『踊る大捜査線 THE MOVIE』(1998年)で青島刑事が、「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!」と警視総監を初めとする警視庁幹部に向かって絶叫していたが、さもありなん。
というのは、警視総監を経て、内閣危機管理監を務めた伊藤哲朗氏が、能登半島地震への自衛隊投入が少なすぎると批判し、「そもそも1000人ではどうしようもない。最初から1万人動員すれば動ける。自衛隊にはチヌークなど大きなヘリがあり、重機などは空輸すればいい」と述べたからだ。
伊藤氏は、「自衛隊にはチヌークなど大きなヘリがあり、重機などは空輸すればいい」と言うのだが、そうは問屋が卸さない。
チヌークと呼ばれる陸上自衛隊の大型輸送ヘリ「CH-47」の最大吊り下げ重量は、11トンだが、これは、燃料を限界まで減らした場合なので、実際の運用では6トンまでだから、重量約12トンのバックホウ(油圧ショベルカー)など複数の重機や発電機をそのままぶら下げて飛行できない。
バックホウは、もともと空輸を想定した専用車両ではないため(災害が多いのだから、専用車両を作らせるべきだ。)、輸送中の機体バランスなどによる制限もある。天候が良好であることも当然の前提となる。
そこで、すべての資機材を6トン以下に分割輸送する必要がある。2004年の新潟県中越地震では、「分割されたバックホウを組み立てるため、現地に組立用のクレーン(7.3トン)が必要となったが、このクレーンも分割輸送しなければならない。そのため、「バックホウを組み立てるクレーンを組み立てる」ための小型クレーン(3.2トン)を最初に輸送し、段階的に組み立てるという手間のかかる作業となった」。
「4台のバックホウが空輸されたが、記録によれば、分解作業に36時間を費やしている。さらに、ヘリ懸吊時のバランスを確認する作業に1日、現地での組み立てにも2日かかり、単純計算でも稼働までに4.5日を要している。バックホウや人員の手配を考えれば、実際に重機が被災地で活動できるようになるまでには、さらに多くの日数が必要だろうことは間違いない。」
また、陸上自衛隊が50機保有しているCH-47の最大定員(車両・貨物を機内に搭載しないで人員のみを乗せた場合)は、3名(操縦2名/整備1名)+55名だ。50機がフル稼働できたとして、1万人の自衛官を輸送するには、1機当たり約4往復しなければならない。バックホウのメーカーエンジニアなども含めれば、もう少し必要だろう。
1万人の自衛官を派遣するには、食事や水を確保する必要がある。1日に必要な水分量は、2リットルで、食事から1リットル、飲み物から1リットルだと言われているから、1万人の自衛官の1日の飲み物が1万リットル必要だ。1万リットルは、10トン。これに3食分の食事又は食材も運ばなければならない。
1万人の自衛官をヘリで空輸すると同時に、さらに食事や水、燃料等も空輸しなければならない。そもそも大型ヘリが着陸できるヘリポートを瓦礫の山と化した被災地に複数確保する必要がある。
道路が寸断されているから、空輸すればいいじゃないか、という伊藤氏の意見が机上の空論であることは、Military Logisticsミリタリー・ロジスティックス「兵站(へいたん)」(補給・輸送・管理という3つの要素から成る総合的な軍事業務で、戦闘地帯へ後方から必要な物資や兵員を送るといった後方支援活動)について、素人の私でも分かる。
自衛隊がいち早く空から被害状況を把握し、1000人の自衛官を初期投入して、孤立した集落等の捜索に当たったのは、正しい判断だったと思う。
内閣危機管理監が、部隊を動かしたこともなければ、現場も知らぬ警察キャリア官僚ではなく、現場からの叩き上げである自衛官にこそ相応しいポジションであることを、元警視総監である伊藤氏が証明してくれた。
<追記>
トヨタの副社長は、中卒の叩き上げだ。
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