大阪府立中之島図書館は、明治37年(1904年)に、第15代住友吉左衛門氏の寄付によって完成した。現役の公共図書館の中で国内最古で、国の重要文化財に指定されている。
この中之島図書館は、ネオ・バロック様式の大変立派な図書館なのであるが、府市対立の象徴の一つでもある。
すなわち、中之島図書館の敷地は、大阪市所有の土地で、大阪府が無償で借りていると考えられていたが、平成20年(2008年)に、法務局がこの土地が大阪府所有であるとする明治時代の登記簿を発見したことから、橋下徹大阪府知事が訴訟に持ち込もうとしたところ、大阪府と大阪市が土地を交換して、大阪市に所有権が移転したとする明治時代の契約書が見つかったことで、大阪市の所有地ということで一件落着したことがあった。
もともと大阪府と大阪市は、仲が悪いようだ。戦前は、中央集権体制であり、①国②国の出先機関である都道府県③市町村という序列に基づく上下主従関係にあったため、大阪市にとって大阪府は目の上のたん瘤だった。
そこで、戦前、同様の悩みや不満を抱える東京以外の5大都市(大阪市、京都市、横浜市、名古屋市、神戸市)が府県から独立して、府県と同様の権限を持つ「特別市」制度の設置を求める自治権拡大運動を展開し、戦後、昭和22年(1947年)制定の地方自治法により、悲願であった特別市制度が新設された。
しかし、この5大都市の独立に危機感を抱いた府県側の圧力によって、結局、特別市の指定は行なわれずに廃止され、昭和31年の地方自治法改正により、この5大都市を府県の枠内にとどめた上で、一定の権限を府県から移譲する「指定都市」制度が設けられたという経緯がある。
このような明治以来の曰く因縁が大阪都構想へとつながるのだから、恐ろしいものだ。平成20年(2008年)、橋下徹氏が大阪府知事選に当選し、様々な改革を実施しようとしたら、平松邦夫大阪市長率いる大阪市が足を引っ張ることから、平成23年(2011年)、「大阪市をぶっ潰す!」と言って大阪市長選に出馬して当選し、提言したのが大阪都構想だ。
大阪都構想それ自体は、昭和28年(1953年)から何度も俎上に上ったアイデアであって、橋下氏のオリジナルではない。
大阪都になれば、指定都市制度によって大阪府から大阪市に移譲された権限が大阪都に戻ってくるだけではない。大阪市は、解体されて、複数の特別区に分割され、上下水道や消防などの大阪市の権限が大阪都に移譲されるとともに、大阪市の税収であった法人市民税や固定資産税等が大阪都に入ることになるのだ。
普通の市になることが東京23区(特別区)の長年の悲願であることからも明らかなように、大阪都構想は、まさに「大阪市をぶっ潰す!」劇薬だ。
当時の大阪維新の会の勢いは、国政に影響を与えるほど強かった。大阪都構想を実現できるようにするため、平成24年9月5日、大都市地域における特別区の設置に関する法律が制定され、関係市町村を廃止し、当該関係市町村の区域の全部を分けて定める区域をその区域として、特別区を設けることが認められた。
そこで、満を持して平成27年5月17日、同法に基づいて、大阪市を廃止して特別区を設けることの賛否を問う住民投票を行ったところ(投票率66.83%)、1万741票の僅差で反対が多数となったことから、橋下氏が大阪市長を辞職したことは記憶に新しい。
大阪都構想の目的の一つは、二重行政を解消して行政効率を向上させることだと言われている。しかし、二重行政と呼ばれてきたものの多くは、従来の知事と市長が協調しないことに原因があるとも言われてきた。
平成26年5月30日の地方自治法改正により、二重行政を解消することを目的として、指定都市及び都道府県の事務の処理について連絡調整を行うために必要な協議をする指定都市都道府県調整会議が設置されることになったのであるから(地方自治法第252条の21の2)、現在、同じ大阪維新の会の吉村氏と松井氏が知事と市長を占めている以上、この指定都市都道府県調整会議を活用して、両者が協調すれば、多くの二重行政が解消するのではないかと思われるのであるが、上記記事にあるように中之島図書館のカフェ一つとってみても、協調とは程遠いのが現実だ。一事が万事この調子だ。
大阪府も大阪市もそれぞれ言い分があろうが、いつまでも府市対立を続けることは、住民のためにならない。兵庫県と神戸市も、曰く因縁があったそうであるが、阪神淡路大震災をきっかけに協調するようになったそうだ。兵庫県と神戸市にできて、大阪府と大阪市ができないことはなかろう。
中之島図書館のカフェについては、サテライトキャンパスは、学生及び大学関係者しか利用できないので、図書館利用者が誰でも入店できるカフェと同列に扱うことはできないと考えられ、大阪府の主張に一理あるのではなかろうか。
まあ、なんにせよ、寄付された第15代住友吉左衛門氏の遺志を汲んで、住民ファーストで問題を解決して欲しいものだ。
<追記>
こちらは、共同歩調が取れていないケースだ。
リンクが切れているので、後学のために、スクショを貼らせていただく。
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/105365?utm_source=headlines.yahoo.co.jp&utm_medium=referral&utm_campaign=relatedLink
0コメント