生徒 先生、こんにちは!今日も暑いですね〜
老先生 「心頭滅却すれば、屁もまた芳し」と言うじゃろう。気の持ちようじゃ!
生徒 それを言うなら「心頭滅却すれば、火もまた涼し」でしょう?笑
老先生 はっはは!笑
ところで、地方議会は、誰が招集するか、覚えておるかな?
生徒 先週の授業で教えていただいたので、覚えています!普通地方公共団体の長です(地方自治法第101条第1項)。
cf.地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)
第百一条第一項 普通地方公共団体の議会は、普通地方公共団体の長がこれを招集する。
老先生 うむ。地方議会には、議会の組織及び運営に関して自律的に決定し処理することができる自律権があるのだから、会議を開きたかったら、自分たちで招集すればいいのに、どうして長が招集するのじゃろうか?
生徒 確かに、おっしゃる通りですね!どうしてなんだろう?
老先生 実は、わしも知らんのじゃ!はっはは!笑
生徒 えッ!?
老先生 いくらわしが亀仙人に似ておるからというて、なんでも知っておる達人というわけではないのじゃ。
生徒 ぷッ!先生、あだ名をご存知だったのですね!笑
老先生 まあ、それはよい。じゃが、間違っておるかも知れぬが、ある程度のことは推測できる。
生徒 どうして長が招集するのか、ご教示ください。
老先生 まあ、そう慌てるでない。王様と言うと、どんなイメージを持っておるかの?
生徒 えッ?う〜ん、なんでも自分の思い通りにできる偉い人って感じでしょうか?
老先生 それは、近代ヨーロッパの絶対君主のイメージじゃな。中世ヨーロッパの王様は、絶対的な権力を持っておらず、大領主の中で最も勢力の強い者にすぎなかったんじゃ。
ローマ帝国崩壊後、ヨーロッパには大小様々な土地を支配する封建領主が誕生し、争いごとが絶えなかったので、徐々にそれぞれの地方ごとに王様を立てて争いごとを調整させるようになったんじゃ。
生徒 王国の誕生ですね!
老先生 まあ、そうなんじゃが、我々がイメージする「国家」とは全く違うものじゃな。我々がイメージする「国家」は、国土、国民及び主権の三要素から成り立っておるが、このような「国家」は近代になって生まれたもので、中世ヨーロッパには、国土も国民も主権もなかったんじゃ。
生徒 う〜ん、どうもイメージしにくいんですが。。。
老先生 確かに、島国に住んでおる我々日本人には、中世ヨーロッパの王国をイメージしにくいのぉ〜。テレビドラマ「水戸黄門」では、天下の副将軍水戸光圀公が全国行脚し、各藩に巣食う悪代官等を懲らしめておる。このドラマは完全にフィクションじゃが、日本だからこそ成り立つドラマであって、こんなことは中世ヨーロッパではあり得ない話なんじゃ。
というのは、王様といえども、臣下の領地内の問題に口出しすることができなかったからじゃ。王様が思い通りにできるのは、自分の直轄領内だけで、たとえ小さな領主の領内の問題であっても、その領地の支配権を持っておらぬ以上、何も言えなかったんじゃ。
生徒 へぇ〜!そうすると、中世ヨーロッパの王国というのは、それぞれ独立した大小様々な封建領主たちが大領主である王様を中心に緩やかに結合していたと考えたらよろしいのでしょうか?
老先生 そうじゃな。そして、その結合こそが「契約」じゃ。主従契約と言って、臣下になれば王様が領地を守ってやるから領内のことは好きにしろ、その代わりに、戦争があれば兵隊を何人出せとか、王様が敵の捕虜になったらいくら身代金を出せとか、細々としたことまで契約で決めておったんじゃ。契約内容が矛盾しない限り、複数の王様の臣下になることも、王様自身が他の王様の臣下になることも可能だったんじゃよ。
だから、中世ヨーロッパの王国には、明確な国境線もなく、各封建領主が契約で織りなすモザイク状の国だったというわけじゃ。キリスト教(カトリック)が横糸だとすれば、領主間の契約が縦糸じゃな。
生徒 我が国では、家臣たる者、殿様に一生忠義を尽くすのが当たり前って感じで「武士は二君に仕えず」と言われますが、中世ヨーロッパでは、契約内容が矛盾しない限り、複数の王様の臣下になることができるなんて、随分ビジネスライクだったのですね〜
老先生 そうじゃのう。ライバル関係にある複数の機械メーカーに対して原材料を納入している企業と同じような感じだと思えば、分かりやすいかも知れんの。
このように、王様といえども、臣下の領内の問題に口出しすることができない以上、悪辣非道な領主が領民(農奴)を苦しめることもあったんじゃ。
生徒 うわー
老先生 もっとも、領主の全てが悪政を敷いたわけではない。アフリカから連れて来られた黒人奴隷とは異なり、中世ヨーロッパの農奴は、領地とワンセットになっており、農奴を殺せば、畑を耕す者がいなくなって、領主の収入が減るからじゃ。
生徒 それを聞いて、ちょっと安心しました。
老先生 うむ。じゃが、当時は、山賊や海賊が暴れまわっていた時代。領主自身が山賊や海賊の出身という者もおったし、軍隊を使って山賊や海賊を取り締まろうにも、当時の軍隊は「傭兵」と言えば聞こえが良いが、山賊や海賊と変わらぬチンピラ・ならず者を「傭兵」として領主が雇わねばならず、そのためにはお金が必要なので、わざわざ身銭を切るような領主は少なかった。
生徒 それじゃ旅行は命がけですね!
