高い勉強代 <追記>

 令和2年4月、修学旅行中の新潟市立の中学生が、新潟県十日町市にある越後妻有里山現代美術館モネに展示していた大地の芸術祭の作品2点を壊したため、十日町市が新潟市に対して損害賠償を請求したところ、十日町市に674万円の損害賠償金を支払うことで合意し、新潟市は、その議案を市議会に提出し、議会の議決を得て(地方自治法第96条第1項第12号)、和解するそうだ。

 う〜ん、なぜ十日町市は新潟市に損害賠償を請求したのかが記事からは分からない。新潟市のHPにはまだ議案がアップされていない。

 勝手な想像だから、間違っていたらご容赦願いたいが、一応書いておこう。


1 本来、加害者である中学生に対して損害賠償を請求すべきはずだ(民法第709条)。

 しかし、「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。」とされている(民法第712条)。

 この責任能力は、十二歳ぐらいの知能だと考えられている。


2 当該中学生に十二歳程度の知能がない場合には、責任無能力者として損害賠償責任を負わないが(民法第712条)、「前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」とされている(民法第714条第1項本文)。

 つまり、当該中学生の監督義務者(保護者)が、原則として、損害賠償責任を負うことになる。


3 「ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」とされている(民法第714条第1項ただし書)。

 当該中学生は、修学旅行中だから、監督義務者(保護者)が監督義務を怠ったとは言えないので、監督義務者(保護者)は、例外的に、損害賠償責任を負わないことになる。


4 しかし、「監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。」とされている(民法第714条第2項)。

 つまり、当該中学生を引率している教師は、監督義務者(保護者)に代わって当該中学生を監督する者に当たるので、当該教師が監督を怠っていたときには、損害賠償責任を負うことになる。

 

5 そして、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」とされている(民法第715条第1項本文)。

 当該教師の使用者は、新潟市だから、新潟市は、十日町市に対して、民法第715条第1項本文の使用者責任の規定に基づいて、損害賠償責任を負うことになる。


6 674万円程度の損害賠償金であれば、一教師でも支払える金額だと思われるが、一括弁済は難しいかも知れない。

 使用者である新潟市であれば、確実に損害賠償金を支払ってもらえることから、十日町市は、当該教師ではなく、使用者である新潟市に対して、民法第715条第1項本文に基づいて損害賠償請求をしたものと考えられる。


 上記の想像が当たっているかどうかは分からないが、記事を見る限り、「674万円」の算定根拠も不明だ。

 議案がアップされたら判明するだろう。


<追記>

 下記の記事によると、新潟「市は加害者が特定されず、修学旅行という教育活動の中で起きた出来事として、市が損害賠償金を支払い、保護者や学校には賠償を求めない」とあるので、私の想像は間違っていたことになる。

 誰が加害者かは特定できないが、当該中学校の生徒であることには間違いないので、引率教師の監督不行届自体を不法行為として捉えて、民法第715条第1項本文又は国家賠償法第1条に基づいて、新潟市に損害賠償を請求したのだろう。


源法律研修所

自治体職員研修の専門機関「源法律研修所」の公式ホームページ