ここ数年、ドラマやアニメで変な読み方のセリフを聞くようになった。通常、シリアスな場面なのだが、登場人物が「セキを負う」と言うと、いっぺんに興醒めしてしまって、「せめを負う」だろ!と内心ツッコミを入れて、視聴をやめてしまう。
ずっと嘆かわしいと思いつつも、なぜ「セキを負う」と言うのだろうかと疑問に思っていたのだが、たまたま常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)を見ていたら、俳優・声優などの収録スタッフが悪いのではなく、台本を書いた脚本家と国語審議会が悪いのだということに気がついた。
ご存知のように、「責」という漢字の音読みは、シャク(呉音)、サク(漢音)、サイ(漢音)、セキ(慣用音)だ。
訓読みは、「せ」める、「せめ」だ。
それ故、例えば、改正前の民法第44条第1項「法人は理事其他の代理人が其職務を行ふに付き他人に加へたる損害を賠償する責に任ず。」の「責」を「せめ」と読んでいた。
(ちなみに、この条文は、改正により削除されている。私が学生の頃、民法の条文は、ひらがなではなく、カタカナ表記だった。)
ところが、常用漢字表の「責」の音訓には、音読みが「セキ」に限定され、訓読みも「せ」めるに限定され、「せめ」という訓読みが載っていないのだ!
「せめ」と訓読みさせるには、「責」ではなく、「責め」と送りがなをしなければならない。
https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/kanji/
しかも、最近の漢和辞典には、「せめ」という訓読みが載っていないのだ。
おそらく台本に「責めを負う」と書いてあれば、俳優や声優も「せめを負う」と言っただろうが、台本に「責を負う」と書いてあるので、常用漢字表に従って、「せを負う」と訓読みすると国語として意味を成さないから、「セキを負う」と音読みしているのだろう。
これで疑問は解消したけれども、常用漢字表に従えば、例えば、「良心の呵責に耐え切れない」の「呵責」は、「カシャク」と読むことができず、「カセキ」と読むことになるが、国語審議会はアホなのか?
<追記>
「責に任ず」と表記している国の法令は、国家賠償法など39本あった。同様に、「責に任ず」と表記している条例は、28都道府県をはじめとして773本、規則は、782本あった。
cf.1国家賠償法(昭和二十二年法律第百二十五号)
第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
② 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
第二条 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
② 前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。
第三条 前二条の規定によつて国又は公共団体が損害を賠償する責に任ずる場合において、公務員の選任若しくは監督又は公の営造物の設置若しくは管理に当る者と公務員の俸給、給与その他の費用又は公の営造物の設置若しくは管理の費用を負担する者とが異なるときは、費用を負担する者もまた、その損害を賠償する責に任ずる。
② 前項の場合において、損害を賠償した者は、内部関係でその損害を賠償する責任ある者に対して求償権を有する。
cf.2岐阜県文化財保護条例( 昭和二十九年九月八日条例第三十七号)
(所有者の管理義務及び管理責任者)
第四条の三 県重要文化財の所有者は、この条例並びにこれに基づく規則及び知事の指示に従い、県重要文化財を管理しなければならない。
2 県重要文化財の所有者は、特別の事情があるときは、専ら自己に代わり当該県重要文化財の管理の責に任ずべき者(以下この章において「管理責任者」という。)を選任することができる。
3 前条及び第一項の規定は、管理責任者について準用する。
追加〔昭和四六年条例三六号〕、一部改正〔昭和五一年条例一一号・平成三一年一五号〕
0コメント