図なのに別表とはこれ如何に?

 某国で行われる国際観艦式に招待された海上自衛隊の艦船がいざ参加しようとしたら、旭日旗は戦犯旗であると難癖を付けられたため、その参加を見合わせた事件は、記憶に新しいのではないか。

 この事件が起きた直後、自衛隊の旗は、法令上、どのように規定されているのだろうかと思って、調べてみた。


 そうしたら、なんと自衛隊の旗(自衛隊旗及び自衛艦旗)は、明らかに図であって表ではないのに、「別表第一」と表記されていた!(自衛隊法施行令第一条の二第二項及び別表第一)。


cf. 1自衛隊法施行令(昭和二十九年政令第百七十九号)       

第二節 自衛隊の旗 

(自衛隊旗を交付する自衛隊の部隊等)

第一条の二 自衛隊旗は、法第二条第二項に規定する陸上自衛隊(以下「陸上自衛隊」という。)の連隊に、自衛艦旗は、同条第三項に規定する海上 自衛隊(以下「海上自衛隊」という。)の部隊の編成に加えられる自衛艦に交付するものとする。

2 自衛隊旗及び自衛艦旗の制式は、別表第一のとおりとする。



 このように明らかに図なのに「別表第一」と表記されている理由は明らかではない(今後、暇を見つけて詳細を調査する予定。)。


 ところで、軍旗は、古今東西、神聖なものとされ、軍旗を敵に奪われることは最大の恥辱だから、身命を賭して守るべきものだと考えられてきた。

 

 眉間にある三日月の刀傷を指差して、「天下御免の向こう傷」と名乗り、諸刃流正眼崩しの必殺剣で悪人を斬りまくって一世を風靡した映画『旗本退屈男』で、市川右太衛門が演じる主役・早乙女主水之介(さおとめ もんどのすけ)は、直参旗本1200石という設定であったが、この「旗本」は、まさに戦場において軍旗を守る武士たちを意味した。

 市川右太衛門は、このように画面に登場しただけで華があり、存在感抜群。息ひとつ乱れることがない流れるような殺陣(たて)。こんな俳優はもういないなぁ〜と思う今日この頃。


 おっちゃんの思い出話はここらで切り上げて、話を本題へ戻そう。


 法令は、公布文→法令番号→題名→前文→目次→本則→雑則→罰則→附則→別表という順番で構成されており、図は、「別図」として別表の後ろに掲載するのが通例である。

例えば、消防用ホースの技術上の規格を定める省令では、附則→別表→別図という順番で掲載されている。


cf.2消防用ホースの技術上の規格を定める省令(平成二十五年総務省令第二十二号)


したがって、本来、「自衛隊の旗」の図は、別表の後ろ、つまり、法令の一番最後に置かれるはずであるが、それはよろしからずと考えられたのではないか。


 すなわち、自衛隊は、国の法令上、軍隊ではないから、自衛隊の旗は、軍旗ではない。しかし、自衛隊の旗は、軍旗と同様に、大切なものであることになんら変わりはない。だからこそ自衛隊法施行令は、たった1条のためにわざわざ「第二節 自衛隊の旗」という節を設けて、「第一条の二」を置いているのであろう。

 そうであるとすれば、大切な「自衛隊の旗」の図を別表の後ろに置くのは憚れる。そこで、図なのに「別表第二」以下に平仄(ひょうそく)を合わせて「別表第一」と表記したのではなかろうか。


 もっとも、「自衛隊の旗」は、明らかに図なのに、表であると強弁することが、本当に「自衛隊の旗」を大切にすることにつながるのか甚だ疑問である本則である第一条の二の直後に別窓方式で「自衛隊の旗」の図を入れるべきではなかろうか


 ちなみに、国旗については「別記第一」と表記されており(国旗及び国歌に関する法律第一条第二項及び別記第一)、「別表」ではない。楽譜が含まれることから、「別図」ではなく「別記」と表記したのであろう。


cf.3国旗及び国歌に関する法律(平成十一年法律第百二十七号)

(国旗)

第一条 国旗は、日章旗とする。

2 日章旗の制式は、別記第一のとおりとする。

(国歌)

第二条 国歌は、君が代とする。

2 君が代の歌詞及び楽曲は、別記第二のとおりとする。

附 則

(施行期日)

1 この法律は、公布の日から施行する。

(商船規則の廃止)

2 商船規則(明治三年太政官布告第五十七号)は、廃止する。

(日章旗の制式の特例)

3 日章旗の制式については、当分の間、別記第一の規定にかかわらず、寸法の割合について縦を横の十分の七とし、かつ、日章の中心の位置について旗の中心から旗竿 側に横の長さの百分の一偏した位置とすることができる。

 
























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