自治体職員が公務中に過失によって交通事故を起こした場合に、被害者が3カ月以上入院すると禁固刑になるのが通常であるため、欠格条項(地方公務員法第16条第2号)に該当し、原則として失職することになる(地方公務員法第28条第4項)。
cf.地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)
(欠格条項)
第十六条 次の各号のいずれかに該当する者は、条例で定める場合を除くほか、職員となり、又は競争試験若しくは選考を受けることができない。
一 成年被後見人又は被保佐人
二 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者
三 当該地方公共団体において懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者
四 人事委員会又は公平委員会の委員の職にあつて、第六十条から第六十三条までに規定する罪を犯し刑に処せられた者
五 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者
(降任、免職、休職等)
第二十八条 職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。
一 人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合
二 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合
三 前二号に規定する場合のほか、その職に必要な適格性を欠く場合
四 職制若しくは定数の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合
2 職員が、左の各号の一に該当する場合においては、その意に反してこれを休職することができる。
一 心身の故障のため、長期の休養を要する場合
二 刑事事件に関し起訴された場合
3 職員の意に反する降任、免職、休職及び降給の手続及び効果は、法律に特別の定がある場合を除く外、条例で定めなければならない。
4 職員は、第十六条各号(第三号を除く。)の一に該当するに至つたときは、条例に特別の定がある場合を除く外、その職を失う。
そして、通常、退職手当条例では、地方公務員法第28条第4項の規定による失職をした者には、退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分を行うことができる旨の規定があり、この規定に基づいて退職手当等が支給されない運用がなされている。ちなみに、欠格条項による失職の場合に、退職手当を支給しないことは憲法に違反しないというのが判例である(最判平12・12・19)。
しかし、情状を考慮すると、失職させることが酷な場合がある。職員さんとしても、前科が付くわ、失職により公務員の身分を失うわ、退職手当も貰えないわというのでは、公用車を運転したくないのではなかろうか。
そこで、地方公務員法研修において、東京都の「職員の分限に関する条例」第8条を見習って、禁錮の刑に処せられた職員のうち、その刑に係る罪が過失によるものであり、かつ、その刑の執行猶予の言渡しを受けた者については、情状により、当該職員がその職を失わないものとする欠格条項の特例条例を制定したらどうかと言い続けてきた。その甲斐あってか、最近、関西でも欠格条項の特例を認める条例が制定されるようになってきた。
cf.東京都の「職員の分限に関する条例(昭和二六年九月二〇日 条例第八五号)」
(失職の例外)
第8条 任命権者は、禁錮の刑に処せられた職員のうち、その刑に係る罪が過失によるものであり、かつ、その刑の執行を猶予された者に ついては、情状により、当該職員がその職を失わないものとすることができる。
2 前項の規定により、その職を失わなかつた職員が刑の執行猶予を取消されたときは、その職を失う。
ただ、これまで実際に欠格条項の特例条例を適用した事案を聞いたことがなかった。しかし、7月17日、兵庫県川西市で欠格条項の特例条例が適用された。
令和元年7月17日川西市総務部職員課「川西市職員の懲戒処分等の公表について」に掲載された事案の概要によると、
「平成29年10月21日、衆議院議員総選挙事務従事中の本市職員が、公用車を運転し、国道173号線で南から北へ進行していたところ、軽自動車に衝突し、死傷交通事故を起こした。 公用車を運転中に女性 1 人を死亡させ、4人に重軽傷を負わせた事実は、地方公務員法第30条(服務の根本基準)及び同法第33条(信用失墜行為の禁止)に反する行為であるため、地方公務員法第29条第1項第1号及び第3号の規定により、懲戒処分として停職6か月が相当であると決定した。」
とのことである。
報道によると、令和元年7月2日、 自動車運転処罰法違反(過失致死傷)罪に問われた当該職員(当時、選挙管理委員会事務局主幹)には、2年の禁固刑(執行猶予3年)が確定している。
当該職員は、事故前1か月で残業時間が229時間を超え、公用車で期日前投票所に向かう途中、居眠り運転により対向車線にはみ出して軽自動車に衝突したものであって、裁判官も「結果は重大だが選挙管理委員会の過酷な勤務が居眠り運転の要因の一つと想像できる」と述べたそうである。
この判決を受けて、川西市は、当該職員の処分を検討し、①急な衆議院解散への対応や選挙区割り変更に伴う作業量増加などで職員の長時間労働が続いていたこと、②死亡した女性の遺族が裁判で処罰を求めない考えを述べたこと、③市としても反省すべき点があること等を考慮して、失職させないことにしたそうである。
そして、当時の上司だった選挙管理委員会事務局長については、監督責任があったとして文書訓告とした。ただ、当該事務局長は道交法違反(過労運転下命)容疑で書類送検されたが、不起訴となったため懲戒処分は見送られたそうである。
不起訴になった理由が明らかではないので、なんともコメントしようがないが、懲戒処分すら見送られていることから、部下に長時間労働をさせざるを得ない特段の事情があったのかもしれない。
この事故を教訓として、各自治体も、組織の責任を職員個人に転嫁せないように対策を講ずべきであろう。
cf.川西市職員の分限に関する条例(昭和29年10月1日条例第17号)
(失職の例外)
第5条 任命権者は、法第16条第2号に該当するに至つた職員のうち、禁錮の刑に処せられその刑の執行を猶予された者については、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、その者の罪が過失によるものであり、かつ、特に情状を考慮する必要があると認めたときは、その職を失わないものとすることができる。
2 前項の規定によりその職を失わなかつた職員が、刑の執行猶予が取り消されたときは、その職を失う。
0コメント