曖昧な言葉は、可能な限り例規に用いない方が望ましい。やむを得ずこれを用いる場合には、定義規定を置くべきだ。
「郊外」という言葉を見聞きして、どのような意味だと思われるだろうか。
『国語大辞典[新装版]』(小学館)によれば、「都会に隣接した地域。市街地に隣接した田園地帯。市外。」とあり、3つの異なる意味があることが分かる。
①「都会に隣接した地域」というのは、都会に隣接さえしていれば、その地域が住宅地であろうが農村であろうが性格を問わないということになる。
②「市街地に隣接した田園地帯」というのは、人家や商店が密集したにぎやかな土地に隣接した田畑が広がる地帯という意味だ。
③「市外」というのは、市の区域外という意味だ。
このように「郊外」という言葉は、曖昧であって、人によってイメージが異なる。曖昧にならざるを得ない日本特有の事情があるのだ。
もともと「郊」という漢字の成り立ちは、邑(人の集まる所、むら、みやこ、くに)+交(烄、ひまつり)だ。古代支那の都市国家は、都市を高い城壁で囲んでいた。この城壁の外で天子が天地を祭る祭りを行った場所の意から、城壁の外で城に近い場所の意が生まれた。
周の時代には、城から50里(約20キロメートル)までを「近郊」、100 里までを「遠郊」としていた。古代支那の都市が高い城壁で囲まれた都市国家であった時代に生まれた漢字が「郊」なのだ。
600年前の明代の城壁が残っている世界遺産平遥
https://4travel.jp/travelogue/10254028
ところが、我が国の場合には、平城京や平安京のように、そもそも都市の周囲には城壁がないため、城壁の外で城に近い場所を指す「郊外」がイメージしにくかったのだろうか、いつしか上記3つの意味を表すようになってしまったのだと思う。
ちなみに、西洋も高い城壁で囲まれた都市国家だったことから、「郊外」に相当するsuburbサバーブ(英語)、Vorstadtフォアシュタット(ドイツ語)、banlieueバンリュー(フランス語)という言葉がある。「郊外」に相当する大和言葉がないのと対照的だ。
このように「郊外」は、曖昧な言葉なのに、例規や公用文に用いている自治体が多い。やむを得ず用いるならば、定義規定を置くべきなのだが、置かれていないのが現状だ。役所内部では共通認識ができているのかも知れないが、部外者には知り得ないから、読み手に配慮して欲しいものだ。
cf.1富山県商工業者等によるにぎわいと魅力あるまちづくり推進条例 (平成22年6月23日 富山県条例第27号)
本県の商工業者は、商品、サービスの提供等を通じて地域社会の絆きずなを結ぶ役割を担い、県民の豊かな暮らしを支えるとともに、固有の文化や伝統をはぐくみ、にぎわいと魅力にあふれた地域の創造に寄与してきた。 しかしながら、全国規模で展開される大型店等の郊外への立地と中心市街地や商店街の衰退が進み、これまで商工業者によって作り上げられてきた地域のにぎわいと魅力が失われかねない状況にある。(以下、省略:久保。)
cf.2松江市子育て定住促進宅地の貸付け及び譲渡に関する条例 (平成23年3月25日 松江市条例第25号)
(趣旨)
第1条 この条例は、郊外の定住拠点となる団地に子育て世帯の定住を促進することで、地域コミュニティーの再生を図るため、子育て定住促進宅地の貸付け及び貸付期間が満了した場合における当該土地の無償譲渡に関し、必要な事項を定めるものとする。
cf.3兵庫県の「まちづくり基本条例( 平成11年3月18日条例第29号)」
近代化の幕を開いた明治維新以降、経済の発展とともに、我が国の人口は著しく増加し、第2次世界大戦後の高度経済成長期には、農山漁村から都市へ大量の人口が流入した。 このような急激に変化した人口動態に対応して、我が国におけるまちづくりは、郊外での大規模なニュータウンの開発等に見られるように、増大する都市の人口の受入れ等に一定の成果を収めてきた反面、生活よりも経済性を優先し、個性に乏しい画一的なものになりがちであった。 (以下、省略:久保。)
0コメント