老先生 その通りじゃ。それで一番困ったのは都市の商工業者じゃ。安全な物流なくして商取引はできんからの。
そこで、お金を献金・融資する代わりに山賊や海賊を取り締まってくださいと都市の商工業者が王様に泣きついたわけじゃ。王様にとっては渡りに船。というのは、当時、ペスト(黒死病)が流行して、王様の直轄領内の農奴も病死により減少して、収入が減っていたからじゃ。
王様がこの商工業者からのお金で作ったのが常備軍(国王軍)じゃ。常備軍は職業軍人の組織で、常日頃から軍事訓練を欠かさず、組織的軍事行動ができるため、チンピラ・ならず者の烏合の衆にすぎない傭兵や山賊・海賊よりもめっぽう強かった。その結果、大領主の一人にすぎなかった王様と他の領主たちとの間に明確な身分の差が生まれ、身分制度が確立するようになったわけじゃ。
生徒 第1身分祈る人(聖職者)、第2身分戦う人(貴族・騎士)、第3身分働く人(商人・職人・農民)というやつですね!
老先生 よく知っておるな。最も身分が高くなった王様としては、この常備軍をもっと強化して、契約以上のことをしない他の領主たちや免罪符を売って享楽に耽っておる堕落した僧侶たちを押さえ込み、新しい国(中央集権体制)づくりをしたいという誘惑にかられるようになったんじゃな。
常備軍を強化するためには、莫大なお金が必要じゃ。なにしろ、軍隊は消費するだけで、生産しないからの。そこで、王様は、他の領主たちに税を課そうと考えたわけじゃ。しかし、これを一方的に行なったら主従契約違反になる。税金を課すためには、契約更改をせねばならぬが、一対一の契約交渉をしていたのでは埒(らち)が明かない。また、教会や都市にも課税しようと考えたんじゃが、これは慣習法に違反する。
そこで、王様は、一挙に契約更改をするとともに、慣習法を改めようと思って、この問題を討議させるための議会を招集したんじゃな。これが普通地方公共団体の議会を長が招集する起源じゃろう。
王様が招集した議会は、身分制議会(等族会議、三部会)と呼ばれ、王様が課税しようと思った貴族、僧侶、都市商工業者という3つの特権的身分の代表者が呼び集められたわけじゃ。
生徒 長が議会を招集するのは、中世ヨーロッパの身分制議会に由来するなんて、思ってもみませんでした!議会って民主主義に基づくものだとばかり思っていましたが、民主主義とは全く無関係なものだったんですね〜!
老先生 その通りじゃ。地方自治法上、普通地方公共団体の議事機関は、原則として議会であるが(地方自治法第89条)、例外的に、町村は、条例で、議会を置かずに、選挙権を有する者の総会(町村総会)を設けることができるとされている(地方自治法第94条)。古代ギリシャの直接民主制のような町村総会は、議会よりも民主的であるため、議会必置を定める憲法第93条に違反しないと解されているのもそのためじゃよ。
生徒 なるほど!
