時間外勤務手当をめぐる2つの記事

1 時間外勤務手当を算定するための基礎賃金

 「本気ですかって労働基準監督署に聞きに行きましたよ。病院が潰れてもいいんですか、それが労基署のやることですかって」

 労働基準監督官が「知るか!公務員のくせに条文を読まずに、違法な事務処理をしていたお前たちが悪いんだろう!逆恨みするな!」と思ったかどうかは、知らないが、私だったらつい口に出して言ってしまったかも知れない。。。私は、つくづく公務員に向いていない。

 自治体では「時間外勤務手当」又は「超過勤務手当」と呼ばれるが、民間では「割増賃金」と呼ばれる。


 賃金の中には、家族手当、通勤手当のように、労働と直接的な関係が薄く、個人的事情に基づいて支払われる賃金がある。これらをすべて割増賃金算定の基礎にすると、家族数、通勤距離等個人的事情に基づく手当の違いによって、差が生じてしまい、不公平となる。


 そこで、労働基準法第37条第5項・労働基準法施行規則第21条は、割増賃金の時間単価を計算するときの基礎賃金から、除外しなければならない手当等の賃金を列挙している。

 これは、限定列挙だから、列挙事項以外の賃金は、必ず基礎賃金に算入しなければならない


 おそらく記事にある公立病院の給与係は、この解釈ができなかったのだろう。給与関係の専門書には、さらに細かい通達・行政実例等が掲載されているはずだ。給与係は、当然これらについても熟知していなければならない。


 全国の自治体でも、同様の違法な事務処理があるかも知れない。


cf.1労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

(時間外、休日及び深夜の割増賃金) 

第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。 ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。 

② 前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。

 ③ 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。

 ④ 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

 ⑤ 第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない


cf.2労働基準法施行規則(昭和二十二年厚生省令第二十三号)

第二十一条 法第三十七条第五項の規定によつて、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第一項及び第四項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。 

 一 別居手当 

 二 子女教育手当 

 三 住宅手当

 四 臨時に支払われた賃金 

 五 一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金


2 始業前に無報酬でパソコンの起動等の準備をさせられていた場合

 「京都府福知山市は6日、無報酬での時間外勤務が2部署で常態化していたと発表した。公益目的通報がきっかけで判明したといい、過去3年分の時間外勤務手当を支給する。」「市は今後、始業時間の変更や時差出勤の活用などを検討するという。」

 これも、全国の自治体で行われている可能性がある。 


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