〜することができる(〜スルコトヲ得)

 職員研修に出講した際に気が付いたのであるが、条文上「〜することができる(〜スルコトヲ得)」と書いてあれば、するかしないかは自由だと誤解している職員さんが意外に多いように思われる。


 確かに、条文上「〜することができる」とある以上、文字通りに解すれば、その権限を行使するかどうかは、行政庁の裁量に委ねられているから、行政庁がその権限を行使しないからといって直ちに違法になるわけではない。


 しかし、その権限が付与された趣旨・目的に照らし、権限の不行使が著しく不合理と認められる場合には、権限の不行使自体は裁量権の範囲内であるが、裁量権を認めた法の趣旨・目的に反するので、裁量権の濫用として違法になるというのが判例である(裁量権の消極的濫用論を採った京都誠和住建事件判決、最判平元・11・24)。


 つまり、判例を前提にすると、「〜することができる」とは、単に権限を行使するかどうかは自由であるという意味ではなく、その権限を行使すべきときには行使しなければならず、行使すべきでないときには行使してはならないという意味になるのである。


 例えば、児童虐待を受けた児童を一時保護した場合に、当該児童虐待を行った保護者が当該児童と面会させろと怒鳴り込んできたとき、児童相談所長は、児童虐待の防止及び児童虐待を受けた児童の保護のため必要があると認めるときは、その面会の全部又は一部を制限「することができる」が(児童虐待の防止等に関する法律第12条第1項第1号)、面会を制限すべきときに面会を制限しなかったらどうなるかを想像すれば、この問題が単なる言葉の問題として片付けることができない重大性を秘めていることを容易に理解することができるのではなかろうか。


cf.児童虐待の防止等に関する法律(平成十二年法律第八十二号)

(面会等の制限等)

第十二条 児童虐待を受けた児童について児童福祉法第二十七条第一項第三号の措置(以下「施設入所等の措置」という。)が採られ、又は同法第三十三条第一項若しくは第二項の規定による一時保護が行われた場合において、児童虐待の防止及び児童虐待を受けた児童の保護のため必要があると認めるときは、児童相談所長及び当該児童について施設入所等の措置が採られている場合における当該施設入所等の措置に係る同号に規定する施設の長は、厚生労働省令で定めるところにより、当該児童虐待を行った保護者について、次に掲げる行為の全部又は一部を制限することができる

一 当該児童との面会

二 当該児童との通信

2 前項の施設の長は、同項の規定による制限を行った場合又は行わなくなった場合は、その旨を児童相談所長に通知するものとする。

3 児童虐待を受けた児童について施設入所等の措置(児童福祉法第二十八条の規定によるものに限る。)が採られ、又は同法第三十三条第一項若しくは第二項の規定による一時保護が行われた場合において、当該児童虐待を行った保護者に対し当該児童の住所又は居所を明らかにしたとすれば、当該保護者が当該児童を連れ戻すおそれがある等再び児童虐待が行われるおそれがあり、又は当該児童の保護に支障をきたすと認めるときは、児童相談所長は、当該保護者に対し、当該児童の住所又は居所を明らかにしないものとする。


 権限を行使すべきときに行使しなかった場合には、不作為の違法確認訴訟や義務付け訴訟を提起されたり、国家賠償請求訴訟を提起されたりするので、このような誤解は早急に改めねばならない。





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