先週の金曜日、2つの市役所の合同職員研修に出講した際に、秘書人事課課長代理さんから「条件付採用期間中の職員が育児休業(3年)を取った場合に、採用から6か月(延長した場合には1年)を経過した時点で、正式採用されるのでしょうか?」という質問を受けた。
考えたことがない問題なので、戸惑ったが、このような問題については、法令の目的、条文・制度の趣旨から発想するのが常道だ。
条件付採用職員の勤務条件は、正式採用された職員と同じだから、育児休業(3年)を取ることができる(地方公務員の育児休業等に関する法律第2条第1項)。
この点については、異論はないと思われる。
問題は、育児休業を取った条件付採用職員が、条件付採用期間6か月(延長した場合には1年)を経過した場合に、正式採用されるのかどうかだ。
本来、条件付採用職員が育児休業を取った時点で、条件付採用期間の進行がストップする制度があって然るべきなのだが、法の不備・欠缺(けんけつ)があるため、問題となる。
地方公務員法第22条前段が「六月を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用になるものとする」と定めたのは、競争試験又は選考(地方公務員法第17条の2)によって職務遂行能力の実証が一応行われているとはいえ、現場で働かせてみなければ使いものになるかどうか分からないので、実務を通じて職務遂行能力の判定を行い、不適格者を排除し、成績制(メリット・システム。地方公務員法第15条)を徹底させる趣旨だと考えられる。
とすると、育児休業を取った条件付採用職員が、その職務を良好な成績で遂行したという職務遂行能力の実証が行われていないのに、条件付採用期間6か月(延長した場合には1年)を経過したというだけで、当然に正式採用されるとすれば、地方公務員法第22条前段の趣旨を没却することになるのみならず、他の条件付採用職員との間に不平等な取扱いをすることになり、平等取扱いの原則を定める地方公務員法第13条にも違反することになる。
したがって、条件付採用職員が育児休業を取ったため、条件付採用期間6か月(延長した場合には1年)を経過した場合には、その職務を良好な成績で遂行したという職務遂行能力の実証が行われていないため、正式採用されず、育児休業を取った時点で条件付採用期間の進行がストップし、育児休業が終了した時点から再び条件付採用期間が進行し、その間に良好な成績を修めたら正式採用されると解する。
と、まあ〜こんな感じで、結論を述べて、「帰宅後調べてみます」と回答した。
そこで、昨日、調べてみたのだが、地方公務員法の教科書やコンメンタール(逐条解説)に載っていなかった。
ネットで検索したら、内閣官房の「公務員関係判例研究会 平成 31 年度 第9回会合 議事要旨」に、どなたの発言であるかは明記されていないのだが、「条件付採用期間中の育児休業の取得は権利行使として認められるが、条件付採用 期間中の勤務評定との関係をどうするかということについては、法令改正時に定め られていない。 現行では、育児休業で勤務日数を 90 日確保することができないまま1年経過す ると正式採用になる。育児休業制度を作る際に、条件付採用期間との関係を整理し ておくべきだったと考える。」とあった。
確かに、「育児休業制度を作る際に、条件付採用期間との関係を整理し ておくべきだったと考える」というご意見には、私も同感だ。
しかし、「 現行では、育児休業で勤務日数を 90 日確保することができないまま1年経過す ると正式採用になる」というご意見には賛成しかねる。
なぜならば、育児休業と条件付採用とは全く別個の制度であり、その職務を良好な成績で遂行したという職務遂行能力の実証が行われていないのに、正式採用をすることは、条件付採用制度の趣旨を没却し、かつ、平等取扱いの原則に反するからだ。
ネット検索の結果、個人情報保護委員会事務局総務課 松原 麻莉「条件付採用期間中に育児休業を取得した常勤職員の勤務日数が期間終了時点で80日の場合正式採用となるか : 条件付採用制度と育児休業制度」(『自治実務セミナー』 (701), 32-34, 2020-11 、第一法規)という論文があることが分かった。
地元の図書館にはなく、大阪市立図書館(中央図書館)に所蔵されていることが分かったので、今日行って、閲覧・複写してきた。
