帰化許可の取消

 衆議院の質問答弁情報を見ていたら、マスコミが一切報道していないものがあったので、備忘録として載せておこうと思う。


 立憲民主党の松原仁衆議院議員の「第203回国会 60 外国工作員による不正な帰化の取消に関する質問主意書」と答弁書


 行政法総論をちょっとおさらいしておくと、国籍法上、帰化をするには、法務大臣の許可が必要だ(国籍法第4条第2項)。この「許可」は、講学上の特許(平たく言えば、本来持っていない特権を与える行政行為だ。)に相当する。

 法定の許可要件を具備していないのに、申請者の不正手段に基づいて行われた違法な許可については、取消を認める明文の規定がなくても取消が可能であると解されている。それが法律による行政の原理の要請に適うからだ。許可が取り消されると、許可当時に遡(さかのぼ)って無効になる。

 ただし、相手方に権利利益を与える行政処分については、相手方の権利利益・信頼を保護するために、原則として、取消ができないと解されている(取消権制限の法理)。しかし、申請者が不正手段を用いた場合には、その申請者の権利利益・信頼を保護すべき必要性がないから、例外的に取り消すことができると解されている。


 帰化許可について、この行政法の一般法理と別異に解すべき特段の理由はないから、国籍法には帰化許可の取消を認める明文の規定はないけれども、申請者の不正手段に基づいて行われた違法な許可については、法務大臣はこれを取り消すことができることになる。


 そうすると、答弁書は、従来の行政法の一般法理をそのまま踏襲しているだけで、決して目新しいものではないから、マスコミは、これを報道しなかったのかも知れない。


 しかし、帰化許可の取消が一度も行われたことがないこと、国籍法には不正な帰化許可申請に対する罰則規定がないことをも合わせて報道すれば、内閣・国会の平和ボケが明るみになり、国籍法の改正へとつながるだろうに、残念だ。


 近時の日本ブームの影響もあり、日本国籍を欲しがる外国人が非常に多い。そのため、国籍法第7条を悪用して、日本人と結婚して帰化許可が下りた途端に離婚するケースが多く、その背後には国際結婚のブローカーが暗躍しているらしい。

 松原議員が挙げた外国工作員のケースも合わせて、国籍法という国家主権及び国の安全保障・治安維持に関わる重大問題に対して、国民にもっと関心を持ってもらいたいものだ。


 なお、帰化許可の取消が一度も行われたことがないということは、何を根拠にしているのかという疑問が生じるかも知れない。

 帰化の審査基準の情報公開に関する裁判において、被告側である法務省が次のように主張していることを根拠にしている(東京地判平14.12.25。下線:久保。)

裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan

検索結果一覧表示画面へ戻る 平成14(行ウ)271 行政文書不開示決定に対する異議申立て棄却処分取消請求事件 平成14年12月25日 東京地方裁判所  行政 帰化許可の申請を受け付け,調査等を行う機関である法務局等の長に対して発出された法務省民事局通達であり,調査に関する指示内容を詳細かつ具体的に記載したものである「帰化事件処理要領」が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号による改正前)5条6号所定の非開示事由(事務事業情報)に該当するとされた事例 帰化許可の申請を受け付け,調査等を行う機関である法務局等の長に対して発出された法務省民事局通達であり,調査に関する指示内容を詳細かつ具体的に記載したものである「帰化事件処理要領」につき,帰化を許可するか否かの判断は法務大臣の広範な自由裁量にゆだねられているものと解され,法務大臣が裁量権を行使して帰化の許否について適正に判断を行うためには,広範な基礎資料を収集し,正確な事実を把握することが必要不可欠であるというべきであるところ,帰化事件処理要領が開示された場合には,法務大臣が帰化の許否を判断するために必要な帰化条件の具備の有無などについて調査する機関である法務局又は地方法務局における調査の対象,実施時期,手順などの調査方法,調査事項,調査上の留意点などが一般に公となり,その結果,不正な手段を用いてでも日本国籍を得ようとする者が,虚偽の供述をしたり,自己に不利益となる事実を隠ぺいしたり,関係者と通謀したりすることが容易になり,正確な事実認定の基礎資料を収集することが困難になって,法務大臣の帰化許否についての適正な判断に支障をきたす事態が生じることは十分に予想できるところであり,帰化の許否についての判断を誤った場合には,犯罪者等の素行不良者など我が国にとって好ましくない人物に対して日本国籍を付与することになり,我が国の安全や秩序の維持に重大な影響を及ぼすおそれがあるというべきであるから,帰化事件処理要領は,国が行う帰化許否事務に関する情報であって,公にすることにより,当該事務の性質上,帰化許否事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものと認められるとして,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号による改正前)5条6号所定の非開示事由(事務事業情報)に該当

www.courts.go.jp

「(3) 帰化手続きにおける正確な事実認定の重要性

ア 帰化は,日本国民としての包括的身分を創設し,公法及び私法上の各種法律関係を生じさせるものであり,その効果は,一人,帰化者だけではなく,その親族を始め多くの関係者にも影響するところが極めて大きく,このような広範な法律関係を一挙に覆すことは法的安定性の面からも好ましくないこと,帰化によって従前の国籍を喪失した場合,帰化の許可が無効であるからといって従前の国籍が必ず回復されるとは限らないことなどから,法定の帰化条件を効力要件と解することはできず,条件違背の帰化の許可は無効となることはないと解されている。

