先日のブログ「携帯電話は公費負担で<追記あり>」において、公務員の私物である携帯電話を公務に用いることを禁止すべきであり、かつ、公務員に公務用の携帯電話を無償貸与すべきだと述べた。
これとワンセットで、いわゆる「つながらない権利」を公務員に認めるべきだ。
いわゆる「つながらない権利」は、フランス語のle droit de ladéconnexion、英語のright to disconnectの訳だ。直訳すれば、「切断する権利」又は「接続を切る権利」ということになる。つまり、労働者が勤務時間外に仕事の電話やメール(メッセージを含む。)の対応を拒否できる権利をいう。
誰が「つながらない権利」と訳したのかは知らぬが、なんともヘンテコリンな訳語だ。「つながらない」というのは電話をかけた人やメールを送信した人から見た状態であるのに、権利者は受信者だからだ。
権利の主体性を重視して、権利者から見た訳語の方が望ましいだろう。例えば、「つながりを断つ権利」、端的に「応答拒否権」又は「遮断権」若しくは「接続切断権」若しくは「接続拒否権」とでも訳した方がよかろう。
ただ、ネット検索する限り、いわゆる「つながらない権利」という訳語が広く流布しているので、ここでもこの訳語を使うことにする。
この「つながらない権利」は、2004年、フランス最高裁が、勤務時間外に労働者の携帯電話にアクセスできなかったという事実は不正行為とみなすことができないという裁定を下したことがきっかけとなって、労働者個人と家族の生活の尊重及び健康と安全の保護を図るため、2017年1月に施行されたフランスの改正労働法に世界で初めて明記された。
従業員が50人以上の会社は、つながらない権利の行使条件について労使交渉しなければならないと義務付けられ、交渉義務を遵守しなかったときには、1年の懲役と3,750ユーロの罰金が科されることになった。
契約自由の原則から、合意すべき義務は課されていないが、合意に至らない場合には、つながらない権利の行使条件を定めた定款の作成が義務付けられた。定款作成義務違反に対する罰則はないが、労働者は権利侵害を理由に訴訟を提起することが可能だ。
その後、「つながらない権利」は、イタリア、カナダ、イギリス、フィリピン、ニューヨーク市などで次々に法制化されているそうだ。
ひと昔前であれば、業務連絡・命令するには職場備え付けの電話やPCを利用することが一般的で、勤務時間外に労働者と連絡を取ろうにも、労働者の自宅の固定電話へ電話をかけるかPCにメールするしかなく、在宅していない場合(居留守も含む。笑)や在宅していてもPCのメーラーを起動させていない場合には、連絡がつかなかったから、一度帰宅してしまえば、通常、業務連絡・命令という呪縛から逃れることができた。
ところが、携帯電話の普及により、いつでもどこでも仕事の電話やメールに対応しなければならなくなり、公私の区別が付かなくなってプライベートな時間を確保できなくなるだけでなく、気の休まる時間がないために、自律神経が乱れてしまって、睡眠不足になったり、スマホが着信振動しているように錯覚する幻想振動症候群を発症したり、うつ病になったりするなど、労働者の健康を害するようになった。そこで、フランスで生まれた新しい人権が「つながらない権利」というわけだ。
「つながらない権利」を法制化して、公務員に「つながらない権利」を認める方が明確になって望ましいが、個人的には法制化しなくても、以下の業務改善及び勤務条件の改善によって同様の効果を得られるのではないかと思っている。
まず、上司が勤務時間外に部下の携帯電話へ電話やメールをして業務に関する指示をすることは、時間外勤務に当たるということを周知徹底させるべきだ。そうすれば、上司が部下に対して勤務時間外に気軽に電話やメールをすることを抑止できるからだ。
すなわち、勤務時間とは、使用者の指揮監督下にいなければならない時間をいう。最高裁は、「労働基準法上の労働時間・・・とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。」と判示している(三菱重工業長崎造船所事件・最判平12.3.9)。
それ故、勤め先の役所の上司から勤務時間外に業務に関する指示があった場合には、使用者の指揮監督下にあると言えるので、その時間は勤務時間に含まれ、時間外勤務命令なくして時間外勤務させれば違法であるし、時間外勤務手当(超過勤務手当)を支給しなければならない。
次に、出入業者や住民に私有携帯電話の電話番号やメールアドレスを教えることを禁止すべきだ。通常、職員が出入業者や住民に私有携帯電話の電話番号やメールアドレスを教えることはないだろう。
しかし、地域振興を担当している職員の場合、例えば、市民まつりを成功させるためには、地元の商店街や自治会との連携が不可欠であることから、止むを得ず電話番号やメールアドレスを商店街や自治会の役員に教えることがあるらしくて、「今飲んでいるから、お前もすぐに来い!」という電話やメールがあると、ご機嫌を損ねるわけにはいかないために、平日の深夜であっても飲み屋に行かざるを得ないらしい。また、工事を円滑に進めるために、出入業者に電話番号やメールアドレスを教えることもあるらしいが、不正の温床となりかねない。
役所が公務用の携帯電話を無償貸与し、一元的に管理すれば、このようなことを防ぐことが可能になる。
さらに、労使が協議して、如何なる場合に勤務時間外に電話やメールをしてよいかについて線引きを行うべきだ。自然災害があった場合には、勤務時間外であっても職員を緊急招集せざるを得ないので、この場合には勤務時間外であっても電話やメールをすることについては、職員団体・労働組合も了解してくれるだろうが、それ以外の場合については、しっかりと話を詰める必要があろう。
同様に、勤務時間外に出入業者や住民から電話やメールがあった場合の対応の仕方も協議すべきだろう。勤務時間外には対応できない旨を予め出入業者や住民に周知徹底しておくとともに、サポートセンター(宿直)を用意して緊急対応できる体制を整えることが肝要だと思われる。
公務員の働き方改革が話題になって久しい。ぜひ「つながらない権利」についても議論を深めてほしいものだ。
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