「準用」2


 同じ自治体において、規則の規定を条例が準用することは許されるのか?  

 

 この問題については、検索したら、下記の記事があった。賛成だ。ただ、なぜ「準用は、上位又は同レベルの例規について行う」と考えるのかについて、残念ながら理由が書かれていない。

 私なりに理由を考えてみたが、間違っているかも知れないので、鵜呑みにしないで頂きたい。

http://lawinfo.crestec.jp/faq/?p=1034


 準用は、同様の規定を繰り返すことによる条文数の増加を防止する立法技術だから、同一の法令内に甲に関する規定とこれを乙に準用する準用規定が置かれることが多い。


 しかし、法令の中には、異なる法令に置かれた甲に関する規定を乙に準用する場合が少なからずある。

 これが許されるためには、如何なる要件を充さなければならないのだろうか。


 準用は、必要な修正を加えるとはいえ、甲に関する規定を乙についてあてはめることが可能であることを当然の前提にしているという第1テーゼから、甲に関する規定と準用規定は、同じ国法形式である場合か、異なる国法形式であっても、甲に関する規定を乙についてあてはめることが可能な場合でなければならない。


 ただし、甲に関する規定とこれを乙に準用する準用規定が異なる国法形式である場合に、甲に関する規定が準用規定の下位法であるときには、下位法によって上位法の内容が否定されるおそれがある。

 そこで、「上位法は、下位法に勝る」という原則(形式的効力の原理)から、甲に関する規定は準用規定の上位法でなければならない。


 以上をまとめると、甲に関する規定とこれを乙に準用する準用規定は、同じ法令内に置かれるか若しくは同じ国法形式でなければならず、又は甲に関する規定とこれを乙に準用する準用規定が異なる国法形式である場合には、甲に関する規定は準用規定の上位法でなければならない。これを便宜上「第2テーゼ」と呼ぶことにする。


 では、同じ自治体において、規則の規定を条例が準用することは許されるのか。


 まず、議会の議決によって成立する条例と長が制定する規則は、地方自治法上、異なる国法形式である。

 次に、二元代表制から、条例と規則は、原則として対等であるが、条例の方がより民主的であり、長も条例の制定に関して再議(地方自治法第176 条)によって関与することができることから、条例事項(国の法令が条例に委任した事項)でも規則事項(国の法令が規則に委任した事項)でもない共管事項について、条例と規則が相矛盾する定めをした場合には、条例の方が規則に優先すると解されているので、共管事項については、条例は規則の上位法であると言える。

 そして、甲に関する規則の規定を条例が乙に準用するということは、まさに乙が条例と規則の共管事項であることを意味する。さもなければ、第1テーゼに反するからだ。

 したがって、下位法である規則の規定を上位法である条例が準用することは、第2テーゼに反し、許されないということになる。


 また、記事にもあるように、制定手続の違いから、条例が規則の規定を準用することによって、条例の内容を議会の議決を要しない規則で改正できるという弊害がある。

 さらに、条例事項(国の法令が条例に委任した事項)について、規則の規定を準用した場合には、長が規則によって条例事項を定めることと実質的に同じ結果になって、国の法令が条例に委任した趣旨を没却するおそれがある。

 これらの弊害があることからも、下位法である規則の規定を上位法である条例が準用することは避けるべきだ。


 ところが、自治体の例規の中には、同じ自治体において、条例が規則の規定を準用しているケースがある。


 同じ自治体において、条例が規則の規定のみを準用している例は、僅かながらある(例えば、cf.1、cf.2)。

 いずれも実害はなかろうが、第2テーゼに反するから、許されない。


 これに対して、同じ自治体において、条例が他の条例及び同条例施行規則の規定をワンセットで準用している例は、少なからずある(例えば、cf.3、cf.4、cf.5、cf.6)。

 同じ自治体において、条例が他の条例の規定を準用する場合においては、この条例の規定に基づく施行規則を準用するという趣旨だと解すれば、第2テーゼには反しないが、前述した弊害のおそれがあるから、安易な準用は避けるべきだろう。

