宮崎県えびの「市によると、市は温泉施設の客に対し1日150円の入湯税を課し、一部は要件を設けて免除している。12歳以上は免除対象外だが、実際は修学旅行生らは免除していた。
市は実態に合わせようと21年4月、3月末に専決処分済みだった入湯税に関係がない市条例改正の文書を、入湯税の免除に関する条文を追加した別文書に差し替えた。村岡市長も了解していた。その後の市議会定例会で、専決処分の承認を受けていた。」
う〜ん、早く実態に合わせた条例改正をしたいという動機は、理解できなくもないが、だったら、専決処分を装わずに、別途、市税条例を改正したら良かったのに、どうして正々堂々と改正しなかったのかが全く理解できない。
えびの市のHPを検索したが、この事件に関する資料がヒットしない。市長のコメントすらない。何か後ろめたいことがあるのだろうか。
しかも、えびの市税条例第142条第3号の「その他市長が必要と認める者」は、入湯税が課されないのだが、極端に言えば、市長のその日の気分で入湯税が課されたり免除されたりする可能性があるわけで、これは租税法律主義(憲法第84条)の趣旨に反するし、白紙委任の禁止に反する。法制執務として稚拙すぎる。
念のため確認したが、例規集には、「その他市長が必要と認める者」を具体化した規則は、見つからなかった。
例えば、「学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校に就学し、修学旅行その他の学校教育上の見地から行われる行事に参加する者並びに当該行事における引率者及び介添者 」(泉南市入湯税賦課徴収条例 令和2年3月27日条例第7号 第3条第5号)という風な感じで、きちんと条例に明記すべきだ。
入湯税の免除について、えびの市税条例第142条第3号の「その他市長が必要と認める者」と同様の表現を用いている自治体には、例えば、横須賀市(横須賀市市税条例 昭和46年4月1日 条例第18号第31条の3第4号)、川崎市(川崎市市税条例 昭和25年8月19日条例第26号第93条の7の5第4号)、海老名市(海老名市市税条例 平成29年10月3日 条例第25号第52条第5号)、韮崎市(韮崎市税条例 昭和30年3月27日条例第3号第156条第8号)、富士吉田市(富士吉田市税条例 昭和29年6月14日 条例第29号第156条第5号)などがある。
えびの市は、これらを安易にコピペしたのだろう。法制執務研修や政策法務研修で、ベンチマークするのは良いが、先進条例を安易にコピペするのではなく、言葉に敏感になり、それぞれの地域事情に応じて適切な修正を加えるべきだと指導しているし、おそらく他の講師も同様の指導をしているはずなのだが、安易なコピペが絶えない。
なお、記事には、当該条例の規定が無効になる可能性がある旨が指摘されている。当然、無効になる。改めて市税条例を改正し、その附則で遡及適用の規定を置けばよい。
遡及適用は、法的安定性・予測可能性を奪うので、原則として許されないが、相手方の利益になる場合には、例外的に許されると解されるところ、入湯税の免除は、相手方の利益になるので、遡及適用が許されるからだ。
cf.えびの市税条例 (昭和42年3月28日えびの町条例第18号)
(入湯税の納税義務者等)
第141条 入湯税は、鉱泉浴場における入湯に対し、入湯客に課する。
(入湯税の課税免除)
第142条 次に掲げる者に対しては入湯税を課さない。
(1) 年齢12歳未満の者
(2) 共同浴場又は一般公衆浴場に入湯する者
(3) その他市長が必要と認める者
一部改正〔令和3年条例10号〕
(入湯税の税率)
第143条 入湯税の税率は、入湯客1人1日について、150円とする。
(入湯税の徴収の方法)
第144条 入湯税は、特別徴収の方法によって徴収する。
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