市長さんが市中を見回っているの?

 茨城県の桜川市空家等の適正管理に関する条例第5条第1項は、「市長は、前条に規定する情報の提供を受けたとき又は自ら発見したときは、当該空家等についての状況を調査することができる。」と定めている(cf.1)。


 えッ!? 市長さんが市中を見回っていらっしゃるの???市長さん限定???


 同様の規定は、福岡県の大牟田市空き地及び空家等の適正管理に関する条例第7条第1項・第2項にもある(cf.2)。


cf.1桜川市空家等の適正管理に関する条例 (平成30年3月20日 条例第1号)

(調査等)

第5条 市長は、前条に規定する情報の提供を受けたとき又は自ら発見したときは、当該空家等についての状況を調査することができる。

2 市長は、この条例の施行に必要な限度において、当該空家等に職員を立ち入らせ、その状況を調査させ、又は所有者等若しくは関係者に対し質問させることができる。

3 前項の規定により立入調査又は所有者等若しくは関係者への質問をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、所有者等若しくは関係者の請求があったときは、これを提示しなければならない。

4 第1項の規定による立入調査又は質問の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。


cf.2大牟田市空き地及び空家等の適正管理に関する条例 (平成28年12月28日条例第32号の2)

(空き地及び空家等の立入調査等)

第7条 市長は、前条の規定により空き地に係る情報の提供を受けたとき、又は自ら発見したときは、この条例の施行に必要な限度において、当該空き地の所有者等の所在等を調査し、又は当該空き地の管理不全な状態の程度について、当該空き地に職員を立ち入らせ調査させることができる。

2 市長は、前条の規定により空家等に係る情報の提供を受けたとき、又は自ら発見したときは、法第9条の規定に基づき、当該空家等について立入調査等を行うことができる。

3 市長は、第1項の規定により立入調査を行う場合は、その5日前までに、当該空き地の所有者等にその旨を通知しなければならない。ただし、当該所有者等に対し通知することが困難であるときは、この限りでない。

4 第1項の規定により立入調査を行う職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があったときは、これを提示しなければならない。

5 第1項の規定による立入調査等の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。


 桜川市や大牟田市のように「自ら」とは明記されていないが、文脈から市長自ら発見した場合に限定しているものと考えられる規定もある。

 鳥取県の倉吉市公共施設等における放置自動車の適正な処理に関する条例第4条第1項(cf.3)及び千葉県の富里市放置自動車の適正な処理に関する条例第4条(cf.4)だ。


cf.3倉吉市公共施設等における放置自動車の適正な処理に関する条例 (平成27年3月26日条例第11号)

(調査等)

第4条 市長は、放置自動車を発見したときはその職員に、当該放置自動車の撤去を促すために当該放置自動車に警告書を貼り付けさせるとともに、当該放置自動車の状況、所有者等その他の必要な事項を調査させ、関係機関への通報その他の必要な措置を講ずるものとする。

2 市長は、前項の規定により放置自動車を調査させる場合において、車外からの調査では所有者等が判明しないときは、その職員に、同項の調査の目的を達成するために必要な最小限度において車内等の調査をさせることができる。この場合において、当該放置自動車が施錠されているときは、当該施錠を解除させることができる。

3 前2項の規定により調査を行う職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があったときは、これを提示しなければならない。

4 第1項及び第2項の規定による調査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。


cf.4富里市放置自動車の適正な処理に関する条例 (平成30年6月21日条例第23号)

(調査)

第4条 市長は,放置自動車を発見したときは当該職員に当該放置自動車の状況,所有者等その他の事項を調査させることができる


 市長さんが市中を見回って自ら発見した場合を想定して条文を作るのは、それぞれの自治体のご自由だから、私がとやかく言うべき問題ではないが、条例の適用範囲が不必要に狭められるため、条例の実効性が低下することは否めないだろう。


 これに対して、市長が自ら発見した場合に限定しているとは必ずしも言えないが、市長自らが発見した場合に限定しているのではないかという疑いを抱かざるを得ない規定がうんざりするほど多くある。安易なコピーアンドペーストが行われているように思えてならない。

 自治体名を出して申し訳ないが、例えば、福岡県の豊前市自転車等駐車場条例第8条(cf.5)や福岡県の中間市放置自動車の処理に関する条例第4条第1項(cf.6)など、大量にある。


cf.5豊前市自転車等駐車場条例 (平成8年3月8日条例第8号)

(放置自転車等に対する措置)

第8条 市長は,前条第2項各号に掲げる放置自転車等を発見したときは,排除対象自転車等として整理,排除を行う旨の警告札を取付け,2週間以内に当該放置自転車等の所有者等から申し出がないときは,これを移動し,保管するものとする。


cf.6中間市放置自動車の処理に関する条例 (平成23年3月29日条例第7号)

(調査)

第4条 市長は、放置自動車を発見したときは、直ちに当該放置自動車の状況、所有者等その他の事項を調査するものとする。

2 前項の規定による調査を行うため、放置自動車に損傷を加えなければ調査の目的を達成できないときは、必要最小限の範囲内でこれを行うことができるものとする。

3 第1項の規定による調査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。


 私自身の文章力のなさを棚に上げて述べることが許されるならば、一つの文章にあれこれと盛り込みすぎないようにすることが大切だと思う。

 条例の目的からして、誰が放置自動車を発見したかは重要ではないはずだ。そうだとすれば、「市長は、〜を発見したときは」を削ったら良いと思う。

 そして、まず、自動車を放置してはならない旨の禁止規定(仮に「◆条」と呼ぶ。)を設けた上で、次に、この規定の後に「市長は、◆条に違反した者に対し、〜するものとする。」という規定を設ければ、権限の主体と権限行使の要件・効果を明確にすることができ、市長が自ら発見した場合限定なのだろうかという誤解を防ぐことができると思う。

 


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