 なお、国の法令の中にも、この点をきちんと明確にした上で、同種の準用をしているものがある(cf.7、cf.8)。自治体の例規の安直な表現と比較して欲しい。


cf.1宮田村国民健康保険税条例 (昭和34年4月21日 条例第37号)

(国民健康保険税の納税通知書)

第24条 国民健康保険税の納税通知書の様式は、宮田村税に関する規則を準用する


cf.2利尻町漁業集落排水事業受益者分担金条例 (平成16年3月22日条例第2号)

(その他)

第6条 この条例の施行に関し必要な規則は、利尻町公共下水道事業受益者負担金条例施行規則を準用する。この場合において、「公共下水道」とあるのは「漁業集落排水」と読み替えるものとする。


cf.3松山市教育委員会職員の分限,懲戒,服務に関する条例( 昭和27年11月20日 条例第47号)

第1条 松山市教育委員会職員の分限,懲戒,服務に関する条例は,別段の定めある場合を除くほか,松山市職員に適用する諸条件ならびに諸規則を準用する。 ←「条件」は入力ミスだろう(久保)

附 則

1 第1条の諸条例ならびに諸規程中「市長」とあるのは,すべて「教育委員会」と読み替えるものとする。

2 県費支弁の学校職員の分限については,愛媛県条例第43号の規定による。

3 この条例は,公布の日から施行し,昭和27年11月1日からこれを適用する。


cf.4松山市教育委員会職員給与および旅費条例 (昭和27年11月20日 条例第46号)

第4条 諸給与および旅費の支給額およびその支給方法は,別段の定めあるものを除くほか, 松山市職員給与条例(昭和27年条例第31号)および 松山市職員等の旅費に関する条例(平成2年条例第9号)その他給与または旅費支給に関係ある諸規則を準用する

附 則

1 第4条の関係条例中「市長」とあるのは「教育委員会」と読み替えるものとする。

2 この条例は,公布の日から施行し,昭和27年11月1日からこれを適用する。


cf.5鳥栖市議会事務局設置条例 (昭和44年10月14日 条例第25号)

第5条 事務局職員の給料その他給与については、鳥栖市職員の給料関係条例及び規則を準用する


cf.6出水市農道及び排水路の管理に関する条例( 平成18年3月13日 条例第128号)

(占用料の額)

第8条 第6条第1項第1号、第4号又は第5号に掲げる行為に係る許可を受けた者は、占用料を納付しなければならない。

2 第6条第1項第1号の占用料の額及びその算出方法は、出水市道路占用料徴収条例(平成18年出水市条例第152号)の規定を準用する。

3 第6条第1項第4号又は第5号の占用料の額及びその算出方法は、出水市流水占用料等徴収条例(平成18年出水市条例第167号)の規定を準用する。

(土石等の採取料の額)

第9条 第6条第1項第6号に掲げる行為に係る許可を受けた者は、土石等採取料を納付しなければならない。

2 前項の土石等採取料の額及び算出方法は、出水市流水占用料徴収条例の規定を準用する。

(占用料等の徴収方法)

第10条 第8条第1項の占用料及び前条第1項の土石等採取料(以下「占用料等」という。)の徴収方法については、第8条及び前条でそれぞれ準用した条例及びその条例に関係する規則を準用する


cf.7住宅地区改良法施行令 (昭和三十五年政令第百二十八号)

(公営住宅法に基づく政令の準用)

第十二条 法第二十九条第一項の規定により公営住宅法の規定が準用される場合においては、それらの規定に基づく政令の規定を準用するものとする。この場合において、公営住宅法施行令(昭和二十六年政令第二百四十号)第六条第一項中「二十五万九千円」とあるのは「十五万八千円」と、同条第二項中「十五万八千円」とあるのは「十一万四千円」と読み替えるものとする。


cf.8国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律施行令 (平成四年政令第二百六十八号)

(国際機関等に派遣される防衛省の職員の処遇等に関する法律に基づく政令の準用)

第十一条 法第二十八条の規定により国際機関等に派遣される防衛省の職員の処遇等に関する法律(平成七年法律第百二十二号)の規定が準用される場合においては、それらの規定に基づく政令の規定を準用するものとする

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