「Xは常勤職員であるため、条件付採用期間中においても、育児休業をすることは可能である。よって、採用から6月を経過する時点において、育児休業をしたために勤務日数が90日を下回ることはあり得る。
総務省が示している職員の条件付採用の期間の延長に関する規則(案)と同様の規則をA県が定めている場合に、条件付採用期間中において実際に勤務した日数が90日に満たないため、条件付採用期間の延長を行うこととなる。
すなわち10月1日時点において条件付採用期間中、職務を良好な成績で遂行したという能力実証が行われていないため、Xを正式採用することはできず、引き続き条件付採用期間が続くこととなる。」(34頁)。
「10月1日時点において条件付採用期間中、職務を良好な成績で遂行したという能力実証が行われていないため、Xを正式採用することはできず」という部分は、賛成だ。
しかし、「引き続き条件付採用期間が続くこととなる」とあるのだが、その意味がよく分からない。
すなわち、①私のように、育児休業を取得した時点で条件付採用期間の進行が停止し、育児休業が終了した時点から進行を始め、良好な成績を修めたら正規採用されるという意味なのか、それとも②育児休業を取得しても条件付採用期間は、停止せずにそのまま進行し、延長1年を経過した時点で、職務を良好な成績で遂行したという能力実証が行われていないため、結局、正式採用されないことになるという意味なのかが分からないのだ。
もし②の意味だとしたら、育児休業を取ったことにより、職務を良好な成績で遂行する機会が与えられないことになって、育児休業を理由とする不利益取扱いの禁止(地方公務員の育児休業等に関する法律第9条)に違反することになるから、賛成できない。
さらに、「洋々亭Forum」というサイトで検索したら、スレがあった。う〜ん、いつも通りの錯綜した議論だった。。。意見が一つにまとまらなくても、議論をすること自体が理解を深めるので、有意義ではあるが。
皆さんは、どのようにお考えだろうか?
cf.1地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)
(平等取扱いの原則)
第十三条 全て国民は、この法律の適用について、平等に取り扱われなければならず、人種、信条、性別、社会的身分若しくは門地によつて、又は第十六条第四号に該当する場合を除くほか、政治的意見若しくは政治的所属関係によつて、差別されてはならない。
(任用の根本基準)
第十五条 職員の任用は、この法律の定めるところにより、受験成績、人事評価その他の能力の実証に基づいて行わなければならない。
(採用の方法)
第十七条の二 人事委員会を置く地方公共団体においては、職員の採用は、競争試験によるものとする。 ただし、人事委員会規則(競争試験等を行う公平委員会を置く地方公共団体においては、公平委員会規則。以下この節において同じ。)で定める場合には、選考(競争試験以外の能力の実証に基づく試験をいう。以下同じ。)によることを妨げない。
2 人事委員会を置かない地方公共団体においては、職員の採用は、競争試験又は選考によるものとする。
3 人事委員会(人事委員会を置かない地方公共団体においては、任命権者とする。以下この節において「人事委員会等」という。)は、正式任用になつてある職に就いていた職員が、職制若しくは定数の改廃又は予算の減少に基づく廃職又は過員によりその職を離れた後において、再びその職に復する場合における資格要件、採用手続及び採用の際における身分に関し必要な事項を定めることができる。
(条件付採用)
第二十二条 職員の採用は、全て条件付のものとし、当該職員がその職において六月を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用になるものとする。 この場合において、人事委員会等は、人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定めるところにより、条件付採用の期間を一年に至るまで延長することができる。
cf.2地方公務員の育児休業等に関する法律(平成三年法律第百十号)
(育児休業を理由とする不利益取扱いの禁止)
第九条 職員は、育児休業を理由として、不利益な取扱いを受けることはない。
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