老先生 ちなみに、平成30年2月20日政府の答弁書によると、「地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第九十四条の規定による町村総会 は、憲法第九十三条第一項にいう「議事機関」としての「議会」に当たるものと考えている。」とのことじゃ。
この政府見解 によれば、地方議会は、現在の形態が絶対的なものではなく、町村総会も含めてなんらかの議事機関というものがあれば憲法 違反にならないということになるので、今後の制度の見直しにお墨付きが与えられたと言えるじゃろう。
cf.1日本国憲法(昭和二十一年憲法)
第九十三条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。 2 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
cf.2地方自治法
第八十九条 普通地方公共団体に議会を置く。
第九十四条 町村は、条例で、第八十九条の規定にかかわらず、議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができる。
老先生 話を戻すとじゃな、王様に招集された者たちは、王様の専横を許すまじとこれに呼応して参集し、課税の承認権、ひいては国政参与権をも要求するようになったんじゃ。議会開会中、王様は様々な陳情にも耳を傾けねばならず、煩わしい。そこで、議会の活動期間を限定したんじゃな。これが会期の由来じゃろう。
しかし、「長い物には巻かれろ」は、世の常。やがて力を付けた王様が中央集権体制を確立して、絶対君主制の時代になると、身分制議会は招集されることが少なくなったんじゃ。
生徒 中世ヨーロッパ発祥の身分制議会が、悠久の時を経て、我が国の地方議会につながっているなんて、なんだかロマンチックですね♪
老先生 そうじゃの〜。じゃが、普通地方公共団体の長も議会も住民の直接選挙で選ばれた住民代表であって、対等独立の関係に立っておるし(二元代表制・首長制・大統領制)、議会には自律権があるんじゃから、議会の招集も議会自身が行えばよいはずじゃ。
実際、議会制の本家本元である欧米先進国では、国や自治体によって多少の違いがあるが、概ね議会の議長が議会を招集するようになっておるんじゃ。
遠く離れた異国日本で長による議会招集制が温存されているというのも、不思議なものじゃな。
cf.総務省「諸外国の議決機関と執行機関の関係」
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/dousyusei/pdf/060315_3.pdf
もっとも、鹿児島県阿久根市(あくねし)の竹原市長が、議会を招集せずに、専決処分で副市長を任命したり、職員や議員の報酬を削減したりしたため、地方自治法が改正され、第162条による副知事・副市町村長の選任の同意については専決処分をすることができなくなるとともに(第179条第1項ただし書)、議長や議員が臨時会の招集を請求したのに長が招集しない場合には、議長が招集できるようになったがの(第101条第5項・第6項)。
生徒 こうして歴史を遡ってみると、議会というのはとても面白いものだということがよく分かりました。法学だけを勉強していると理解が浅くなってしまうのですね。ありがとうございました!
cf.地方自治法
第百一条 普通地方公共団体の議会は、普通地方公共団体の長がこれを招集する。
○2 議長は、議会運営委員会の議決を経て、当該普通地方公共団体の長に対し、会議に付議すべき事件を示して臨時会の招集を請求することができる。
○3 議員の定数の四分の一以上の者は、当該普通地方公共団体の長に対し、会議に付議すべき事件を示して臨時会の招集を請求することができる。
○4 前二項の規定による請求があつたときは、当該普通地方公共団体の長は、請求のあつた日から二十日以内に臨時会を招集しなければならない。
○5 第二項の規定による請求のあつた日から二十日以内に当該普通地方公共団体の長が臨時会を招集しないときは、第一項の規定にかかわらず、議長は、臨時会を招集することができる。
○6 第三項の規定による請求のあつた日から二十日以内に当該普通地方公共団体の長が臨時会を招集しないときは、第一項の規定にかかわらず、議長は、第三項の規定による請求をした者の申出に基づき、当該申出のあつた日から、都道府県及び市にあつては十日以内、町村にあつては六日以内に臨時会を招集しなければならない。
○7 招集は、開会の日前、都道府県及び市にあつては七日、町村にあつては三日までにこれを告示しなければならない。ただし、緊急を要する場合は、この限りでない。
第百七十九条 普通地方公共団体の議会が成立しないとき、第百十三条ただし書の場合においてなお会議を開くことができないとき、普通地方公共団体の長において議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき、又は議会において議決すべき事件を議決しないときは、当該普通地方公共団体の長は、その議決すべき事件を処分することができる。ただし、第百六十二条の規定による副知事又は副市町村長の選任の同意及び第二百五十二条の二十の二第四項の規定による第二百五十二条の十九第一項に規定する指定都市の総合区長の選任の同意については、この限りでない。
○2 議会の決定すべき事件に関しては、前項の例による。
○3 前二項の規定による処置については、普通地方公共団体の長は、次の会議においてこれを議会に報告し、その承認を求めなければならない。
○4 前項の場合において、条例の制定若しくは改廃又は予算に関する処置について承認を求める議案が否決されたときは、普通地方公共団体の長は、速やかに、当該処置に関して必要と認める措置を講ずるとともに、その旨を議会に報告しなければならない。
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