2024年6月、岡山県の鏡野町(かがみのちょう)の副町長が町議会本会議の休憩中に議員に近づき暴言を吐いたとして、地方自治法施行規程に基づいて、当該副町長が過怠金500円の懲戒処分を受けたそうだ。珍しいケースだ。
補足説明をすると、地方公務員法の規定は、「法律に特別の定がある場合を除く外、特別職に属する地方公務員には適用しない」とされている(地方公務員法第4条第2項)。
知事・市町村長、都道府県議会議員・市町村議会議員、副知事・副市町村長などの職は、特別職だ(地方公務員法第3条第3項)。
それ故、これらの特別職には、地方公務員法の一般職に関する懲戒処分の規定(地方公務員法第29条)は適用されない。
つまり、上記記事にあるように、特別職である当該副町長に対して、地方公務員法上の懲戒処分をすることができないわけだ。
しかし、地方自治法附則第4条・第5条・第9条に基づいて「地方自治法施行規程(昭和二十二年政令第十九号)」という政令が制定されており、都道府県の職制(地方自治法施行規程第4条・第5条)、都道府県職員委員会(同第9条)、都道府県の特別職の服務(同第10条・第12条)と懲戒(同第15条)、市町村の特別職の服務(同第14条)と懲戒(同第12条・第15条)、市町村又は特別区の職員懲戒審査委員会(同第16条)等の規定が置かれている。
それ故、当該副町長に対して、地方自治法施行規程第12条・第15条に基づいて、懲戒を行うことができる。
なお、地方自治法施行規程第12条第2項の「過怠金(かたいきん)」とは、団体がその内部秩序を維持するために構成員の義務違反行為に対して制裁として金銭支払義務を課す処分をいい、また、「譴責(けんせき)」とは、職務違反に対して戒め責めることであって、一般職における戒告に相当する処分である。
ところで、長は、副知事又は副市町村長を解職することができるが(地方自治法第163条ただし書)、解職事由には制限がないので、懲戒処分に相当する事由により解職することもできる。
しかし、この「解職」と地方自治法施行規程第12条第2項の「免職」とはいずれも本人の意に反してその職を失わせる点では同じであるが、「免職」は組織内部の規律・秩序を乱したことの制裁として課される懲戒処分であるのに対して、「解職」にはそのような制裁としての意味はない。それ故、「解職」の場合には、条例の定めるところに従い退職手当が支給されるのに対して、「免職」の場合には、条例の定めるところにより退職手当の全部又は一部が支給されないことになる。
なお、一般職については、労働基準法第20条第1項が適用除外とはなっていないので(地方公務員法第58条第3項)、少なくとも30日前に解雇予告が必要であるが、副知事又は副市町村長については、労働基準法第10条にいう使用者に該当すると解されることから(旧制度の助役について(昭和25年7月31日自行発第162号))、解雇予告をする必要はない。
cf.1地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)
第百六十三条 副知事及び副市町村長の任期は、四年とする。ただし、普通地方公共団体の長は、任期中においてもこれを解職することができる。
附 則
第四条 この法律又は他の法律に特別の定があるものを除く外、都道府県に関する職制に関しては、当分の間、なお、従前の都庁府県に関する官制の規定を準用する。但し、政令で特別の規定を設けることができる。
② 都道府県知事は、前項の規定にかかわらず、条例で、必要な地に労政事務所を置くことができる。
第五条 この法律又は他の法律に特別の定めがあるものを除くほか、都道府県知事の補助機関である職員に関しては、別に普通地方公共団体の職員に関して規定する法律が定められるまで従前の都庁府県の官吏又は待遇官吏に関する各相当規定を準用する。ただし、政令で特別の規定を設けることができる。
② 都道府県知事の補助機関である職員は、政令の定めるところにより、分限委員会の承認を得なければ事務の都合により休職を命ぜられることはない。
③ 前項の分限委員会の名称、組織、権限等は、政令でこれを定める。
第九条 この法律に定めるものを除くほか、地方公共団体の長の補助機関である職員、選挙管理委員及び選挙管理委員会の書記並びに監査委員及び監査委員の事務を補助する書記の分限、給与、服務、懲戒等に関しては、別に普通地方公共団体の職員に関して規定する法律が定められるまでの間は、従前の規定に準じて政令でこれを定める。
② この法律に定めるものを除くほか、監査専門委員の分限、給与、服務、懲戒等に関しては、前項の規定を準用する。
cf.2地方自治法施行規程(昭和二十二年政令第十九号)
第十二条 都道府県の専門委員は、次に掲げる事由があつた場合には、懲戒の処分を受ける。
一 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つたとき。
二 職務の内外を問わず公職上の信用を失うべき行為があつたとき。
2 懲戒の処分は、免職、五百円以下の過怠金及び譴責とする。
3 免職及び過怠金の処分は、都道府県職員委員会の議決を経なければならない。
4 懲戒に付せられるべき事件が刑事裁判所に係属している間は、同一事件に対して懲戒のための委員会を開くことができない。 懲戒に関する委員会の議決前、懲戒に付すべき者に対し、刑事訴追が始まつたときは、事件の判決の終わるまで、その開会を停止する。
第十五条 第十二条の規定は、市町村又は特別区の職員の懲戒について準用する。 この場合において、同条第三項中「都道府県職員委員会」とあるのは、「市町村又は特別区の職員懲戒審査委員会」と読み替えるものとする。
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