「準用」1


 自治体職員研修では知ったかぶりして偉そうに講義しているが、実は分からないことが多い。その一つが「準用」だ。

 以下、愚見を述べる。間違っているかも知れないので、鵜呑みにしないで頂きたい。


 甲市の条例の規定を、乙市の条例が準用することは許されるのか?


1 「準用」の定義

 条文を読んでいると、「◯◯法第◯条の規定は、×××について準用する。」という規定がよく出てくる。これが準用規定と呼ばれるものだ。


 準用とは、法自らが明文の規定をもって、ある事項に関する規定を、他の類似の事項について、必要な修正を加えてあてはめることであって、同様の規定を繰り返すことによる条文数の増加を防止する立法技術だ。「甲の場合には(法律要件)、△すべし(法律効果)」という条文を、乙の場合に準用すると規定されていると、「乙の場合には、△すべし」という条文があるのと同じ結果になるわけだ。

 ただ、どのような修正を加えたら良いかが分かりにくいという短所があるため、「規定中、「X」とあるのは「Y」と読み替えるものとする。」という読み替え規定が置かれることがある。


 参考までに、手元にある法律用語辞典の定義を載せておく。


 「準用」とは、「甲に関する規定を、甲と本質の異なる乙について、必要があれば修正をしながら、あてはめること。適用は、本質の同じものにあてはめるのであり、したがって修正の必要のないことを前提とする点で準用と異なる。法律はしばしば準用の手段を用いる。立法技術としては、同様の規定を繰り返さずにすむから規定を簡単にする長所があるが、その反面、法律の検索を煩雑にするだけでなく、往々修正の要否について疑義を生じ、解釈を紛糾させる短所がある。なお、法律上明文の規定がない場合にも、解釈で準用を試みることがある。甲について規定があって乙について規定がない場合に、甲と乙とは本質を異にするがしかもなお両者の間に価値の等しいものがあるときは、そのかぎりにおいて、甲に関する規定を乙に準用するのである。もっとも、解釈によって準用するときは、類推的ようといわれる場合が多い。準用は類推適用よりも甲乙両者の関係の近い場合に用いられる傾向がないでもないが、はっきりとした区別はない。→「類推」」(編集代表我妻栄『新版 新法律学辞典』(有斐閣))。


2 甲市の条例の規定を、乙市の条例が準用することは許されるのか。

 

 この問題について、法制執務研究会編『新訂ワークブック法制執務』(ぎょうせい)等の本やネットを調べてみたが、言及しているものはなかった。


 しかし、「準用」概念を正確に把握しさえすれば、自ずから答えが出ると考えられる。

 すなわち、例えば、上記の『新版 新法律学辞典』(有斐閣)の定義には、「甲に関する規定を、甲と本質の異なる乙について、必要があれば修正をしながら、あてはめること。」とある(ゴシック体:久保。)。

 準用は、必要な修正を加えるとはいえ、甲に関する規定を乙についてあてはめることが可能であることを当然の前提にしているわけだ。これを便宜上「第1テーゼ」と呼ぶことにする。


 そうだとすれば、甲市の条例は、原則として甲市にのみ適用され、乙市に適用することができない以上、甲市の条例の規定を、乙市の条例が準用することは、第1テーゼに反し、許されないということになる。


 ところが、自治体の例規の中には、自治体の職員給与条例又は同施行規則が人事院規則を準用しているケースが少なからずある(例えば、cf.1からcf.6まで。なお、cf.7)。


 そもそも人事院規則は、国家公務員に適用される国の法令であって、地方公務員には適用されないから、自治体の職員給与条例又は同施行規則が人事院規則を準用することは、第1テーゼに反する。したがって、自治体の職員給与条例又は同施行規則が人事院規則を準用することは、許されない。


 私の推論が正しいとすれば、憲法論的には、「法律の範囲内で条例を制定することができる」と定める憲法第94条に反することになろう。


 これらの例規を定めている自治体は、如何なる論理で人事院規則を準用しているのだろうか。分からないので、ご存知の方はご教授下さい。


cf.1宇美町職員の給与に関する条例 (昭和28年9月1日条例第4号)

附 則(昭和48年10月5日条例第20号)

(人事院規則の準用)

3 この条例の施行に関し必要な事項は、人事院規則を準用する


cf.2篠栗町特別職の職員で常勤のものの給与及び旅費に関する条例 (昭和43年4月1日 条例第7号)

附 則(昭和44年1月24日条例第3号)

3 この附則に定めるもののほか、この条例の中に「規則で定める」とあるもの及び条例の施行に関し必要な事項は、人事院規則を準用する


cf.3単純な労務に雇用される職員の給与の種類及び基準に関する条例( 昭和36年2月15日 須恵町条例第79号)

附 則(平成2年12月26日条例第21号)

(人事院規則への委任)  ←「委任」???(久保)

4 この条例の施行に関し必要な事項は、国家公務員の一般職の職員の給与に関する法律及び人事院規則を準用する


cf.4都城市一般職の職員の初任給、昇格、昇給等の基準に関する規則 (平成20年10月30日 規則第73号)

(準用)

第29条 この規則の施行に関し必要な事項は、人事院規則を準用する


cf.5串間市職員の管理職員特別勤務手当の支給に関する規則(平成27年3月31日串間市規則第23号)

(準用)

第6条 この規則に定めるもののほか、必要な事項は、人事院規則を準用する


cf.6南丹市職員の自己啓発等休業に関する規則 (平成19年10月1日 規則第22号)

(職務復帰後における給与の調整)

第10条 条例第10条の職務復帰後における給与の調整は、国の例(人事院規則(初任給、昇格、昇給等の基準)及びその細則)を準用する


cf.7永平寺町文化財保護条例 (平成18年2月13日 条例第95号)

(準用規定)

第24条 文化財の指定又は解除の通知書、所有者又は管理者の変更の届書等の様式は、県条例施行規則を準用する




 

 

 

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