「金利上昇に伴い、基金で運用する国債や社債の時価が下落し、多額の含み損を抱えるようになった地方自治体が複数出ていることが28日、分かった。長くて数十年先の満期まで待てば投じた額は回収できるが、機動的に使える資金はその間減る。災害などの緊急時、迅速に必要経費を捻出できなくなる恐れもある。」
基金は、条例で定める特定の目的に応じ、及び確実かつ効率的に運用しなければならない(地方自治法第241条第2項)。
例えば、市民体育館建設のための基金を設置して、目標額に達するまで、毎会計年度お金を積み立てていくのだが、この積立金を寝かせておくのはもったいないので、運用することができる。
積立金を金利が低い銀行の普通預金に預けるのではなく、定期預金にしたり、積立金で国債・地方債・社債を購入したりして運用するわけだ。
ただ、債券には価格変動リスクがある。
金利が下がると、債券価格が上がるため、債券を売却すれば、売却益が発生する。もちろん、満期まで債券を保有すれば、金利下降時の高い利率による利息と額面金額の償還を受けられるが、売却益は生じない。
これに対して、記事にもあるように、金利が上がると、債券価格が下がるため、債券を売却すれば、売却損が発生する。もちろん、満期まで債券を保有すれば、金利上昇時の低い利率による利息と額面金額の償還を受けられるが、売却損は生じない。
記事にあるように、今は、金利上昇により、債券価格が下がって、多額の含み損が生じていても、その後の金利(債券価格)の変動によって、含み損が減少したり、含み益が生じたりするので、必ずしも大騒ぎする必要はない。
実際、多くの自治体では、「もちきり」と呼ばれる満期保有を前提にしているため、含み損・含み益に一喜一憂したりしないはずだ。
これに対して、債券を売却して、売却益で必要経費を捻出することを想定している自治体では、金利上昇に伴う債券価格の低下による含み損は、頭の痛い問題だと思う。
しかし、神ならぬ人間は、将来を知り得ないので、誰も金利(債券価格)の変動を確実に見通すことができないのだから、債券を売却して、売却益で必要経費を捻出するといういわば「取らぬ狸の皮算用」は、そもそもすべきではなかろう。
超長期債の方が中長期債よりも利回りが高い一方で、価格変動リスクが大きいので、自治体がこれを購入するかどうかについては、慎重に判断する必要がある。
かといって、銀行などの金融機関がやっているような、短期間における債券の入替売買も、リスクがある。債券購入後に短期間で金利が下がって債券価格が上昇し、売却益が出ればよいが、逆に金利が上がって債券価格が下落し、売却損が生じることもあるので、金融素人である自治体が行うことは望ましくない。
専門家を養成する金融機関とは異なり、自治体では定期的に人事異動が行われるため、基金運用担当者全員の金融リテラシーの向上を図り、ノウハウの共有と継承を着実に行う必要がある。職員一人に任せきりにすることは、絶対に避けねばならない。大きな損失を招くおそれがあるからだ。
マニュアルの類を整備したり、定期的に勉強会を開催したりすることはもちろんのこと、毎年、複数名の職員を金融機関に出向させて、債券運用の現場で働かせて勉強させることが大切だと思う。
瀬崎 陵『わが国地方自治体の基金運用に関する考察―モデルケースからみる運用効率化の手法―』
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