 もっとも,法定の帰化条件に違背した許可は,一般行政法の法理に従い,瑕疵の程度や,取消しの公益上の必要性と被処分者の不利益との比較衡量などを考慮し,法務大臣において取り消すこともあり得ると解されるが,上記のとおり,帰化の取消しの効果は,帰化者だけではなく関係者にも大きく影響することなどから,帰化許可を取り消すことは困難であると考えられ,現に,帰化許可を取り消した事例はない

イ このように,帰化とは,外国人に日本国民たる資格を付与する行為であって,国家の構成員を決定する極めて重要なものであるから,その許否に当たっては適正な判断が強く求められ,法定の帰化条件を具備しない者を具備しているものと誤認して帰化を許可するようなことになってはならない(犯罪者等の不良者に日本国籍を付与することとなれば,我が国の安全と秩序にも重大な悪影響を及ぼすこととなる。)。また,前記のとおり,法定の帰化条件を具備している者に帰化を許可するか否かは,法務大臣の自由裁量に属するものであるが,申請者に日本国籍を付与するのが相当か否かの総合的判断も適正に行われる必要がある。さらに,いったん許可された場合には,法定の帰化条件を満たさないことが判明したとしても,その取消しは困難であるところ,不適切な者に許可を与えることによって,我が国の安全や秩序の維持にも重大な影響を及ぼすことになるおそれもある。」


cf.国籍法(昭和二十五年法律第百四十七号)

(帰化)

第四条 日本国民でない者(以下「外国人」という。)は、帰化によつて、日本の国籍を取得することができる。

2 帰化をするには、法務大臣の許可を得なければならない。

第五条 法務大臣は、次の条件を備える外国人でなければ、その帰化を許可することができない。

一 引き続き五年以上日本に住所を有すること。

二 二十歳以上で本国法によつて行為能力を有すること。

三 素行が善良であること。

四 自己又は生計を一にする配偶者その他の親族の資産又は技能によつて生計を営むことができること。

五 国籍を有せず、又は日本の国籍の取得によつてその国籍を失うべきこと。

六 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、若しくは主張し、又はこれを企て、若しくは主張する政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入したことがないこと。

2 法務大臣は、外国人がその意思にかかわらずその国籍を失うことができない場合において、日本国民との親族関係又は境遇につき特別の事情があると認めるときは、その者が前項第五号に掲げる条件を備えないときでも、帰化を許可することができる。

第六条 次の各号の一に該当する外国人で現に日本に住所を有するものについては、法務大臣は、その者が前条第一項第一号に掲げる条件を備えないときでも、帰化を許可することができる。

一 日本国民であつた者の子(養子を除く。)で引き続き三年以上日本に住所又は居所を有するもの

二 日本で生まれた者で引き続き三年以上日本に住所若しくは居所を有し、又はその父若しくは母(養父母を除く。)が日本で生まれたもの

三 引き続き十年以上日本に居所を有する者

第七条 日本国民の配偶者たる外国人で引き続き三年以上日本に住所又は居所を有し、かつ、現に日本に住所を有するものについては、法務大臣は、その者が第五条第一項第一号及び第二号の条件を備えないときでも、帰化を許可することができる。日本国民の配偶者たる外国人で婚姻の日から三年を経過し、かつ、引き続き一年以上日本に住所を有するものについても、同様とする。

第八条 次の各号の一に該当する外国人については、法務大臣は、その者が第五条第一項第一号、第二号及び第四号の条件を備えないときでも、帰化を許可することができる。

一 日本国民の子(養子を除く。)で日本に住所を有するもの

二 日本国民の養子で引き続き一年以上日本に住所を有し、かつ、縁組の時本国法により未成年であつたもの

三 日本の国籍を失つた者(日本に帰化した後日本の国籍を失つた者を除く。)で日本に住所を有するもの

四 日本で生まれ、かつ、出生の時から国籍を有しない者でその時から引き続き三年以上日本に住所を有するもの

第九条 日本に特別の功労のある外国人については、法務大臣は、第五条第一項の規定にかかわらず、国会の承認を得て、その帰化を許可することができる。

第十条 法務大臣は、帰化を許可したときは、官報にその旨を告示しなければならない。

2 帰化は、前項の告示の日から効力を生ずる。


<追記>

 先日、ネットで話題になっていたので、スクショを撮っておいたのだが、今確認したら、「ディアナ」氏の投稿は、削除されているようなので、このスクショを載せておく。日本国籍が狙われている!

 

 ロシア女性も恐ろしいが、日本男児にもアホが多いようだ。。。

https://www.ru.emb-japan.go.jp/itpr_ja/anzen20190405.html




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