目糞鼻糞を笑う

 ネットで話題になっていたので、備忘録として残しておこう。


 ひろゆき氏が次のようにツィートした。

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難民申請中に有罪判決を受けたら即時強制送還でいいでしょ、、、 なんで日本に居続けてるの? 

〉女子中生に性暴行のクルド人男、執行猶予中に別少女にも性暴行 埼玉県警発表せず

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 これに対して、早稲田大学名誉教授の有馬哲夫氏が次のようにツィートした。

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ルフールマン原則もしらない無知、バカ、アホ。 

よくツイートするわ。 

送還しても迫害されない保証がなければ簡単にできないんだよ。

国際法覚えとけ。 

無知の王様。

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 う〜ん、ご両人の間にどのような因縁があるのかは知らぬが、名誉教授の言葉にしては品がない。私も口が悪いので、人のことは言えないが、プー太郎の私とは異なり、有馬氏の場合には、大学の名誉にも関わる。


 それはともかく、国際法の原則である「ノン・ルフールマン原則」ならば知っているが、有馬氏の言う「ルフールマン原則」なんて見たことも聞いたこともない。

 有馬氏は、本当に国際法がご専門なのだろうか、と思って調べてみたら、やはりそうではなかった。

 早稲田大学第一文学部を卒業し、東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得満期退学の文学修士(東北大学)で、専門は、メディア研究・アメリカ研究・日米放送史、広告研究・文化産業研究なのだそうだ。


 「生兵法は大怪我のもと」と言われるように、私も、国際法については素人だが、念のために、ノン・ルフールマン原則について、概要を述べておく。


 refoulementルフールマンというのは、フランス語で「送還」を意味する。non-refoulementノン・ルフールマン原則は、日本も批准している難民条約第33条第1項に、「締約国は、難民を、いかなる方法によっても、人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見のためにその生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放しまたは送還してはならない」と明記されている(太字:久保)。

 ここにいう「難民」は、正式に難民認定された者に限らず、難民申請中の者も含まれる。


 そして、「すべての難民は、滞在する国に対し、特に、その国の法令を遵守する義務及び公の秩序を維持するための措置に従う義務を負う」(難民条約第2条)。


 ノン・ルフールマン原則の例外は、難民条約第33条第2項に、「締約国にいる難民であって、当該締約国の安全にとって危険であると認めるに足りる相当な理由がある者または特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国の社会にとって危険な存在となった者は、1の規定による利益の享受を要求することができない」と明記されている(太字・下線:久保)。


 この点、特定非営利活動法人国連UNHCR協会(国連難民高等弁務官事務所の日本公式支援団体)は、「ノン・ルフールマン原則への例外は非常に限定的ながら存在します(第 33 条(2))。そのような状況とは、ある難民が滞在国の安全に非常に深刻な将来的危険をもつ場合です。これはたとえばその国の憲法、領土の保全、独立、対外的平和への脅威を与える場合、または特に深刻な性質の犯罪(たとえば、殺人、強姦、武装強盗)に関して有罪が確定している場合であり、滞在国の社会に脅威であり続ける場合です。このような例外の適用には、適正手続きによる保障が確保されなければなりませんし、難民の退去が拷問や残虐・非人道的・品位を傷つける取扱いや刑罰を受ける相当な危険につながるような状況などでは適用されてはなりません。」と述べている(太字・下線:久保)。

 日本に難民申請しているクルド人が強姦罪の有罪判決が確定し、その執行猶予中に再び別の少女に性犯罪を犯した以上、日本社会の安全に脅威であり続ける場合だと言えるから、ノン・ルフールマン原則は、例外的に適用されず、送還が可能になる。

 ひろゆき氏の疑問は、その通りだ。


 ただし、そのクルド人を送還すると、拷問や残虐・非人道的・品位を傷つける取扱いや刑罰を受ける相当な危険につながるような状況にある場合には、難民条約第33条第2項を適用できないため、送還できない。

 「送還しても迫害されない保証がなければ簡単にできないんだよ。」という有馬氏の発言は、おそらくこのことを指しているのだろう。「保証」まで必要なのか、誰の「保証」が必要なのかは、不明だが。


 問題なのは、当該クルド人の送還先の現状だ。この点、以前、このブログにリンクを貼った記事が参考になる。

 記事の報道が正しいとしたら、単に日本に出稼ぎに来ているだけで、母国に送還されても危険ではないので、難民条約第33条第2項を適用して、送還してもかまわないということになる。


 


cf.難民条約(難民の地位に関する1951年の条約)

第2条【一般的義務】 

 すべての難民は、滞在する国に対し、特に、その国の法令を遵守する義務及び公の秩序を維持するための措置に従う義務を負う。

第33条【追放及び送還の禁止】 

1  締約国は、難民を、いかなる方法によっても、人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見のためにその生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放しまたは送還してはならない。 

2  締約国にいる難民であって、当該締約国の安全にとって危険であると認めるに足りる相当な理由がある者または特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国の社会にとって危険な存在となった者は、1の規定による利益の享受を要求することができない。




 




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