多文化共生推進枠? <追記1,2>

 下記の記事によると、「三重県伊賀市は24日、来年4月入庁の事務職採用で、外国籍の人を対象にした正職員の採用枠を新設すると発表した。国や文化の多様性を行政に取り込む狙いで、若干名を採用する。県内の市町では初の試みという。」

 「多文化共生推進枠」という名の永住者または特別永住者の資格を持つ外国人を対象とした「外国人の正職員採用枠」だ。学歴不問で、SPIと面接で合否を判定するそうだ。

 従来、伊賀市では国籍条項を削除し、外国人も採用試験を受験可能であったが、採用実績がなかったという。

 この点、伊賀市の稲森稔尚市長は、「1人も外国人の正規職員がいないのは、何らかの障壁があると考えた。」と述べている。

 この市長さんのご発言は、解釈によっては物議を醸す可能性がある。というのは、従来の職員採用試験は、不公正・不平等であって、外国人受験生に不利な運用がなされていたと受け取られかねないからだ。


 なお、憲法第14条第1項の法の下の平等を受けた地方公務員法第13条の平等取扱の原則、これを具体化した地方公務員法第18条の2の競争試験の平等公開の原則は、日本国籍を有する日本国民を対象としており、外国籍の外国人は、対象外であるが、採用された外国人については、労働基準法第3条の均等待遇の原則の適用がある。


 さて、伊賀市の「多文化共生推進枠」は、永住者または特別永住者の資格を持つ外国人のみを対象としており、日本国民は受験できないことから、「採用試験は、人事委員会等の定める受験の資格を有する全ての国民に対して平等の条件で公開されなければならない。」と定める地方公務員法第18条の2の競争試験の平等公開の原則に抵触する可能性がある。


 また、伊賀市の「多文化共生推進枠」は、永住者または特別永住者の資格を持つ外国人のみを対象としているが、外国籍であることは、職務遂行とは無関係だから、「人事委員会等は、受験者に必要な資格として職務の遂行上必要であつて最少かつ適当な限度の客観的かつ画一的な要件を定めるものとする。」と定める地方公務員法第19条の受験資格要件に抵触するおそれがある。

 

 さらに、外国籍であることは、能力の実証とは無関係だから、これを受験資格とすることは、「職員の任用は、この法律の定めるところにより、受験成績、人事評価その他の能力の実証に基づいて行わなければならない。」と定める地方公務員法第15条の任用の根本基準に抵触する可能性がある。


 伊賀市は、忍者の里であり、外国人観光客が増加していることから、バイリンガルなどの語学能力に優れた職員が求められているのではなかろうか。

 そうであるとすれば、語学能力を受験資格とした職員採用試験を実施すべきだ。これならば、日本国民も永住者または特別永住者の資格を持つ外国人も受験することができ、上記のような法的問題をクリアできるからだ。


<追記1>

 「多文化共生推進枠」という名称からして、なんだか怪しいと思っていたが、下記のブログにある記事(現在は削除されている。)を読むと、ますます怪しくなった。

<追記2>

 既に最高裁判決で解決済みの問題だが、<追記1>の記事を読んで思い出したので、参考までに、衆議院議員上田卓三氏(元部落解放同盟委員長。日本共産党→日本のこえ→日本社会党)が提出した質問主意書と政府答弁書のリンクを貼っておく。

 上田氏の人物について、Wikipediaを引用しておく(太字:久保)。

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・ 「人権、中小企業、国際交流の上田卓三」を売りにしていたこともあって、特に被差別部落における中小企業振興で力を振るった。「差別がなくなったら飯の食い上げだ」と発言したこともある[7]。1968年に、部落解放同盟傘下の企業団体「部落解放大阪府企業連合会」を介した確定申告書を事実上フリーパスとする合意(七項目の確認事項)を当時の大阪国税局局長高木文雄と取り付けた。後に上田らは、共産党が組織していた「民商」を真似て中小零細企業や個人事業者を対象とした商工団体「大阪府中小企業連合会」(略称・中企連)を設立した。しかしこの合意が却って脱税に悪用されるなど今日では同和利権の一つとして批判の対象になっている[8]。中企連は後に全国的な発展を遂げてティグレとなる。

・  1979年に米国へ亡命した元ソ連国家保安委員会(KGB)少佐スタニスラフ・レフチェンコはその著書で上田を日本社会党内におけるソ連のスパイ協力者の一員であったと指摘。上田をウラヌスと呼んでいたことを公表した


7 中西義雄『部落解放への新しい流れ』p.123

8 中企連時代には税務当局に圧力をかける姿勢を見せていた時代もあったが、現在では税務当局とは基本的に穏健路線を取っている。時代背景や同和利権のイメージの払拭が後述する団体名変更の理由のひとつであったが、対立姿勢の軟化により逆に課税額減の交渉にあたる税務職員との贈収賄事件に発展するなど、税務職員との癒着の疑いといった新たな問題も浮上している。

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源法律研修所

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