何人も


 NHK放送文化研究所の「放送研究と調査」に、『同じ熟語で音読み・訓読み』(2009年2月1日)という面白いエッセーがあった。一部引用させていただく。

https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/kotobax3/pdf/044.pdf

 「友人が,あまり人気(ひとけ)のない地を旅したとき ,「 何人も入るべからず 」という古めかしい看板が,崖(がけ)の手前の柵(さく)にあった。それにもかかわらず,中学生たちが,ひとりずつ交代で入り,写真を撮っていた。確かに何人かまとめてではなく,ひとりずつだが,危険なので,この場合,「何人も」は「なんにんも」ではなく「なんぴとも/なにびとも」と読み,「いかなる人も柵の中に入ってはいけない」という意味だと注意した。「自分も歳(とし)で,おせっかいになった」と苦笑しながら話してくれた。「危険!立ち入り禁止」であれば中学生にも分かりやすかったのだろう。」


 私も、老婆心ながら、自治体職員研修において、条文中に「何人も」という文言が出てきた際には、「『なんにん』ちゃいまっせ!『なんぴと』、と読みます。いかなる人も、という意味です。」と一言申し添えるようにしている。

 そうすると、皆さん、一斉にメモしておられるので、難関の職員採用試験を突破なさった職員さんであっても、つい「なんにんも」又は「なにじんも」と読んでしまうのだろう。

 そうだとすると、一般人は、尚更「なんにんも」又は「なにじんも」と誤読するはずだから、法制執務で多用される「何人も」を「いかなる人も」に言い換える必要があるかも知れない。


 e-Gov法令検索で「いかなる人も」・「いかなる人」・「如何なる人も」・「如何なる人」を検索したが、ヒットしなかったので、これらの文言を用いた国の法令はないことになる。


 しかし、条例Webアーカイブデータベースで同様に検索したら、4つの例規がヒットした。同じ問題意識を持っておられる職員さんがおられるわけだ!心強い。


 また、もっと易しく言い換えた「誰であっても」で検索したら、4つの条例がヒットした。


cf.1魚津市男女共同参画推進条例 (平成16年3月17日 条例第6号)

(性別による権利侵害の禁止)

第9条 いかなる人も、家庭、職場、地域、学校その他の社会のあらゆる場において、性別による差別的取扱いをしてはなりません。

2 いかなる人も、家庭、職場、地域、学校その他の社会のあらゆる場において、セクシュアル・ハラスメントをしてはなりません。

3 いかなる人も、すべての男女間において、ドメスティック・バイオレンス等あらゆる暴力・虐待の行為をしてはなりません。

(市民への情報提供に関する配慮)

第10条 いかなる人も、広く市民へ情報提供するときは、過度な性的表現及び男女間の暴力を助長し連想させる表現をしないよう努めなければなりません。


cf.2気仙沼市男女共同参画推進条例 (平成18年3月31日条例第11号)

(性別による権利侵害の禁止)

第7条 いかなる人も,職場,学校,地域,家庭その他社会のあらゆる場において,直接的であるか間接的であるかを問わず性別による差別的取扱いをしてはなりません。

2 いかなる人も,職場,学校,地域,家庭その他社会のあらゆる場において,セクシュアル・ハラスメントをしてはなりません。

3 いかなる人も,すべての男女間において,ドメスティック・バイオレンスやストーカー行為等の暴力的行為をしてはなりません。

(市民に公表する情報に関する配慮)

第8条 いかなる人も,広く市民に公表する情報においては,男女共同参画社会の形成を阻害するジェンダー,セクシュアル・ハラスメント又は暴力を助長し,連想させる表現をしないように努めなければなりません。

2 市が発行する刊行物等を作成するに当たっては,男女共同参画の視点に立ち,刊行物等が性別による固定的な役割分担等を誘因し,男女の社会における活動の自由な選択に関して,影響を及ぼすことのないように努めなければなりません。


cf.3草加市くらしを支えあう男女共同参画社会づくり条例 (平成16年9月17日 条例第29号)

(性別などによる権利侵害の禁止と被害者の救済)

第9条 いかなる人も、家庭、学校、職場、地域などあらゆる場において、セクシュアル・ハラスメントをしてはなりません。

2 いかなる人も、ドメスティック・バイオレンスやそれに関連する児童虐待(以下「ドメスティック・バイオレンスなど」といいます。)をしてはなりません。

(以下、省略:久保。)


cf.4幸田町子どもの権利に関する条例施行規則 (平成23年4月1日 規則第6号)

(相談及び救済の申立て)

第9条 いかなる人も擁護委員会に対して、条例第28条第1項第1号に規定する子どもの権利侵害に関することについて、相談及び救済の申立てをすることができます。

2 救済の申立てをしようとする人(以下「申立人」といいます。)は、子どもの権利侵害に関する救済申立書(様式第1号)又は口頭により次のことを申し立てます。口頭による場合は、擁護委員会が子どもの権利侵害に関する救済申立記録書(様式第2号)を作成します。

(1) 申立人の住所、氏名、電話番号及び救済を必要とする子どもとの関係

(2) 救済を必要とする子どもの氏名、住所、保護者の氏名等

(3) 救済を必要とする事実の概要


cf.5美唄市男女共同参画条例 (平成21年12月18日条例第38号)

(性別による権利侵害の禁止)

第7条 誰であっても、職場、家庭、地域、学校など、社会のあらゆる分野において、性別を理由とする差別的取扱いを行ってはいけません。

2 誰であっても、男女間における身体的若しくは精神的な苦痛を与える暴力又は児童虐待など、あらゆる暴力的行為を行ってはいけません。

3 誰であっても、他人を不快にさせる性的な言動をし、又はその言動によって生活環境を乱し、若しくはその言動を受けた者の対応により、その者に不利益を与える行為をしてはいけません。

4 誰であっても、一般に公表する情報の中で、性別を理由とする人権侵害を助長することのないよう配慮しなければなりません。


cf.6熱海市男女共同参画推進条例 (平成14年12月24日 条例第29号)

(性別による権利侵害の禁止)

第9条 人は、誰であっても、家庭、職場、学校、地域その他のあらゆる分野において、性別による差別的取扱いをしてはならない。

2 人は、誰であっても、家庭、職場、学校、地域その他のあらゆる場において、セクシュアル・ハラスメントによる人権侵害を行ってはならない。

3 人は、誰であっても、夫婦間を含むすべての男女間において、身体的又は精神的な苦痛を与える暴力的行為を行ってはならない。


cf.7士幌町男女共同参画推進条例( 平成17年3月18日 条例第3号)

(性別による権利侵害の禁止)

第14条 誰であっても、家庭、職場、学校、地域など社会のあらゆる分野において、性別を理由とした権利侵害や差別的取扱いを行ってはいけません。

2 誰であっても、家庭、職場、学校、地域など社会のあらゆる分野において、相手が望まない性的な言動や不愉快な思いを与える行為を行ってはいけません。

3 誰であっても、すべての男女間において身体的又は精神的な苦痛を与える暴力的行為を行ってはいけません。


cf.8美唄市美しきまちづくり条例 (平成20年3月26日条例第14号)

(公共の場所の清潔保持)

第25条 誰であっても、健全で良好な環境の確保と環境美化を推進するため、道路、公園、その他公共施設等若しくは他人が所有し、管理する場所に空き缶、たばこの吸い殻等のポイ捨てをしてはいけません。

2 誰であっても、公共の場所において、落書きをし、又は張り紙をしてはいけません。

3 ペットの飼い主又は管理者は、公共の場所において、ふんを放置する等他人の迷惑になる行為をしてはいけません。




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