臨時適用

 行政処分については、行政行為の附款(ふかん)として期限を付けることがあるが、一定期間に限って臨時的に法令を適用する臨時適用」という行政手法があることを恥ずかしながら知らなかった。


 石川県羽咋市(はくいし)の「千里浜(ちりはま)なぎさドライブウェイ」は、日本で唯一自動車やバイクで砂浜を走れる場所として、一部のマニアの間で有名らしい。


 国交省「海岸利用者の安全 海岸利用者の安全を確保するための道路交通法の臨時適用」という資料には、「夏期に集中する利用客の安全を確保するため、本来は海岸であるにも関わらず、夏 の1ヵ月間のみ臨時的に道路交通法を適用している。 【実施開始時期】 1966 年」とある(太字・下線:久保)。

 また、「千里浜なぎさドライブウェイは石川県と羽咋郡市広域圏事務組合が協力し、管理を 行っているが、夏の交通量増加時期は、その対応にも限界がある。そこで地元警察署 に協力を依頼し、7月第3土曜日からの1ヵ月間のみ、本来は海岸である千里浜なぎさ ドライブウェイに臨時的に道路交通法を適用できるようにした。これにより交通標識の 設置やパトカーによる巡回も行われ、利用者の安全を確保できるようになった。」とある(下線:久保)。

 この国交省の資料には、その法的根拠が書かれていないが、当然道路交通法にあるだろうと当たりをつけて読んでみたら、あった。


 まず、道路交通法にいう「道路」とは、「道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第二条第一項に規定する道路、道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第二条第八項に規定する自動車道及び一般交通の用に供するその他の場所をいう」(道路交通法第2条第1項第1号。太字:久保)。

 千里浜なぎさドライブウェイは、海岸ではあるが、自動車や自動二輪車の通行の用に供されているので、「一般交通の用に供するその他の場所」に当たる。


 次に、臨時的に道路交通法を適用して、道路標識を設置することについては、道路交通法第4条第1項が根拠となっており、夏の1か月に限定することについては、道路交通法第4条第2項が根拠となっている。

 「地元警察署に協力を依頼し」とあるので、道路交通法第5条第1項に基づき石川県公安委員会から警察署長に委任されていることが分かる。


 「臨時適用」という規制手法は、複雑化多様化する行政需要に柔軟かつきめ細かく対応することが可能であり、条例案を作成する上で有益だと思われる。

 例えば、路上喫煙禁止条例・同施行規則で定められた路上喫煙禁止地区が駅前のごく一部なのだが、駅前が市民祭りのメイン会場として使われる場合には、市民祭りの開催日限定で臨時に駅前周辺全域に路上喫煙禁止条例・同施行規則を適用して、路上喫煙禁止区域にするなどの活用が考えられる。


cf.道路交通法(昭和三十五年法律第百五号)

(目的)

 第一条  この法律は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする。

(定義) 

第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

 一  道路 道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第二条第一項に規定する道路、道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第二条第八項に規定する自動車道及び一般交通の用に供するその他の場所をいう。

 (以下、省略:久保)

(公安委員会の交通規制)

 第四条  都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、又は交通公害その他の道路の交通に起因する障害を防止するため必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、信号機又は道路標識等を設置し、及び管理して、交通整理、歩行者若しくは遠隔操作型小型車(遠隔操作により道路を通行しているものに限る。)(次条から第十三条の二までにおいて「歩行者等」という。)又は車両等の通行の禁止その他の道路における交通の規制をすることができる。 この場合において、緊急を要するため道路標識等を設置するいとまがないとき、その他道路標識等による交通の規制をすることが困難であると認めるときは、公安委員会は、その管理に属する都道府県警察の警察官の現場における指示により、道路標識等の設置及び管理による交通の規制に相当する交通の規制をすることができる。 

2  前項の規定による交通の規制は、区域、道路の区間又は場所を定めて行なう。 この場合において、その規制は、対象を限定し、又は適用される日若しくは時間を限定して行なうことができる

(警察署長等への委任) 

第五条  公安委員会は、政令で定めるところにより、前条第一項に規定する歩行者等又は車両等の通行の禁止その他の交通の規制のうち適用期間の短いものを警察署長に行わせることができる。 

2  公安委員会は、信号機の設置又は管理に係る事務を政令で定める者に委任することができる。

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