法のように「是正又は改善」の指示に限定されていないけれども、緊急事態に「必要」なことを予め全て明記することは不可能なので、大臣に自由裁量を認めることはやむを得ない。閣議決定が歯止めになっており、大臣が暴走することはできない。
なお、以上、ロシアによるウクライナ侵略を念頭に述べたが、ゲリラ攻撃も懸念される。覚醒剤などの違法薬物が蔓延している現状に鑑みると、大量の武器弾薬が国内に密輸されている可能性がある。いざ有事となった際には、国内に潜伏する工作員たちが一斉に武装蜂起し、発電所、変電所、ダム、鉄道、放送、通信、データセンターなどのインフラをゲリラ攻撃する可能性がある。
前述したように、緊急事態における自治体の長に対する指示だけでは甚だ不十分であって、民間人に対しても指示できるように憲法改正が望まれる。今回の地方自治法改正案をきっかけに真剣に議論してほしいものだ。
<追記>
反対している国会議員・地方議員・学者・弁護士などの背後関係を洗って詳らかにしてほしいものだ。
<追記>
反対者の本音は、「米国の戦争に自治体を動員するために使われる危険は、きわめて重大です。安保3文書に基づく「戦争する国づくり」のための立法は断じて許されません。」の一点にある。
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