スチュワーデスから見た日本の強み

 一回り以上歳が離れた従兄弟は、国内大手航空会社の機長を務め、パイロットの教官を経て、役員待遇だった。

 当時パイロットの教官をしていた従兄弟と法事で再会した際に、大学を卒業して2、3年の私に、「スチュワーデスを50人でも100人でも集めてやるから、気に入った者とさっさと結婚しろ」と言われた。

 まだ身を固める気がないし、「中学時代の参考書に、スチュワーデスの語源は、『豚小屋の番人』と書いてあったけど、僕は豚じゃないからね(笑)」と言って、断った。

 親切心から見合いを勧めてくれたとはいえ、従兄弟の言い方が私やスチュワーデスを犬や猫のように扱っているようで不愉快だった。


 手元に中学時代の参考書がないので、正確な文章ではないが、stewardスチュワード/stewardessスチュワーデスの語源は、stigweardであり、stigは「豚小屋」で、weard番人だから、「豚小屋の番人」が語源だ、と書いてあった。

 乗客の中には、無理難題を言ったり、乱暴狼藉を働いたり、気難し屋もいたりするから、言い得て妙だと感心した憶えがある。

 テレビドラマ『スチュワーデス物語』(1983年)や邦画『ハッピーフライト』(2008年)などに、このような厄介な乗客が出てくるたびに、つくづく「豚小屋の番人」だなぁ〜と思っていた。


 しかしながら、実は、stigweardのstigは「家」であり、weardは番人だから、stewardスチュワード/stewardessスチュワーデスの語源は、「家の番人」なのだそうだ。

 家の番人から転じて、執事、給仕、家政婦に用いられ、やがて客船や旅客機の給仕に用いられるようになったらしい。


 ところが、旅客機の給仕には、男性もいるので、スチュワーデスでは不適切だし、またPolitical correctnessポリティカル・コレクトネスにより、stewardessスチュワーデスという女性名詞が批判されたことから、日本では、1990年前後から各航空会社がflight attendant「フライトアテンダント」・「FA」、cabin attendant 「キャビンアテンダント」・「CA」、cabin crew「キャビンクルー」という性差のない呼び方にそれぞれ変更した。

 今では、世間的には「CAさん」と呼ぶのが一般的になっているようだ。


 しかし、cabinは部屋や小屋であり、attendantは案内人や世話係だから、cabin attendantという表現は、旅客機の客室乗務員をイメージしにくく、必ずしも外国人に通じない「和製英語」なのだそうだ。

 英語圏では、flight attendant又はcabin crewと呼ぶらしい。

 航空会社には、語学に堪能な社員が多くいるだろうに、なぜわざわざ外国人に通じにくいcabin attendant 「キャビンアテンダント」・「CA」という和製英語を採用したのか、理解に苦しむ。


 ここでは従来通りにスチュワーデスを用いることにしよう。前述したように、その語源には差別的要素が皆無だからだ。


 ところで、欧米ではスチュワーデスになりたがらないらしい。給仕は気を遣うし、時差等で体調を崩しやすく、体力的にもきつい仕事だし、そもそも給仕は下層階級の仕事だからだ。階級社会である欧米では、好んで下の階級の仕事をしたがらないのだ。

 アメリカで、2人の元スチュワーデスが『Coffee, Tea or Me?』(1968年)という思わせぶりなタイトルの本を出版した。2人の好色なスチュワーデスの逸話をまとめた本らしい。航空会社も、これを逆手に取って、スチュワーデスにCoffee, Tea or Me?「コーヒー、紅茶、それとも私?」を言わせるコマーシャルを行ったため、全米の女性団体の怒りを買ったことから、スチュワーデスのイメージがますます悪くなった。

 ところが、我が国は、そもそも階級社会ではないため、スチュワーデスに対する偏見がなく、アナウンサーと並んで女性に人気の花形職業だった。 

 一昔前までは海外旅行は夢のまた夢だったので、海外へ行けるスチュワーデスは憧れであり、また玉の輿に乗るチャンスもあったからだ。芸能人や有名スポーツ選手と結婚したスチュワーデスは多い。

 そのため、スチュワーデスの予備校まであったぐらい「狭き門」だったのだ。。

 一時期は短大卒や専門学校卒も採用されたが、大卒が一般的になり、しかも身長制限があり、容姿端麗、英語堪能でなければ、採用されなかった。


 しかし、外国人観光客の増加に伴って国際線発着回数も増加したため、スチュワーデスの需要が高くなる一方で、少子化による人手不足が深刻になったことから、すっかり売り手市場となり、大卒に限らず採用されるようになった。

 しかも、ルッキズム「外見至上主義」が批判されるようになったため、身長制限と容姿端麗は採用条件ではなくなり、英語すらも入社後に勉強すれば良いということになって、スチュワーデスの質の低下が社内で問題になっているらしい。


 下記の記事を読む限り、確かに、スチュワーデスの質の低下は、本当のようだ。

 元外資系航空会社CA(キャビンアテンダント)のお笑いタレント、CRAZY COCO(くれいじーここ)が、「ビジネスクラスは担当CAがつく。ほかの人には見えない空間で“僕の連絡先だから”(って名刺渡してくるのは)もらいやすいじゃないですか。でもエコノミーって、400人ぐらい乗ってて、誰にも見られてるわけじゃないですか。そこで(名刺を)渡されても、(私の)“何を知ってんの?”ってなるんですよ」、「あと、これ炎上覚悟で言いますけど、私が働いてた外資系の航空会社って、ビジネスクラスで働いてるCAさんって、日本円でいうとだいたい年収が750万円ぐらいなんですよ。ってなった時に、たまたまエコノミークラスにヘルプに行って、エコノミークラスのお客さんにドヤ顔で(電話)番号渡されても、捨てて帰るやろって。こっちカネあるし、パーンと(捨てる)ってなる、っていうお話。めちゃくちゃリアルな数字で言うと、だいたい年収2000万くらいからの人じゃないと(名刺など)いらんよな、みたいな」と述べたそうだ。

 名刺を渡す男も、馬鹿だが、職場で公私混同する金目当ての女も、品性下劣なのに、年収2000万円以上の男が自分に相応しいと自己評価が異常に高い点が滑稽だ。


 しかし、当たり前だが、このようなスチュワーデスばかりではない。短大卒で、日本航空(JAL)に吸収合併された東亜国内航空(後の日本エアシステム)といういわば外様(とざま)のスチュワーデスが、女性として初めて日本航空の社長に就任したからだ。

 スチュワーデスが航空会社の社長に出世したのは、世界初であり、階級社会である欧米ではあり得ない快挙であることから、世界中から称賛を浴びている。

 このように日本の強みの一つは、階級社会ではなく、現場からの叩き上げが経営者になれる社会的流動性の高さだ。

 最近では、日産のカルロス・ゴーンのように、現場を知らぬ人間がいきなり社長に就任して莫大な報酬を得るケースが増えている。

 日本の強みを大事にしてほしいものだ。







源法律研修所

自治体職員研修の専門機関「源法律研修所」の公式ホームページ