犯罪ではないのに、告発することができる?

 合併前の津田町ごみ等の散乱防止及び環境美化に関する条例第10条は、「この条例による勧告等に従わない者に対し、清掃奉仕等を指示することができる。」とされていた。

 「指示」は、行政指導にすぎないから、清掃奉仕等の指示に従うべき義務を負うものではない。


 これに対し、合併後のさぬき市環境美化の促進に関する条例第10条は、これを強化し、義務付けている。

 すなわち、「ごみ等を収納し、又は自己の所持の下に置くべきことを命ずることができる」(同条第1項)、「期限を定めてその勧告に従うべきことを命ずることができる」(同条第2項)と定めている。

 清掃奉仕等の指示に従わない人が多かったからかも知れない。


 興味深いのは、さぬき市環境美化の促進に関する条例第12条第1項が、「市長は、第10条第1項の規定に違反した者について告発する・・・ことができる」と定めている点だ。


 ここに「告発」とは、犯罪の被害者や犯人でない第三者が犯罪事実を申告し、犯罪者の処罰を求める意思表示をいう。刑事訴訟法第239条第1項は、「何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる」と定めている。つまり、誰であっても、犯罪があると思ったら、告発することができるわけだ。


 しかし、同条例は、第10条第1項の規定に違反した者に対して行政刑罰を科する旨の規定を設けていないから、同条項に違反することはそもそも犯罪ではないので、告発を受けた捜査機関は、これを門前払い(受理拒否)せざるを得ない。捜査機関からすれば、はた迷惑な話だ。


 さぬき市の職員・市議会議員が「告発」の意味をご存知ないはずはなかろうから、どうして同条例に「告発する・・・ことができる」と定められたのか、不思議だ。


 仮に市長が告発したら、どうなるのだろうか。

 そもそも同条例第10条第1項違反は犯罪ではないから、虚偽告訴罪(刑法第172条)には該当せず、虚構の犯罪の事実を申告したということで、市長は、軽犯罪法第1条第16号違反に問われることになるのだろうか。


cf.1津田町ごみ等の散乱防止及び環境美化に関する条例(平成8年津田町条例第10号)

(不履行者の義務)  

第10条 

町長は、この条例による勧告等に従わない者に対し、清掃奉仕等を指示することができる


cf.2さぬき市環境美化の促進に関する条例(平成14年4月1日条例第140号)

(命令)

第10条 市長は、第4条第1項の規定に違反した者に対し、ごみ等を収納し、又は自己の所持の下に置くべきことを命ずることができる

2 市長は、前条の規定による勧告を受けた者がその勧告に従わないときは、期限を定めてその勧告に従うべきことを命ずることができる

(違反者への措置)

第12条 市長は、第10条第1項の規定に違反した者について告発するとともに、その氏名を公表することができる

2 市長は、第10条第2項の規定に違反した者について、その氏名を公表することができる。


cf.3刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)

第二百三十九条 何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる

○2 官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。


cf.4刑法(明治四十年法律第四十五号)

(虚偽告訴等)

第百七十二条 人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、三月以上十年以下の懲役に処する


cf.5軽犯罪法(昭和二十三年法律第三十九号)

第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する

十六 虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者


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