官僚が天下り先の企業等の便宜を図るために、現役職員に働きかけ(口利き)をするという話は、よく聞かれるが、この構図は、地方公共団体でも見られる。
そこで、平成26年の地方公務員法の改正により、「第六節の二 退職管理」が新設された。
この退職管理は、定年退職など退職なさる職員さんがお勉強すべき事柄なので、地方公務員法研修では、現役の職員さんが押さえておくべき4つの点について講義するにとどめている。
そのため、これから述べる点については、講義では触れていないが、テキストには記載してある。
地方公務員法第38条の6第2項は、「地方公共団体は、第三十八条の二の規定の円滑な実施を図り、又は前項の規定による措置を講ずるため必要と認めるときは、条例で定めるところにより、職員であつた者で条例で定めるものが、条例で定める法人の役員その他の地位であつて条例で定めるものに就こうとする場合又は就いた場合には、離職後条例で定める期間、条例で定める事項を条例で定める者に届け出させることができる。」と規定している(太字・下線:久保)。
なぜくどいほど「条例で」と定めているかというと、退職者には、訓令・通達・要綱などの行政規則の効力が及ばないし、住民の権利を制限したり義務を課したりするには条例で定めなければならないからだ(地方自治法第14条第2項)。
下記の記事よると、「福井県の福井市が、退職職員による業務への不当な働きかけを防ぐために設けている再就職届け出制度で、2023、24年度の2年間の届け出は計11人にとどまることが、11日までに同市への情報公開請求で分かった。届け出が求められる再就職先は入札参加資格を持つ企業のみで、市の福祉事業を巡る情報漏えい事件で情報提供を依頼した元市職員の再就職先でもあった社会福祉法人は制度の対象外だった。」という(下線:久保)。
福井市では、福井市職員の退職管理に関する規則 (平成28年4月1日 規則第83号の4)が制定されているが、再就職先情報の届出に関する条例が定められておらず、福井市退職者の再就職に関する取扱要綱が定められているにすぎない。
要綱は、訓令の一種であって、職員のみが従わなければならない役所内部の規範(職務命令の性格を有する。)にすぎず、退職者にはその効力が及ばないから、退職者に再就職先情報の届出を義務付けたいのであれば、条例で定めなければならないのだ(地方公務員法第38条の6第2項)。
記事には、「再就職届け出制度の「穴」」とあるが、そもそも福井市には、法的な拘束力がある再就職届出制度自体が存在しないのだ。
しかも、地方公務員法第38条の2第1項は、「営利企業等(営利企業及び営利企業以外の法人(国、国際機関、地方公共団体、独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第四項に規定する行政執行法人及び特定地方独立行政法人を除く。)をいう。以下同じ。)」と定め、営利企業に限定していないのに、記事にあるように、福井市退職者の再就職に関する取扱要綱では、届出の対象企業は、「公共工事の契約に係る一般競争入札又は指名競争入札に参加する資格を 有する営利企業」に限定されている。
このようなことは、法規担当者や原課である人事課ならば、十分承知しているはずだから、福井市は、端(はな)から退職者に再就職先の届出をさせる気がなかったと言っても過言ではない。
それがなぜなのかは不明だが、記事にある次の文章を読むと、なんらかの強い力が働いていたかのかもしれないし、又は口利きが常態化していてOB・OGに忖度(そんたく)したのかもしれない。
「福井市では、元副市長が福祉部長だった22年、市が公募した介護サービス事業者の情報を、元市職員で社会福祉法人職員の男性の依頼に応じて選定前に漏らしたとして地方公務員法(守秘義務)違反の罪で今年4月、罰金刑を受けた」
組織ぐるみではないかと疑われても仕方がない。OB・OGから働きかけを受けて窮地に陥る現役職員のためにも、早急に改善してほしいものだ。
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