下記の記事によると、「原爆が炸裂した後《放射性微粒子》を含む「黒い雨」が降ったと認定された被爆地域外の旧3村。そこにいた原告15人を被爆者と認めた被爆体験者訴訟の判決を受け、長崎市長と県知事は11日厚労省を訪れ、15人について控訴断念を求める「地元の声」を伝えました。一方大石知事は「『法定受託事務』を担う立場を踏まえると、県としての考えを申し上げるのは慎重になるべきだ」などと発言し、控訴するかどうかは国の意向を踏まえて協議・判断する考えを示して」いるそうだ。
これに対して、「行政法が専門の広島大学・田村和之名誉教授は「法定受託事務は地方自治体が『自主的に』処理するもので、『国に代わって』処理するものではない。長崎市と長崎県は国の意向に関係なく独自に控訴しないことを判断できる」と指摘して」いる。
確かに、法定受託事務は、一旦委託された以上、その自治体の事務になるので、法令に違反しない限り条例を制定することができるし、調査権を行使することもできる。田村教授のおっしゃる通り、国の意向に関係なく独自に控訴しないこともできる。
他方で、本来国の事務である第一号法定受託事務については、国から強い関与(平たく言えば、口出し)を受ける。長崎市と長崎県が控訴しない旨を表明した後で、国から是正の指示という関与がなされたら、これに従わざるを得ない。
その意味で、長崎市と長崎県としては、控訴しない旨を表明した後で国から梯子(はしご)を外されてはかなわないので、控訴するかどうかは国の意向を踏まえて協議・判断する考えを示したのも理解できる。
実に悩ましい。
が、長崎市も長崎県も住民の福祉の増進が本来の役割である以上(地方自治法第1条の2第1項)、住民の福祉を第一に考え、行動するのがその趣旨に適う。
とすれば、国の意向よりも、控訴しないことが住民の福祉の増進を図ることになるかどうかを考えるべきだ。
cf.1原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(平成六年法律第百十七号)
(広島市及び長崎市に関する特例)
第四十九条 この法律の規定(第六条、第五十一条及び第五十一条の二を除く。)中「都道府県知事」又は「都道府県」とあるのは、広島市又は長崎市については、「市長」又は「市」と読み替えるものとする。
(都道府県等が処理する事務)
第五十一条 この法律に規定する厚生労働大臣の権限に属する事務の一部は、政令で定めるところにより、都道府県知事並びに広島市長及び長崎市長が行うこととすることができる。
(事務の区分)
第五十一条の二 この法律(第三章第五節、第六章及び第四十八条を除く。)の規定により都道府県並びに広島市及び長崎市が処理することとされている事務は、地方自治法第二条第九項第一号に規定する第一号法定受託事務とする。
cf.2地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)
第一条の二第一項 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。
第二条第九項 この法律において「法定受託事務」とは、次に掲げる事務をいう。
一 法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであつて、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの(以下「第一号法定受託事務」という。)
二 法律又はこれに基づく政令により市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、都道府県が本来果たすべき役割に係るものであつて、都道府県においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの(以下「第二号法定受託事務」という。)
別表第一 第一号法定受託事務(第二条関係)
備考 この表の下欄の用語の意義及び字句の意味は、上欄に掲げる法律における用語の意義及び字句の意味によるものとする。
原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(平成六年法律第百十七号) この法律(第三章第五節、第六章及び第四十八条を除く。)の規定により都道府県並びに広島市及び長崎市が処理することとされている事務
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