たまたま見つけた、拓殖大学政経学部教授 椎名規子『ローマ法における婚姻制度と子の法的地位の関係 ー欧米における婚外子差別のルーツを求めてー』(政治・経済・法律研究 Vol.20No.2,pp.4781)という論文を読んだ。
椎名氏が述べているように、「これまでローマ家族法における子の法的地位については,わが国ではほとんど研究されて来な かった」からだ。
忙しくて全35ページを読み通すのが面倒な場合には、最後の2ページに「まとめ」があるので、これを読めばよいだろう。下記をクリックすると、ダウンロードされるので、気をつけていただきたい。
ローマ法について詳しく知らない人にも分かるように、ローマ法の歴史を概観した上で、ローマ法における家族法や婚姻制度の特徴を踏まえて丁寧に論じており、大変参考になった。
ただ、残念ながら、事実に対する評価に違和感を覚えた。
例えば、「古代ローマの婚姻法の第一の特徴は,初期の時代では,家父の地位や財産 の移転を伴う家父権の継承者を確保するという実際的理由が婚姻法の目的であった点である」、「ローマにおいて初期の時代から一夫一婦制度であったのは,財産の分散が過度に生じるのを避け るためであった」という評価が唯物論的だと思ったのだ。
「跡目(あとめ。家長としての身分の意味。)を継がせる」・「家を継がせる」という我が国の表現に類似した表現が古代ローマにあったのかどうかは知らないが、仮にあったとしても、それは象徴表現にすぎない。
「できることならば血肉分けたる我が子に相続させてあげたい」、「残された妻子に少しでも楽な暮らしをさせてあげたい」と想うのは、父として、夫として当然の愛情であり、人間の本性だと言える。古代ローマ人も皆そう思ったからこそ、長年のしきたりとして婚姻制度・一夫一婦制度が行われ、法として確立されたと考えるのが妥当ではなかろうか。
現代人にはイメージしにくいが、生きるためには、家を建て、畑を耕し、家畜を飼い、外敵から身を守らなければならない。農地を細分化すると生産性が下がるため、財産の分散は、財産価値を下げることになり、それは古代においては死に直結するのだ。財産の分散を避けたのも、老親や家族・親戚を世間の荒波から守るためであって、家父長制度も愛情ゆえなのだ。
椎名氏が挙げている理由は、婚姻制度・一夫一婦制度の機能にすぎず、本来の目的ではないと思われ、端的に言えば、椎名氏の説明は、エンゲルス『家族・私有財産・国家の起源』(岩波文庫)を想起させるのだ。
そこで、椎名氏を検索したところ、椎名氏は、月刊誌『法と民主主義 2010年4月号【447号】』に「離婚後の共同親権──イタリアにおける共同分担監護の原則から」という論文を載せておられた。
やっぱり。これで納得した。
https://www.jdla.jp/houmin/2010_04/
『法と民主主義』は、日本民主法律家協会(日民協)の月刊誌だ。日本民主法律家協会は、日本共産党の外郭団体である自由法曹団、青年法律家協会などと連携している団体だ。
https://www.jdla.jp/about/index.html
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