スペイン語・イタリア語Donドンは、ラテン語dominusドミナス「主人、(奴隷の)所有者」に由来し、ドイツ語のvonフォンや以前お話ししたフランス語のdeドと同様に、本来「貴族出身」を表す。
では、Donドンと聞いて、思い浮かべるのは何だろうか。世代間格差がありそうだ。
我が国で比較的に古くからよく知られているのは、セルバンテスの小説Don Quijote『ドン・キホーテ』(岩波文庫)だが、最近の若者は、むしろディスカウントストアーの「ドン・キホーテ」を思い浮かべるかも知れない。
60歳前後の人ならば、昭和39年(1964年)から5年間にわたって放送されたNHK人形劇『ひょっこりひょうたん島』の初代大統領「ドン・ガバチョ」だろう。私も観ていた。
ところが、我が国ではドンは、貴族出身とは別の意味で用いられるようになった。「政界のドン」のように、ドンは「首領、ボス」という意味で使われるようになったのだ。
『精選版日本国語大辞典』(小学館)によれば、昭和43年(1968年)、亡父の友人である大藪春彦の小説『汚れた英雄』の「マフィアの首領(ドン)の地位に」が初出らしい。
この点、イタリア語の影響を受けた英語でも、「マフィアのボス」という意味で、Mafia donマフィア・ドンという風に、俗語として用いられるようになった。ただ、マフィア等の犯罪組織以外ではdonは用いられない点が日本と異なる。
この日本独自の「首領、ボス」という意味が決定的になったのは、昭和47年(1972年)、ハリウッド映画The Godfather『ゴッドファーザー』でマーロン・ブランド演じるイタリア系マフィアのボス「ドン・コルレオーネ」だろう。
この映画によって、ドンは、本来の意味を離れて、「首領、ボス、黒幕、陰の実力者」というダークなイメージが決定的になった。和製スペイン語・イタリア語の誕生だ。
そして、昭和52年(1977年)のヤクザ映画『日本の首領ドン』(東映)で、首領と書いてドンと読ませる手法がすっかり定着した。
さて、下記の記事によると、京都市上下水道局にも「職場のドン」「陰の支配者」がいたそうだ。
「長期在職者は上司にも威圧的な発言を行う。権限はないが、強い発言力で現場を仕切っている」そうだが、同じ職員なのに、どうして上司たちはきちんと部下を統制できないのか。事務職の上司は、専門技術の知識が乏しいため、技術職の部下を統制できないのだろうか。ガタイがよくて強面で、威圧的な人物だったのだろうか。裏社会とつながっている人物だったのだろうか。それとも、主事(64)とあるから、元上司・先輩だったのだろうか。
記事には、「市は不祥事が多発した06年度に改革大綱を策定。業者との癒着を防ぐため10年以上同じ職場に在職しないよう定期的な異動を実施する、としていた。だが上下水道局では、職場内での役割が変われば10年以上在職できる独自ルールがあり、同局幹部は「癒着の温床となっていたことは否定できない」と漏らす。」とある。
今は知らないが、京都市役所では、人事委員会が採用試験を実施し、2次試験面接カードにどの部局(市長部局、交通局、上下水道局、教育委員会事務局)で働きたいかを第一志望から第四志望まで書かせて、各部局ごとに採用する方式を採っていた。部局間の人事異動もあるが、基本的には採用時の部局で定年まで働くのが一般的だった。現在もこのような採用方式を採っているとしたら、これも「職場のドン」を生む温床になっていると考えられる。
映画『ゴッドファーザー』の「愛のテーマ」をハーモニカ演奏で♪
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