旧姓併記のパスポート

 下記の記事によると、「1996年に法相の諮問機関・法制審議会が選択的夫婦別姓の導入を答申してから約30年。別姓を求める声は海外出張や海外赴任した日本人の間でも広がる。仕事で使う旧姓と戸籍姓が異なり、トラブルに遭うケースが後を絶たないためだ。」とある。

 しかし、第217回国会の法務委員会にて、外務省は、旧姓併記のパスポートが原因で入国できなかったなどの具体的なトラブルについて、在外公館からの報告事例はない、と答弁している。


 これに対して、上記の記事で大山氏は、「旧姓で仕事をする女性たちがさまざまな場面で必死に説明しトラブルを乗り越えた後、いちいち領事館に駆け込んだり通報したりするでしょうか」と疑問を呈している。


 しかし、なぜ在外公館の助けを求めたり相談したり報告したりしないのだろうか。そのための在外公館ではないか。


 旧姓使用によるトラブルを自力で解決できたならば、相手方の無知・無理解が原因だから、働く女性のために選択的夫婦別姓を導入せよとお為ごかしに主張するのであれば、他の女性が同じようなトラブルに遭わないように、何よりも先に、在外公館に対して外国への周知徹底を推進するように求めるべきだろう。


 なぜ、このような利他的行動がとれないのだろうか。同じ日本女性が同様のトラブルに巻き込まれないように、在外公館へ通報するのが国民としての道義的義務だと思うのだが、同胞愛や愛国心が欠如しているのだろうか。


 もしそうだとしたら、国際人が聞いて呆れる。国際は、元来diplomatic intercourseの訳語「各国交際」に由来する。各国交際は、それぞれの国を背負って立つ愛国者同士が交際することを通じて行われるが故に、国際人たらんとする者は、まずなによりも愛国者でなければならない。愛国心なき国際人は、真の国際人にあらずして、偽りの国際人、すなわち共産主義のいう世界市民(「労働者は祖国をもたない」マルクス/エンゲルス『共産党宣言』)を意味する。


 自らの意思で夫の氏に変更し、自らの意思で仕事上旧姓を使用し続けておきながら、それに伴うトラブルについて自分には一切責任はない、悪いのは夫婦同氏制だから、選択的夫婦別姓を導入しろと言うのは、自らの意思決定に責任を負わないエゴイズム(利己主義)以外の何ものでもない。


 譬(たと)えるならば、左ハンドルの外車を買ったら、運転しにくい。アメリカ、ドイツ、フランス、イタリアなど多くの国を見習って、日本も、道路交通法を改正して、自動車を右側通行にしろ、と言うようなものであって、このような外国かぶれのエゴイストの主張に耳を傾ける必要はない。自らの意思で左ハンドルの外車を買ったのだから、多少の不便は甘受しろ。


 なお、国の数では右側通行が多数派だが、人口比では左側通行が多い。我が国は、同じ島国であるイギリスを見習って、明治33年(1900年)から左側通行になっている。

 武士は、左腰に刀を差していたので、右側通行だと武士同士がすれ違いざまに刀の鞘が当たるし、左側からの攻撃に遅れを取るため、自然と左側通行が慣習になっていたことも要因だ。

 理由はなんであれ、左側通行は、125年の歴史があるわけで、これで上手くいっているのだから、これを保守するのが経験則上妥当であって、一部の左ハンドルの外車オーナーのわがままのために変更すべき理由がない。むしろ、右側通行に変更することによって自動車を左ハンドル仕様に変更したり、道路標識等を変更したりしなければならず、経済的損失は甚大となる。江戸時代から続く夫婦同氏制も同様だ。


cf. 第217回国会 法務委員会 第2号(令和7年3月12日(水曜日)) 太字:久保

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○吉川(里)委員 是非、親のアイデンティティーを守るという主張の妥当性を検証するためにも、子供のアイデンティティーについても実態を把握していただきたいと思っております。

  最後に、旧姓の通称使用拡大では不十分である理由として、海外では旧姓の併記が通用しにくい、又はトラブルの原因になると指摘があります。パスポートも、日本のパスポートでは旧姓の併記が既に可能であり、外務省でも、海外での対応として英文の説明書を発行しているということですけれども、実際、在外公館から、旧姓併記のパスポートが原因で入国できなかったなどの具体的なトラブルは生じておりますでしょうか。外務省に確認いたします

 ○町田政府参考人 旅券の旧姓併記でございますけれども、令和の三年から、括弧書きで印字された旧姓の上に旧姓、サーネームの記載をつけ加える、あるいは、旧姓併記の旅券を所持した方が出入国の現場で説明を求められた際に御活用いただけるよう、英文つきの別名併記リーフレットなどを配布しております。

  委員お尋ねの海外のトラブルでございますけれども、旧姓併記を分かりやすくした令和三年四月以降、これまでのところ、在外公館からの報告事例はございません

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