明治十年十月十二日司法省丁第七十五號達によって公布された「契約書解釋心得」は、フランス民法第三編第三章第三節第五款「合意の解釈」の翻訳だ。
これは、フランス民法の翻訳をそのまま日本に用いようとした江藤新平の努力が部分的に実現したと言える。
その後制定された旧民法財産編第四款合意の解釈第三百五十六条から第三百六十条には、同様の規定が設けられた。
第四款 合意の解釈
第三百五十六条 合意の解釈に付ては裁判所は当事者の用ゐたる語辞の字義に拘はらんより寧ろ当事者の共通の意思を推尋することを要す
第三百五十七条 一箇の語辞が各地に於て意義を異にするときは当事者双方の住所を有する地に於て慣用する意義に従ひ若し同一の地に住所を有せざるときは合意を為したる地に於て慣用する意義に従ふ
一箇の語辞に本来二様の意義あるときは其合意の性質及び目的に最も適する意義に従ふ
第三百五十八条 合意の各項目は合意の全体と最も善く一致する意義に従ひて相互に之を解釈す
一箇の項目に二様の意義ありて其一が項目を有効ならしむるときは其意義に従ふ
第三百五十九条 合意の語辞が如何に広泛なるも其語辞は当事者の合意を為すに付き期望したる目的のみを包含せるものと推定す
当事者が合意の自然若くは法律上の効力の一を明言し又は特別の場合に於ける其適用を明言したるも慣習若くは法律に因りて生ずる他の効力又は適当に受く可き他の適用を阻却せんと欲したるものと推定せず
第三百六十条 総ての場合に於て当事者の意思に疑あるときは其合意の解釈は諾約者の利と為る 可き意義に従ふ
双務の合意に於ては此規定は各項目に付き各別に之を適用す
ところが、現行の民法には、契約の解釈に関する規定がない。それ故、「契約書解釋心得」と旧民法第356条から第360条までは、契約書を解釈する上で参考になる。
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