議員バッジ

 私のような市井(しせい)の者にとっては、議員バッジは、ただのバッジにすぎないが、当選なさった議員さんにとっては、住民の付託を受けた重責を自覚し、初心忘るべからずと気持ちを新たにするアイテムであって欲しいし、自治体職員さんたちにとっては、ある意味で要警戒信号かも知れない(笑)。


 この議員バッジは、本来は、議員徽章(きしょう)と言うが、「徽」という字が常用漢字表にないために、議員記章又は議員き章と表記されることが多い。


 議員には、衆議院議員、参議院議員、都道府県議会議員、市区町村議会議員がおり、混同を避けるために、それぞれ異なったデザインが用いられている。

 これらのうち、地方議会議員については、都道府県・指定都市・一般市・町村それぞれが規格を統一した全国共通議員記章があり、それを用いている議会が多い。おそらく大量発注すれば、コストを削減できるからだろう。

 しかし、例えば、大阪府のように独自の議員バッジを用いている議会もある。

 

cf.1大阪府議会議員き章規程 (昭和二十五年五月十七日 議会規程)


 

 通常、議員バッジは、議員の身分を表し、品位を保持させる目的で交付される物であるが、その着用を義務付けている自治体とそうでない自治体がある。

 例えば、神戸市の場合には、「市会議員が議会活動にたずさわるときは,必ず議員き章をはい用しなければならない。」として(神戸市会議員き章規程第2条)、着用を義務付けている。「はい用」とは、正しくは「 佩用」と表記し、勲章などを身につけることをいう。


cf.2神戸市会議員き章規程 (昭和58年3月26日 市会規程第1号)

 また、例えば、さいたま市の場合には、「議員は、その身分を明らかにするため、議員としての職務遂行中は、全国市議会共通議員章又は指定都市市会共通議員章を常に着用するものとする。」とされ(さいたま市議会議員記章規程第3条第1項)、指定都市市会共通議員章は、国会陳情のような「指定都市として共同行動の際に着用することを旨とする。」とされている(同条第2項)。


cf.3さいたま市議会議員記章規程(平成13年5月15日 議会告示第2号)

 これに対して、例えば、兵庫県の場合には、議員記章の着用を義務付ける規定はない。


cf.4兵庫県議会議員記章規程 (平成23年5月17日議会告示第3号)

 議員バッジの材質については、これを明記している自治体もある。例えば、久留米市議会の場合には、10金製であるのに対して、札幌市議会の場合には、銀製金張だ。


cf.5久留米市議会議員記章規程 (昭和35年2月12日 久留米市規程第2号)

cf.6札幌市議会議員き章規程 (昭和34年5月12日市議会告示第1号)

 京都市議会議員き章規程は、議員き章の材質について明記していないが、「メッキが剥がれる」(本性を隠しきれなくなって、化けの皮がはがれる意味。)という慣用句があるように、メッキは、あまり良いイメージがないからだろうか、22金製だった。

 しかし、下記の記事によると、製作費が1個7万円を超え、指定都市の中で最も高額であること、当選のたびに交付すること、京都市の財政が極めて厳しいことから、平成30年に金メッキ製に変更された。

 しかも、このような高額な議員バッジを着用すべき義務がないため、下記の記事に登場する北川明氏は、指定都市議長会の全国共通議員記章を着用なさっていたそうだ。


cf.7京都市会議員き章規程 (昭和35年10月6日 市会規程第3号)

 大阪市会議員記章規則は、京都市と同様に、議員記章の材質については明記していないが、22金製だそうだ。

 ただ、大阪市の場合には、京都市と異なり、「記章の交付を受けた者がその職を去ったときは、これを市に返還しなければならない。」(大阪市会議員記章規則第4条)。ヤフーオークションには、各種議員バッジが販売されており、悪用の危険性があるから、他の自治体も、大阪市を見習って、貸与制にすべきだろう。

 貸与制ならば、22金製でも別段構わないようにも思えるが、下記の記事によると、現在、大阪市議会では、再来年の統一地方選挙に向けて、早くも鍔迫(つばぜ)り合いが行われており、22金製を維持すべきか、金メッキ製に変更すべきかをめぐって、論争が起きているそうだ。大阪維新の会及び公明党は、金メッキ製に変更すべきだと主張し、自民党は、22金製を維持すべきだと主張しているらしい。コロナ禍で仕事を失ったり減少した住民から、「議員の先生方は仕事があってよろしゅうおまんなぁ〜」と言われるとは思わないようだ。

cf.8大阪市会議員記章規則( 昭和23年12月11日 規則第140号)

 弁護士バッジ(弁護士記章)も、弁護士会から貸与される物であり、原則として、金メッキ製だが、ご本人が希望すれば、所定のお金を支払って純金製にすることもできるそうだから、大阪市議会も、妥協案として、弁護士バッジと同じ扱いにするのも一つの手だろう。


 ちなみに、弁護士の多くは、金メッキ製を希望する。長年使用すると、金メッキが剥がれて、地金の銀が現れ、いわゆる銀錆(ぎんさび)により黒く変色する。ベテラン弁護士の証(あかし)だ。

 学生時代に聞いた話だが、若手弁護士の中には、ベテラン弁護士に見せかけるために、弁護士バッジを小銭入れの中に入れて、わざと金メッキを剥がす者がいるそうだ。

 無償で借りる使用貸借ですら善管注意義務(民法第400条)があるのに、わざと金メッキを剥がしたらあかんやろ!と思ったものだ。


 議員さんたちも、議員バッジの金メッキが剥がれて地金が出てきた方が、ベテラン議員の証であり、それは住民の信頼と実績の証でもあると思うようになられれば、議員バッジに高額の公金を費やさずに済むのではなかろうか。


cf.9民法(明治二十九年法律第八十九号)

(特定物の引渡しの場合の注意義務)

第四百条 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。


<追記>

 大阪市議会は、真鍮(しんちゅう)に金メッキ製の議員バッジに変更することで意見の一致をみたそうだ。

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